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1話 特価3ゴールドの剣

 カラン。


「いらっしゃ……」

「……」


 冒険者ギルドの側にある武器屋の扉を開ける。


 店主は僕の顔を見ると途端に営業用の笑顔を振り撒かなくなった。

 他の客は俺に冷たい視線を送る。


 こういう態度にもなんだか慣れてしまった自分が少しだけ怖い。


「ちっ。悪魔の血が」


 敢えて聞こえる様に発せられた店主の舌打ちと悪口。


 それでも僕は店の隅にある中古、と言えば聞こえはいいけど、実際には処分品で刃がボロボロだったり、錆が錆が酷かったりと、とにかく粗悪品を集めた特価コーナーを眺める。

 常に金欠でそんなにいいものを買えない僕にとっては願ってもないコーナーだ。


「えっと、使えそうなのは……おっ」


 傘のように筒状の入れ物に雑多に放り込まれた剣を弄っていると、中々使えそうな1本を見つけた。


 刃こぼれも少ししかしていないし、モンスターの血やなんかも付いてない。

 錆びは少しあるけど、まぁこの位なら許容範囲。

 これも兵士の人がこの店に処分を依頼したものなのかな。


「っし、ラッキー。あの、これも3ゴールドでいいんですか?」

「ああ」


 店主の素っ気ない返事を聞くと僕は特価価格3ゴールドの剣と代金を握りしめをカウンターに向かう。


「うわっ」

「へへ、悪い悪いつい足が、な」

「くっ……」


 伸ばされた他の客の脚に躓いて僕は床に倒れ込んだ。

 悪気の無い表情と零れる笑い声。


 最近はこんな嫌がらせも減ってたんだけどな。


「すまんな、お詫びにこの俺が直々に剣の試し切りをしてやるよ」

「えっ? う、がぁああああああっ!!」


 その客は僕の買おうとしていた剣を拾い上げると、そのまま僕の手の甲に剣を突き刺した。


「ははははは!! 少し錆びちゃいるがしっかり使えるじゃねえか!!」

「う、あ」


 溢れる血の温かさと痛み。

 それらを感じながら必死に顔を上げると、そこには高笑いする客と口に手を当てて笑っているのを隠す店主が見えた。


 これが、これが本当に同じ人間?

 くそ。僕にもっと力があれば、あれば……。


 こんな奴らを屈服させてや――


『基準値を遙かに上回る高純度の魔力を含む血を吸収。以上で封印を解除する為の要件が満たされました。血の主を主従契約対象者とし、【紅血吸剣ダインスレイヴ】が解放されます』


 唐突に流れ込む無機質なアナウンス。

 

 そしてそれが一頻り流れると今度は手の甲に刺さった剣に変化が起き始めた。


 剣先から段々と刀身全体が黒く色付き、形状は元々の剣よりも少しだけ細く変化。

 柄の部分は刀身と一体化するように丸みを帯び、その流れに沿って柄部分は完全に紅、刀身には紅く波状の紋様が刻まれる。


 刀身の中央部分には透明で丸いガラスみたいなものが5つ。それが余計にこの剣の異質さを醸し出す。よく見ればそのうちの3つが紅く染まっているのも気になる。


「な、なんだよこの剣は! お、おい店主! この剣は俺が買う!! いくらだ!? 10万ゴールド……いや100万ゴールドまでなら出すぞ」

「ひゃっ、100万ゴールドですか!?」

「この色、異質な形状、それに今の変化、こんな剣は見た事がねえっ!! もしかしたらこの剣……。だったとしたらこれは絶対に譲れねえ。この剣は俺の、俺の物に――」


 客は興奮した様子で剣の持ち手を掴み、剣を俺の手から引き抜いた。


 一気に引き抜かれた事で一瞬激しい痛みが全身に走る。

 でもそれは本当に一瞬の事で、痛みどころか手に開けられた穴さえも消えてなくなってしまった。


「な、治った?」

「な、なんだよこれ! もしかしてこの剣に回復効果が!?」

「この剣は100万ゴールドどころの価値じゃない……。き、急で申し訳ないのですがこの剣はまだ販売前であり、所有者である私の権限で――」



 ドクン。



 店主が何かを言い切る直前、自分の胸の鼓動が大きくなったのが聞こえた。


 それと同時に手足の自由は効かなくなり、自分で声も発せなくなり……。


「なぁ、俺の主人はお前みたいな屑じゃないんだが」


 気付けば僕の意思とは無関係に体は勝手に動き、店主の胸ぐらを掴んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

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