3話 第9級火炎魔法
『おーい』
頭の中で剣に話しかけるけど、やっぱり返事はない。
この剣が何者? で何であの店にあったのか。
自分が主人になる事が出来た理由の1つである純度の高い魔力というのはどういう事なのか。
もしかしたら自分の瞳が緋色な事、それにこの銀髪もそれの影響なのかもしれないけど、それも分からないまま。
「ルーシア・メリウスは銀髪の悪魔……か」
小さい頃から大人達が僕を見ては呟いていた言葉。
この大陸【テルシアド】に暮らしていたっていう【勇者アノル】の伝記を読むと悪魔の存在は確かにあってその殆どが銀髪、銀髪でない悪魔でも緋色の瞳をしていたらしい。
でもそんなのはもう何百年も昔の話。
悪魔が出たなんていう話は今の時代どこに行っても聞こえてこない。
それこそ、オリハルコンやミスリル、アダマンタイトといった伝説的な鉱石が存在したという話と同じくらい聞こえてこない。
だっていうのに、大人はみんな僕を見て悪魔の血といって差別する。
これが僕にとってはずっと不思議でしょうがなかった。
なんでこの大陸に住む人達は、悪魔という存在に敏感なのか。
「……考えても仕方ないか。今は練習練習」
そう。僕は取り敢えず剣の言う事を聞いて魔法の練習をする為に、町の外に広がる平原に移動していたのだ。
僕は冒険者ギルドに所属していない上に商取引などの理由ではないから、町の外壁に備え付けられた門を通る為、毎回10ゴールドを支払わないといけない。
それでも碌な働き口がない僕は、こうして度々外に出てモンスターを狩って素材を集めてそれを売り、生計を立てている。
冒険者ギルドで冒険者登録が出来ればこの10ゴールドが無駄にならないし、クエストで報酬も受け取れるんだけど……。
あそこも他の職業と一緒で印象の悪い奴は仲間として認めてくれないんだよなぁ。
「それにしても……本当にこの僕が魔法を使えるなんて」
思考を巡らしながらも、掌の上に火の玉のイメージを浮かべると実際にそのイメージがそのまま投影される。
イメージによって若干の大きさの変化が出来た。
ただ、それ以上の変化はどう足掻いても出来ない。
元々魔法の修行はした事がないけど、これ以上は呪文の詠唱とかが必要なのかもしれない。
「んう、これじゃあモンスターに対しては使えないか。攻撃範囲の広い魔法が使えれば、もっと効率よくモンスターを倒せると思ったんだけど――」
「ふしゃ?」
自分の魔法の実力に落胆していると、突然目の前の土が広い範囲で盛り上がり始め、モンスターの顔がひょっこりと現れ始めた。
数はおおよそ30。
モンスターの名前は【ソルスパイダー】。危険度D。蟲類。
前に1度だけこの草原を抜けたところにある森の出入り口付近ではぐれた個体に出会った事があるモンスター。
確かあの時は、一応10年以上鍛えた剣術があるから大丈夫だと思って戦いに挑んだんだっけ……。
でもあの時って……。
「ふしゅっ!!」
そうそうこうやって少し遠くから糸を吐かれて足を固められて、身動きが上手く出来なくなったから、技術もへったくれもないごり押しで……。
それでもなんとかぎりぎり倒せたんだよね。
「……。う、う、うわあああああああああぁぁぁぁぁ!!! く、来るなぁ!!」
あの時と今じゃ状況が違い過ぎる。
絶対ごり押しで何とかなる数じゃない! っていうかなんでこんな街の近くにこいつらがいるのさ。
「だ、誰か……。あっ!!」
じりじりと近寄るソルスパイダーから逃れる為に助けを求めようと辺りを見回すと、まだここが外壁の近くだったからなのか、外壁のメンテナンスを行っている1人の青年を見つけた。
「お願いします! 助けてください!!」
少し距離はあったけど必死に声を上げる。
青年もそれに気付いたのか目が合う。
しかし、青年はこっちを見てにやりと笑ってみせるとそそくさと門まで走り去る。
こんな時にまで、なんであいつらは……。
「こ、これでも喰らえ!!」
このままでは本当に死んでしまう。
そう思った僕は咄嗟にさっき掌で作った火の玉をソルスパイダーの群れに向かって投げつけた。
火の玉があまりにしょぼかったからなのかソルスパイダーはそれを避けようとせず、突っ込んでくる。
「くっそ」
その様子を確認した僕は攻撃する事を止め、糸をどうにかしようと頭をフル回転させようとした。
その時
キィン。
どがああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!
細く甲高い音共に視界一筋の閃光が走った。
そしてそれと入れ替わるように、巨大な炸裂音と爆発が起き、あっという間に僕の目の前にいたソルスパイダーの群れが黒い破片となって散ってしまった。
『おお。流石にこの純度の魔力で更に俺の【ブースト】が機能すると、第9級火炎魔法の爆裂火球でもそこそこな威力になるな』
『これでそこそこ……っていうか【ブースト】ってなんですか? っていうかいつから起きてたんですか?』
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