4話 勝手
『本当は8時間ぐっすり眠るつもりだったんだが、ご主人様から俺に流れ込む焦燥感、不安、苛立ち、そういった感情が鬱陶しすぎてなかなか寝付けなくてな』
『僕の感情が伝わるんですか』
『俺達が結んだ主従契約っていうのはそういうもんだからな。例えばご主人様が痛みを感じれば俺も感じるし、ご主人様が死ねば俺も長い眠りにつく。はぁ、それにしても今度のご主人様は何にも知らないんだな』
『僕の意思で結ばれた契約ではないので』
『でも、ご主人様は強くなって憎い相手に、社会に報復したいんだろ?』
『それは……思わないでもないですけど』
『なら、この主従契約はご主人様にとってもメリットだらけさ。事実、今だって俺の【ブースト】のお陰で危機一髪の状況を回避出来たし、武器屋でも難を逃れられただろ?』
『その事に関しては感謝してますけど……。それでその【ブースト】っていうのは――』
「おいおいおいおい。なんだよこれ……」
爆発によって眼前に広がった灰色の煙。
その中から1人の男性の声と、ガタガタと馬車の揺れる音が微かだが聞こえてきた。
声のする場所から察するにそこそこな距離があると思う。
ここにソルスパイダーが現れた理由を聞きたい気もするけど、この騒ぎを起こしたのが僕だとバレたら……。
「本当に悪魔として扱われるかも……」
僕は慌てて背を向けると町に向かう。
『何で逃げるんだ?』
『このままここに居たら僕の所為だと思われるからです』
『それは駄目な事なのか?』
『はい。今まで僕は銀髪の悪魔と呼ばれて皆に嫌われてきました。それでも僕自身は人間であり脅威とはならない、だから町の人達から酷い苛めを受けても命を奪われることはされてきませんでした』
『でも今日剣で刺されたよな?』
『あれは本当にイレギュラーな出来事でした。あそこまで僕自身にひどい事をされたのは初めてです』
『初めてねぇ……。それってただ今まで運が良かっただけじゃないのか? 同じ様にしてたら今日みたいな事が2回3回起きてもおかしくはないと思うが』
『……』
『本当に報復したいって思うなら自分から行動しないと駄目だろ。それにそんな逃げ腰のご主人様だと俺も困るんだよ、なっ!!』
『あっ!!』
武器屋の時と同じだ。
突然、身体が言う事を聞かなくなって勝手に動く。
『あのっ!』
『うじうじしてるご主人様の為に、この俺が働いてやろうって言うんだ。口出ししないで大人しくしてろ』
剣に乗っ取られた身体は町とは反対方向に一歩踏み出し、男性の声がする方へ動き出した。
頼むから、余計な事だけはしないで欲しい。
「おい」
「えっ? 君は?」
剣は煙をかき分けると男性を見つけ出し、あっという間に距離を詰めた。
男性はたまたま後ろ向きだった事もあって、声を掛けられたことに相当驚いているようだ。
「ここに発生したモンスターはこの俺が全て燃やしてくれた! そう、この俺が!!」
はっずかしっ!!
親に褒められたい子供みたいな事を言い出してしまった所為で、男性の目が余計に丸くなってしまった。
あーもう絶対ヤバい奴だと思われた。
「本当に君が?」
「勿論だ!」
「あれだけの数のソルスパイダーを?」
「ん? だからそう言ってるだろ」
「そういえばその髪に目……。いやぁ、俺ってばめちゃめちゃついてるかも」
僕の姿を見ても男性は嫌な顔も蔑むような顔もしない。
それどころちょっと嬉しそうな……。
「あのっ!」
「ん? なんだ?」
男性は唐突に地面に膝をつけ、綺麗な土下座を見せる。
『ほら見ろ! 力を持っている事を知らせれば人間なんて言うのは簡単に跪くんだって!』
『いや、こんな事……絶対何か裏があるは――』
「その力を見込んでお願いします……。俺の名前はシノラ。俺のこれからの為に……ダンジョンへ同行してください」
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