5話 違和感
『ダンジョンって……。駄目です! 冒険者以外の人間がダンジョンに踏み入るのは禁止されていて、10年間牢に入れられるか、100万ゴールドの支払いが――』
「別に構わないぞ」
「ありがとうございます!!」
『ちょ、ちょちょちょちょっとぉ!!』
僕の言う事を無視して剣は簡単にシノラさんの要望を受け入れた。
僕、ご主人様っていう立場だよね?
『まぁ落ち着けよご主人様』
『落ち着けって……誰の所為で僕がこんな――』
『発生しないはずの場所に沸くモンスター。この男の様子。多分だが、【スタンピード】が起きた、いや、起こした』
『【スタンピード】!?』
原因は不明だけど、ダンジョン内のモンスターが増殖、更には暴走して溢れ出し、周辺の地域を侵略し出す現象。
普通ならそういう予兆を読み取って、冒険者達や兵士達が大規模な討伐隊を組んで準備も整えた上で増殖したモンスターを減らすのに……。
もし剣の言うことが本当だとしたら、そういった準備をする時間が足りな過ぎる。
それに【スタンピード】が人為的に起こせるとなれば……その原因は直ちに排除しなければいけない。
『さっきのモンスター達を見る限り、深い階層のモンスターは増えてないし……。まぁ余裕だろ! 丁度いいから俺が魔法のレクチャーもしてやるよご主人様!』
『なんでそんなに楽しそうなんですか!? 死ぬかもしれないんですよ!』
『大丈夫大丈夫! 俺がいるんだから大船に乗ったつもりでいればいいって』
『その態度が逆に不安なんですが……』
「あの……。やっぱり駄目ですか?」
僕達の会話は他の人には聞こえない。
どうやらシノラさんはずっと喋らない僕達に不安を感じたみたいだ。
というかこの人って一体何者だ?
ダンジョンから来たみたいだから冒険者?
あっ、その前に【スタンピード】起してるんだから……この人犯罪者です。
「あ、すまんすまん!! 大丈夫だ。あの程度じゃまだまだ暴れ足りんからな!」
「そ、そうですか! 流石【賢者様】です! いやぁどこの国でも【賢者様】というのは本当に心強いですね」
「【賢者】……。ふふふははははははっ!!」
「その、俺なにか面白い事言いましたか?」
「いやいやいやいや! 気に障ったなら申し訳なかった。ふふふ……そうかそうか。この地は、この地に蔓延る人間は……。これは楽しくなってきたかもしれんな」
不敵に笑う剣。僕を【賢者】と呼ぶシノラさん。
ただでさえ魔法について、この剣について、一気に詰め込まれる情報で頭がパンクしそうだっていうのに……。
『うーん……』
『どうしたご主人様? そんな呻き声を上げて?』
『感情を共有しているのだから何となく察してください』
『ご主人様がそんなに不安がる必要はないって。それどころかこの一件でご主人様の町での評価はうなぎ登り! それにこの男の言葉をご主人様も聞いただろ? この国の外ではご主人様と同じ風貌の奴らが【賢者様】と呼ばれている。という事は……』
『という事は?』
『たぶん生きてるんだよ。この世界のどっかで、【悪魔】が。しかも人間の格好で自分達を崇拝するような国を作ってね』
『それって――』
「ダンジョンの近くまでは馬車で向かいましょう! ささ、早く乗ってください!」
『詳しい話は後だ。取り敢えず乗り込むぞ』
シノラさんに会話を遮られると、僕達は一先ず馬車に乗り込む事にしたのだった。