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第十七話 隣人

「まず、貴方は二年前にあった事件について知ってますか?」


「はい、隣の家が燃えましたからよく知ってますよ」


「じゃあ、憲兵の方からも色々聞かれている感じですか?」


「はい、何時に何をやっていたか。それを証明できる証拠はあるか。また、家の中も一応私の立ち会いの上で、これでもかと探されました」


 一口、彼女はお茶を飲む。

 憲兵に色々聞かれたのか……じゃあ、憲兵が聞きそうな質問をしても意味がないか?


 いや、意図的の情報に規制が入っていて依頼主に伝わってない情報もあるかもしれない。

 一つ一つ丁寧に聞いていくべきだな。


「じゃあ、その時聞かれたことと返答を聞かせてもらえますか?覚えている限りで構いません」


「はい……えっと、まずはさっきも言いましたがその時に何をしていたかですね。その時は出かけていて家に居ませんでした。証拠としてレシートを提出しました。お持ちしましょうか?」


「いえ、取りあえずは全ての質問をさせてください。後で色々と物を持ってくるときにバラバラじゃあ面倒ですから」


「そうですね……次に─────」


 憲兵はまず隣人が犯人か疑ったのか。

 家が隣接している分入りやすいだろうし、逃げるのも簡単だ。


 おまけに街を歩く必要がないので、目撃される可能性が限りなく少ない。犯人の目撃情報がない以上、疑われてもしょうがないな。


 犯人が分からない以上、全てのことを疑っていく必要がある。

 彼女の言ったアリバイは、実は偽の物で意図的に作られたレシートではないかとかな。


「出かける前と後で不審な人物を見たりしなかったかも聞かれました」


「それで?」


「見ていないと答えました。それに、私は事件の起きる三時間前に出ていましたし、帰ったときには家の周りの憲兵が通行止めにしていたので……」


「三時間も時間差があったんですか……なら、犯人は見えないですね」


「それに防犯カメラにも写っていなかったのでおそらく、こっち側ではなく反対側から来たんじゃないかって、憲兵に人は言ってました」


 あのジジイの家があった方の道から来たのか。

 そういえば、あのジジイの家にはカメラらしき物体はなかったな。証拠がないのも納得だ、あれでは犯人が見当たらないだろう。


 でも、向かいの家にはあるんじゃないか?

 向かいに家にカメラがあるのか見てなかったな。後で見とくか。


「他には何か聞かれましたか?」


「人間関係についても聞かれましたが、この辺の人はあまり関わりを持たない人が多いので……」


 またしてもあのジジイが思い浮かんだ。

 あんな感じに人がたくさんいるわけじゃないとしても、あんな感じで拒絶している人が多いのか。


 なんとも悲しい関係だな。

 まあ、俺も同じビルにある会社の人に会ったこともないけど。


 人間関係についての話は、依頼主に聞いた方が良さそうだな。

 恨まれるようなことをしたかとか……あと、奥さんと結婚するときに何か周りに怪しい人はいなかったかとか。


 奥さんだけが殺されて旦那が殺されていないのは、もしかしたら過激な略奪愛の可能性だって捨てきれない。

 可能性は無限大だ。


「あとは……ごめんなさい。思い出せないわ」


「いえ、ここまで思い出していただいてありがとうございました。そうですね、こちらからも少し質問いいですか?」


「はい、もちろんです」


「今の隣の家が出来たのはいつか分かりますか?」


「えーっと、大体一年ぐらい前だったと思います。隣の家の残りが片付いて更地になってすぐに工事が始まりました」


 うるさかったので良く覚えていますと、少し微笑みながら言われた。

 事故があったのにもかかわらずすぐに新しい人が来たのか……まあ、高級住宅街のようだし金持ちには憧れの土地なのだろうか。


 こんなところ初めて来たからよく分からん。

 あとでこの土地について不動産屋でも良いから聞いてくるべきだな。


 防犯カメラとこの土地について聞く。

 やることが増えていく。


「新しく来た隣人とは関係は持ってますか?」


「いえ、最初の挨拶以外と特に話してません。それに家を出る時間帯も夫と違うようですので、見送りの時も見る日はないです」


 ふーむ。

 あの家に住んでいる人物について知れたらと思って聞いたが、何も収穫がなかったな。もしかしたら、家で仕事をするタイプの職業なのか?


 一度考えを整理するために、出されたお茶を飲む。

 少し冷めてしまっていたが、とても美味しかった。


 隣のシリウスに目を向けるとお茶は飲み終わっており、幸せそうな顔をしていた。

 お茶のおかげで緊張もなくなってしまったようだ。


 ……この人が犯人の線は薄いか。

 他にも、色々な人に聞いて各々の証言に矛盾が生じないか確かめたらいくつ問題が出てきて欲しいな。


 例えこれが隣人の犯行でないとしたら、誰か見てる人がいるはずだ。

 でも、憲兵ですら尻尾を掴めなかった犯人……並大抵の捜査ではいないのではと錯覚してしまうほどの、頭のキレる奴だろう。


 ここらに住んでいる人全員が、何も知らないなんてことありえるのか?

 こういった事件の捜査は初めての分際で何が分かるんだと言われたらあれだが、ここまで完璧に犯人がいないものなのだろうか。


「質問は以上です。お手数おかけして申し訳ございません」


「いえ。なら、レシートの方お持ちしますね」


「ああ、お願いします」


 そういえば、レシートを見せて欲しいって言ってたな俺。

 次にやることを考えていて忘れていた。


 失礼します、と言って彼女は出て行った。

 二年前のレシートなんか保管しているものだろうかと思ったが、あれがないと自分が犯人にされるかもしれないわけだから不安になって捨てられないか。


 もし急にコッチに憲兵の目が戻ってきたときに、今は捨ててしまいましたでは犯人にされかねない。


「……ん?」


 その時扉がノックされた。

 帰ってきた? それにしたってレシート持ってくるだけだ、わざわざ内側から扉を開けてもらう必要ないよな。


 実はすごい量買ってて両手いっぱいにレシートを持った人が出てくるとか言うギャグ展開だったりする?

 ツッコミの準備した方が良い?


 とりあえず扉を開けるかと立ち上がると、勝手に向こうから扉を開けた。

 すると、ひょこっと先ほどの案内してくれた彼女が顔を出した。


「あれ、お母さんいないの?」


「ああ、今ちょっとお願いをしててな」


「ふーん……じゃあ、いいや」


 ふらっと現れた彼女は目的の人物がおらず帰ろうとする。

 しかし、俺はそれを止めた。呼び止めてしまった。


「え? なに」


 俺の呼び止めに彼女は不思議そうな顔をする。

 そりゃあ、突然知らない男に呼び止められた心の底から不思議だろう。不審者認定されたっておかしくない。


「電話番号聞いていいか?」


「もしかして一目惚れされちゃった? 恋しちゃった?」


「いや、一応聞き込みを行った人と連絡が取れたらなって」


「だったら、お母さんに聞くんじゃない?」


 その通り。間違いなくこの発言は正論だ。

 だが、なんか嫌。


「どうしてもって言ったらしてくれるか?」


「うーん、じゃあ、はい」


 はい、と彼女は俺の前まで来て紙切れを渡してきた。

 紙切れというよりかは名刺か。名前と電話番号とよく分からないことが書かれている。


「名刺?」


「うん、そう。ちょっと前にかっこいいと思って作ったんだけど使い道なくて、お兄さんが世界で唯一それを持ってるよ。なにしろ一点物だからね」


 その後、俺の名刺を渡すと「なんかかっこ悪い名刺だね」と言って、彼女は去って行った。

 なぜ名刺のデザインで侮辱されたのだろうか。あれ作ろうとした時にアプリに入ってたテンプレの奴なんだけど。


 彼女が言うかっこいい名刺に書かれた番号をガラケーに打ち込んでいると、隣に座っているシリウスがむすっとした表情で俺に近づいてきた。

 何やら怒っているご様子だ。


「淳平さんはあの子に一目惚れしちゃったんですか?」


「ん、違うよ。一応連絡を取る術ぐらい持っておこうと思ってね」


「だったら、あの人じゃなくてお母様の方でも良かったじゃないですか」


「それじゃあ、ダメだよ」


 なんで、とシリウスは首を傾けるが、それと同時にレシートを持ってきた彼女のお母さんが帰ってきた。

 レシートの日付は事件があったと記事に書かれていた日付と一致していて、アリバイはしっかりとある様子だった。


 感謝と、お茶が美味しかったことを告げて俺は立ち上がる。

 彼女のお母さんに見送られて、俺は家を後にした。


 取りあえず、防犯カメラを見ながら不動産屋に寄りますか。

 その後は麻音の部屋に向かうとしよう。


 そろそろ日が傾いてきており、そのうち日が沈みそうだ。

 アイツの部屋に行く頃にはきっと、日も沈んでるだろう。


 シリウスの手をしっかりと握って。

 俺は新たな目的地へと向かうのだった。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 それではまた次のお話で会いましょう

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