表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/48

第四話 聞く

「それで、名前がないとして、年齢とかは分かるのか?」


「分かりません。いつ生まれたのか知らないので……」


「ふーん」


 名前も年齢も分からない。

 そして、何かしらから逃走している最中である。


 問題というか、なんというか。

 大変そうな子だな。


 親の借金の連帯保証人にでもなったのか?

 未成年でもなれるのだろうか。


 どうしようかと俺が悩んでいると、少女が俯いて「ごめんなさい」とつぶやく。

 やっぱり、私なんか邪魔ですよね。もう迷惑はかけないように、とか馬鹿げたことを言いだした。


「何一人で責任感じてんだ。もうちょっと他人に迷惑かけるぐらいがお前ぐらいの歳の子には丁度良いだろ」


 年齢は分からないが、外見から考えるに10から15辺り。

 しかし、施設出身で禄に教育も受けていないのか心の発達が不自然だ。


 他者に対して敬語を使う事はできるのに、極端に自分を卑下する傾向にある。

 いや、教育と言うよりも育った環境によるものだろうか。


 色々と可能性があるが、正直いま彼女について可能性を考えたところで何も変わらないので、諦めるとしよう。

 彼女がその施設に戻りたいという発言を一回もしないところを見るに、施設には戻れない理由がありそうだし。


 取りあえず、名前と年齢。

 俺との関係性をしっかりと確定しておこう。


「じゃあ。まず名前から決めるぞ!」


「は、はい!」


 なぜか緊張した面持ちで、彼女は返事をする。

 別に名前決めるだけだぞ。


「何か希望はあるか?あと好きな何かとかでも良いけど」


「希望ですか……?」


「ん?そうだけど、どうかしたか?」


 いえ、何でもありませんと言って、彼女は考え込んでしまった。

 会話を無理矢理終わらせるように、俯いてしまう。


 それはまるで殻に閉じこもるカタツムリのようであり、少女の心の中にある拒絶心を感じさせた。

 なんか、自分がとても拒絶されてるみたいで悲しくなる。


 今にも溢れてしまいそうな涙をこらえながら、俺は彼女が希望を述べるのを待つ。

 が、いつまで待っても返答は帰ってこなかった。


「どうした、何もないのか?」


「いえ、その……私なんかが、助けてくれた人のお願いなんて……」


「助けてくれた人って言うよりも、お前自身に関する事だから。気にしなくても良いだろ。お前がいいなって思う名前を、決めるわけだし」


「私自身……?」


「ああ、そうだろ。だって、お前の名前だし」


 それに、俺はネーミングセンスがないからな。

 友達のペットの名前の候補として考え抜いた結果、その時食べたかったからあげって付けたら、ぶん殴られた。インコに料理の名前を付けるな!だってよ。


 今でも覚えているあの拳。

 もしも、もう一人いたアイツが止めてくれなければ俺はあそこで天寿を全うしていたかもしれない。


 というか、していた。

 間違いない。


 違う

 今はそんな話ではない。


「どうだ。何かあるか?」


「えっと……うーん」


 名前に使えそうな物を探すように、彼女は視線を泳がせる。

 探しているのか、悩んでいるのか俺にはよく分からない。


 この事務所には色々な物があるので、そのうち見つかるだろう。

 自分自身もどこに何があるのか分からないし、棚の上にだって段ボールが置いてあるので収納を見た目以上にある。


 いつ買ったか分からない物が多く。

 というか、分からない物しかないと言っても過言ではないレベルで分からない。


 そんな物が多いおかげか、彼女の目に何かがとまった。

 ぐるぐると動いていた顔や視線が、ピタリと制止する。


「ん?何かあったか」


「あ、あれとか。いいなっって」


 俺の質問に対して、彼女が何かをゆび指して返答する。

 その指は俺の背中にある物を指しており、ぐるりと回ってそれを見つける。


「星……か……」


 彼女が伸ばす指の先には、クリスマスに使ったツリーの上に付ける星がほこりを被っておいてあった。

 いつかのクリスマスであれを用意したけど忘れてった気がする。プレゼントだったかな? 忘れた物がそのまんまになっていると思う。そのはず……。


 しかし、名前に星を望むか。

 その場合星を名前にするべきは、星座とかを名前にするべきだろうか。


 スターとか? あと、シューティングスターとか?

 またあいつらに文句を言われそうだな。


 そこまで語彙力がないから、何も思い浮かばないんだよなぁ。

 何が一体良いんだろうか。


「星って意味の良い言葉知ってるか?」


「えっ、すみません。存じ上げません……」


 おいおいおい、なんかとても悲しそうな雰囲気を纏ってしまったぞ。

 俺の無知さが招いた質問なのに、なぜ彼女が申し訳なさそうな顔をしなければならん。


 それにしても、どうしようか。

 コッチから聞いたのはいいものの、これと言ったよいアイデアが出せないとは悲しいな。


 コッチも申し訳なくなってしまう。

 これならしょうがないような。


「ちょっと待ってろ」


 彼女にそう言って、俺は闇雲に立ち上がる。

 そして、机に戻り引き出しを開けてボロボロのガラケーを取り出した。


 それをパカリと開け、ポチポチポチとボタンをリズミカルに押して彼らに電話をかける。

 こういうときはアイツらに電話をかければどうにかなる物だ。


 今までそれでどうにかしてきたし、それしなきゃどうにもならなかった。

 名前ぐらいなら思いついてくれるだろう。


「な、何をしているんですか」


「あ?ちょっと信頼できる奴らを呼び出してるだけだよ。お前の名前とか色々決めてくれると思う」


 彼女の質問に対して、俺は安心させようとそう答えるが、誰に電話している様子は彼女にとっては自分を通報しているように見えたのだろう。

 アイツらが来るまで終始彼女は不安そうな顔をしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ