第十八話 帰宅(別人宅)
帰り道でしなくてはいけないことは監視カメラが他の家に付いているかの確認。
そして、不動産屋によってあの住居周辺の価値を知ることだ。
と、やるべきことを言ったわけだが。
結論をパパッと言ってしまおう。
人の家に監視カメラが付いているかの確認の様子や、ペコペコしながら不動産屋から情報を聞き出す様子なんて誰が興味あるだろうか。
少なくともいろんな人にやばい奴認定された気がする。
名は広がりそうだけど、あまり良いイメージを持ってもらえなさそうだ。
それは印象が客の来訪に左右される探偵には大問題だ。
憲兵とかからお呼ばれするほど有名ならまだしも、ただの無名がその悪いイメージを持たれていたら救いようがない。
この事件を解決して、どうにか良い印象を取り戻す必要がある。
結論を言うといってから、脱線しまくったが今度こそ本当に言おう。
防犯カメラの話で言えば、大体の家に防犯カメラが設置されていた。
まあ、そうだよな。金持ちの家だ、防犯意識が高いのは当たり前だろう。
金持ちであるからこそ、金に重要性を知っているはずだ。
まあ、不動産屋に確認してもらったところあそこは、この街一番の高級住宅街だった。
ウン千万の値段をかけて土地を買い、その倍の金をかけて家を建てるような世界らしい。
数枚の札を、必死にかき集めるような俺とは大違いだ。
やっぱり、金持ちからすれば金なんてただの紙切れかもしれない。
無尽蔵に溢れかえり、限界のないもの。
それがきっと金持ちの金に対する考えだ。
絶対にそうだ。
そうじゃなきゃ、簡単にウン千万なんて使えるわけがない。身も削る思いで買うなんてことしたことなく、俺が道ばたに落ちている小銭拾うような感覚で消費しているんだ。
そんな偏見を考えている俺の横には今シリウスがいて。
そんな俺たちの目の前には麻音の家がある。
予定通り、麻音の家に来た。
一歩進めば進むほどギシギシと、部屋までの道が歓迎の音楽を鳴らしてくれる。
さすがに歩いている途中で穴が開くなんて事はなかったが、いつか開きそうで怖い。
取りあえず、俺たちがいる間に起きないことを祈っておこう。
「ここが麻音さんの家ですか?」
「ああ、この薄汚い扉の奥に麻音の部屋がある」
本日三度目のインターフォン。
いくつものトラウマが蘇り、俺の体はいつの間にか恐怖によってゆれ─────ポチ
そんなわけあるか。
麻音の部屋のインターフォンを押すぐらいでビクビクするほど、俺は残念な奴じゃない。
インターフォンの音が聞こえたかと思えば、中から返事が聞こえた。
はーいという、当たり障りのない至って一般的な返事だった。
俺との会話をしている麻音を考えると、思い浮かばない返事だ。
もし、扉の前に俺がいると知っていたら罵声が飛んできていることだろう。
「はーい、どちらさ───チッ」
「おい」
何で俺の顔を見るなり舌打ちなんだよ。
まだ「え」とか「は」とかの方が、救いがあったわ。せめて驚けってんだ。
「なによ、シリウスちゃんまで連れてこんな夜に」
「まだ夕方だろ、一泊させてくれ」
「なんでよ、どうしてアンタなんかを泊めなきゃいけないの。馬鹿じゃないの、もうちょっと頭使っ─────」
「シリウスが気になったらしい」
「今日の夕飯は餃子よ。良かったね、シリウスちゃん」
「え……う、嬉しいです」
急な態度の変化にシリウスが対応できなくて笑顔が引きつってるじゃないか。
というか、俺の方を見ろよ。
シリウスの話になった途端、俺があたかもいないかのように話し始めるな。
俺を置いて、麻音はシリウスと一方的に会話を始める。
「じゃあ、シリウスちゃんは私が責任もって一緒に寝るから」
そう言って、麻音は俺の手から麻音を奪おうとする。
遠慮なく伸びてきたその手を、俺はシリウスの手を握っていない右手で捕まえる。
「俺も泊まるぞ」
「は? 何言ってるの、泊まるのはシリウスちゃんだけでしょ」
「んなわけないだろ、保護者として俺も一緒に泊まるぞ」
俺の発言に、麻音は心の底から不快そうな顔をした。
本人が目の前に居るのに良くやるわ、コイツ。
ぶっ飛ばしてやろうか。
それかあの部屋の札全部がはしてやろうか。
すると、麻音はうーんと何か考えているかのように唸りだした。
顎に手を置いて、それっぽくかっこつけている。
「寝る前になったら憲兵に通報するのってあり?」
「なし」
「今通報は?」
「なしよりのなし」
「私にある選択肢は?」
「俺とシリウスを受け入れる」
「氏ね」
平和的な話し合いで、俺とシリウスは麻音の部屋に入ることに成功した。
終始シリウスは俺たちの会話に付いていけず、話しかけられたときの返事以外見ているだけだったが、本人は案外楽しいそうだ。
なんでも、面白い会話だからどれだけでも見ていられるとか。
この会話は面白いのだろうか。俺にはストレスが貯まる一方で楽しいなんて感情微塵も湧いてこないが。
第一者と第三者の視点の違いはこうも感情に影響するのか。
驚きだ。
「はぁ、シリウスちゃんだけ居れば良いのに、なんでこんな邪魔な奴まで……」
グチグチと文句を口から溢している麻音に続いて、俺とシリウスはやっと麻音の部屋に入ることになった。
今夜は体も頭も疲れたので、二人ともぐっすり出来そうだ。
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