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第十六話 お話

 あの家から撤退した後、ファミレスに逃げ込んだ俺たちは丁度良いのでそこで昼食を済ませてから、戻ってくる。

 犯人が現場に戻ってくると言うのはこのことだろうか。


 いや、別に俺たちなんの罪も犯してないけどさ。

 こっちは仕事でやってんだ。この程度でへこたれるか。


 へこんでいたシリウスも、唐突な逃走劇か美味しかったファミレスの昼食のどちらかによって、今はとても幸せそうだ。

 あのじいさんの家が見えてきたが、憲兵はいないのでもう帰ったか、はたまた呼んでいないかのどちらかだろう。


 とりあえず、誰も居ないと言う事で自由に聞き込みをさせてもらおうじゃないか。

 隣人だって別にじいさんの事だけ指すわけじゃないんだ。アイツは右側に家があったが、左側の人だって隣人だ。


 コッチに人はもう少し落ち着きのある人物であることを祈ろう。

 まあ、別にまだまだ聞き込みが出来る家は周囲にあるが、数が合った方が情報の信憑性も増すし、おかしいところにも気づける。


「こ、今回こそは私が!」


「いや、俺の仕事だからな。シリウスはあくまで助手だ」


 最初こそ経験も必要だろうと思って許可したが、シリウスが傷つく可能性があることを何の計画もなしに許可できない。

 失敗に失敗を重ねてしまえば、精神に亀裂が入ったっておかしくない。


「分かりました……お役に立てず、申し訳ありません」


「シリウスが役に立ってない?笑わせんなよ。お茶だって入れてくれてただろ?それに事務所の掃除だってやってた」


 少なくともシリウスがいたから、事務所も俺も変わってるしな。


「助手の仕事は探偵じゃない。そう言うことだ」


「……は、はい」


 シリウスの頭をポンポンとしてから、俺は再びインターフォンへと近づく。

 二度目のピンポン。前回のじいさんの罵声のせいで少しトラウマがよみがえる─────ことはなく、普通に押した。


 あのじいさんの顔を合わしての対応だったら、俺も少しぐらいひよってたかもしれない。

 だが、顔をあわしてないのでひよっていないんでな! 気にしない!


 押してから少しの待機時間。そして、じいさんの時と同じようにブツッと音がする。

 それと同時に、インターフォンから声が聞こえた。


「はーい。どちら様でしょうか?」


「こんにちは、探偵です。実は二年前に起きたお隣の事件のことを今、ご依頼を受けて聞いてまして。良かったら、インターフォンごしでも構いませんのでお話させていただけないでしょうか?」


 完璧な対応。

 探偵始めたての時に買った本に、こんな感じで聞き込みをするときは話をしろって書いてあった。


 これをすれば憲兵に通報されることは減るそうだ。

 自分の身元と目的を伝え、相手を無理矢理外に連れ出そうとしないこと。それが一流の探偵のやり方らしい。


「ああ、分かりました」


「では─────」


 了承がいただけたと言う事で、俺は質問を早速しようとする。

 が、そこからの向こうの発言は俺が想定していた物とは違った。


「迎えに上がりますので、しばらくお待ちください」


「え?」


 アホみたいな声が出た。

 え、迎えに来るの?


 俺的には危ないから敷地内に入る事は許されないと思ったのだが、大丈夫なのか。

 いくらなんでも急に来た身元がよく分からない奴を、家に入れるのはどうかと思うぞ。強盗だったら抵抗できないだろ。


 金持ちのみが有する余裕だろうか。

 金があることによって、心の余裕も保たれるということか?


 俺に対する嫌みか。

 ふざけるな。


「淳平さん、どうしたんですか?」


 インターフォンに応対するために少しかがんでいた俺が姿勢を戻した事を疑問に思い、シリウスが話しかけてきた。

 あのじいさんの事を思い出して、また断られたのかと心配そうだ。


「家の人が迎えに来てくれるってさ、家で話を聞くつもりらしい」


 もしかしたら、門越しに話だけかもしれないけど。

 さすがにわざわざここまで来て門越しで話すなんて事ないか。だったら、インターフォンで良いはずだ。


 さて、いつ来るのだろうかと待っているとすぐに扉から錠の開く音がする。

 案外早いな。


「お兄さんとそこのちっちゃいのがお客?」


「あ、ああ」


 応対してくれた人と違う人(だと思われる)が出てきた。

 やけに馴れ馴れしく、俺とお前は知り合いかとツッコみそうだった。


「じゃあ、こっち来て」


 適当な確認を終えたら、彼女は俺たちを家の中へと案内してくれた。

 敷地は外から全く見えなかったが、豪邸と言われて想像するような庭だった。


 想定内だが、やはり純粋にすごいと思ってしまう。

 シリウスの口は可愛らしくぽかんと開いている。


 少し長い庭の道を歩き、俺たちは豪邸に招かれる。


「中はお母さんが案内するから」


 そう言って、彼女は扉を開けてた。

 シリウスの手を握って、俺も中へと入る。


 豪邸の中はどれだけの靴が置けるのか分からない玄関に、高い天井の上で圧倒的な存在感を放っているシャンデリア。

 白を基調とした部屋は、窓から入る日光によってとても明るい。


「じゃあ、お母さんあとはよろしくね~」


 ネズミのように俊敏に、彼女は言葉を残して去って行った。


「あっ、待ちなさい!」


 それはお母さんと呼ばれていた女性が注意する。

 あの子とこの人は親子関係にあるようだ。


「すみません、うちの娘が」


「いえ、自分たちの急に押しかけてきた者ですから、申し訳ありません」


 どこかの誰かと違って丁寧な対応に、自然と俺の口調も丁寧になる。

 いや、嘘だ。例え相手が犬であろうとこれから色々と聞く相手にタメ口で話すわけがない。


「いえいえ。それでは、あちらに部屋で話をお聞きします」


「はい、お願いします」


 あの子の母親に案内されて、俺たちは応接室と思われる部屋に案内された。

 母親はお茶を入れていくると言って、どこかへ行ってしまった。


 俺の隣には、ガチガチに固まったシリウスが居る。

 最初こそシリウスを安心させようと俺が手を握っていたが、今では少しでもシリウスが安心したいと自分の力で俺の手を握っている。


 その力の強さでどれだけ緊張しているのかがしっかりと伝わってくる。

 手が痛いと感じる程度には緊張状態のようだ。


「シリウス、基本的に俺が仕事をするから落ち着きな」


「で、でも、私の行動で淳平さんに何か悪いイメージが付いたら……」


「大丈夫だって、シリウスを見て印象を悪くする人間なんていないって」


 どっちかというと俺の対応によって自業自得な理由で印象が悪くなりそうだ。

 シリウスのせいで印象が悪くなる日は、世界の滅亡と共に訪れるだろう。


「お茶をお持ちしました。送れてしまってごめんなさいね」


「いえいえ、遅いなんて思ってませんよ、お茶の用意なんてさせてしまって申し訳ないです」


 お盆に乗ったお茶のカップを俺とゼンの前に置き、自分の前にも置いて母親は座った。

 その座り方は上品そのもので、気品を感じた。


 これが金持ちの余裕……ッ!

 恐ろしい。


「それで二年前の事件の話でしたっけ?」


「はい、こちらの質問にお答えしていただければ結構ですし、嫌だと思われたら答えなくても結構です。あっ、こちら名刺です」


 完全に忘れ去っていた名刺を急いで渡す。

 相手に信用してもらうためには、交渉前に名刺を渡した方が知らない人は勝手に安心するとか。


 あくまで俺は訪問者であり、憲兵のように強制力のある操作はもちろん、圧のようなものもない。

 圧倒的なまでの任意の聞き込みしか出来なく、権力に極端に弱い。


「それじゃあ、始めましょうか」


 だから、探偵は弱っちい生き物で。

 最高にロマンがある職業だ。

 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 それではまた次のお話で会いましょう。

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