道を追うもの
朝、目が覚めると違和感を感じる。
外に出てあたりを確認すると森の様子がおかしいことにすぐに気づいた。
森がいつもより僅かにだが騒がしく感じる。
毎日森を跳びまわる鬼人だからこそ、わずかな変化にも気付いたのだった。
地面を駆け、木に飛び移り、四方八方異変の場所を探し始める。
辺りを跳びまわっていると、山全体が何かに怯えている様子だった。
そうして走り回っていると、その原因と思われる場所にたどり着く。
その場所は木々が巨大な何かに押し倒されたかのようにぐちゃぐちゃになっていた。
木が掘り起こされたもの、へし折られたものなどがあり、巨大な何かが押し通り道が出来上がっている。
余りの惨状に鬼人はその場で膝を付き、木の破片を拾い上げる。
「お、うぐぅ……、こんな……おぉぅ……」
嘆き、怒り、悲しみ、疑問、様々な感情が鬼人のなかで渦巻始める。
鬼人の目から雫が滴り落ちる。
鬼人が気持ちの整理ができる前に声が聞こえた気がした。
その声の方向に顔を向けると木が折れ、幹のみとなったものがそこにはあった。
慌ててその折れた木の幹に駆け寄り手を当てる。
当てた手からは微かにだがゆっくりと静かに鼓動を感じる。
弱弱しい声が木から聞こえてくる。
この木の精霊が何か言っているようだった。
木の幹に耳を当て、必死で聞き取ろうとする。
「な、なんだ、何を伝えたい!? いったい何を……」
―――― 消えたくない ――――
その声を最後に木の鼓動が止まる。
この木は今、死んだのだ。
昨日まで、この周りの木々と生きてきたものが今鬼人の目の前で死んだのだ。
なぜこの木は死ななければならない。
いったい誰がこの木を殺したのだ。
この惨状を引き起こしたものは誰だ。
様々な疑問が浮かび上がり、感情が一つにまとまる。
その感情は怒りだった。
鬼人の心臓に火がともり、薪が勢いよく放り込まれる。
その炎が鬼人を突き動かし始めた。
木々は引き倒された道の行き先に向かって飛翔し、追いかけ始める。
その道の先にはこの惨状を引き起こしたであろう物が底にはいた。
まず、目につくのはその巨大な身体であった。
丸太を三つほど束ねたかのように分厚い身体で、鋼鉄のような重々しい黒い甲殻に覆われている。
百足、それも飛び切り巨大な百足だった。
比喩ではなく文字通り足が百ほど生えている。
そして百足の顔にあたる部分には人間の顔を握り潰したと思うようなひしゃげた顔の様なものがついている。
ひしゃげた顔は小さく、百足の大きさと不釣り合いなせいか不気味に思える。
「こいつの仕業か」
木の上から鬼人がそう呟いた。