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第二話 その顔が美しい

 ぼんやりとした頭に、光が差し込み俺は目を覚ました。

 窓から侵入してきた日光が、顔にさしかかり眩しくて目が覚めてしまった。


 もうちょっと寝たかったのに。

 昨日、大金が手に入って飯の問題も家賃の問題もどうにかなると……。


 昨日……?

 そういえば昨日、俺はたくさんをお札を手に事務所に帰って。


 いや、違う。

 事務所に帰ろうとしたら、階段に女の子がいてその子に話しかけたら……。


「あっ!!!! 俺の金どうなった!」


 あんな外で寝てたら、俺の金が奪われちまう!

 あれがなくなったら、本当に俺の運命が決まっちまうぞ!!!


 と、大慌てで俺は体を起こす。

 すると、体にかかっていた毛布がずるりと落ち、柔らかな感覚に包まれていたことに気付いた。


「ここは……事務所? なんでここに……まさか無意識でここに戻ったのか……!」


 やっぱり俺は俺であり、それは俺という意識がなくても生存できるぐらい天才だったのか。

 毎日感じていたが、ここまでとは。


 俺の才能に心の底から感動しながら、ソファから立ち上がり床に足をつく。

 服装は昨日のまま、顔もなくなっているかと思ったが、まだ付いているようだ。


 ポケットに手をつっこむと、昨日入れた物がそのまま入っていた。

 もしかして、この記憶は偽物だった?


 それに、お金は一体どこに行ったんだ。

 俺の体よりも、今の俺にとってあっちの方が。


 大事に握りしめていたお金がなくなり、俺は慌てながら周囲を探る。

 机の上にはもちろんなく、俺がいつもかっこよく座っている大きなデスクの上にも置かれていなかった。


 すると、視界の端で何かが動いた。

 なんだとそちらに視線を向けると、改めて見ると不審な毛布が存在した。


 俺の向かい側の椅子に横たわるように置かれており、中に何かが入っているのか大きく盛り上がっている。

 それに、時々もごもごと芋虫のように動いていた。


「芋虫……まさかな」


 これほど大きな芋虫がこの世に存在したとは驚きだ。

 これを売ったらいくらになるんだろう。


 大量に重ねられた札束が脳裏をよぎった。

 たくさんのおじさんがこっちを見ていた。過去に良いことをした人らしいけど、札に書かれている人物なんて俺に関係ないので覚えていない。


 札に書かれている暇があったら、今の俺を救う術を教えて欲しかった。

 過去の人物は信用できない。


 札に印刷された人物に悪態をつきながら、俺はゆっくりと毛布に手を伸ばす。

 もしも本当に大きな芋虫なら、是非確実に傷を付けずに捕まえたい。


 そして、肌触りのよう毛布に手が触れたのを感じ取った瞬間ぐっと力を込めて掴み、引っぺがす。

 するとそこには、つい昨日俺が気を失う直前に見た少女がいた。



               ☆☆☆



「ふーん。あのじいさんが俺を運んで、さらに君を事務所に入れたと……」


「は、はい。そう……です……」


 毛布を引っぺがし、彼女を見つけた後。

 その直後に彼女が目覚め、開口一番「説明をさせてください!!!」と必死な様子で言うもんだから、説明を聞いているのが現状だ。


 どうやら、俺は昨日しっかり気を失っており、ここのビルを管理しているじいさんに事務所まで運ばれたようだ。

 まあ、あのじいさんは結構定期的に歩き回っている人だし、俺が気を失ってからそれほど時間が経たずして回収されてるだろう。


 一時間に二十四回はいつも会っている。

 あれ、一日だったかな?


 まあ、いいや。

 そんなじいさんが歩き回っているときに俺が発見され、そこに丁度いた彼女を俺の連れだと思い、じいさんは部屋に入れたらしい。


 あのじいさんぼけてはいないはずだけど、俺にこんなガキの連れがいると思ったのか。

 俺に親族はいないって、入居のときにいったはずだけどなぁ。


「なるほど。わかった! 色々あったけどこうなったわけだな!」


「ま、まあ、そうですね。色々ご迷惑おかけして……申し訳ありませんでした」


 正直よく分からないところが多いが、気にしても良い事なんてないので理解したところだけ理解していれば良いだろう。

 そうすれば、全部分かったと同義だからな。


 それに、なぜだか知らないがこの子も謝っているし、少女の謝罪に免じて名探偵の俺は許すとしようじゃないか。

 何のことを謝られてるのか、分からないけど。


「いいよいいよ。許す許す。じゃあ、飯だな」


 理解もできたし、謝罪もされた。

 気が緩んで腹が減ったと言う事で、俺が朝食を作ろうと立ち上がると、少女が呼び止めてきた。


「あ、あの!」


「ん?」


「私がいることとか、昨日何があったかとか気にならないんですか……?」


 不思議そうというか、心配そうというか。

 何かに怯えるような雰囲気を帯びた彼女が、色々と聞いてくるが、


「どうでもいい。俺は探偵だからな、何でもお見通しだよ」


 ふんっ、と特技げに胸を膨らませると、彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 ぽかんと、小さな口を開ける。


「ふふっ」


「ん? どうした」


 少女は、楽しそうな顔をして笑った。

 口元を少しだけ隠して上品そうに笑う。


 どうして笑ったんだ?

 何か面白いことでも言っただろうか。


「いえ、なんでもありません……でも」


「でも?」


「安心しました」


 今までとは打って変わって、彼女は透き通った絹のような笑顔でそう言った。

 心の底から思っていると、確信できる微笑みだった。


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