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鬼人は寄り添うのみ  作者: えちだん
第一章 人、鬼人、妖
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麓の街

 一刻もしないうちに麓の街にたどり着く。

背中には先ほど狩った猪の肉を担いでおり、笠を深々と被り額の角を隠す。

この格好がいつも街に降りるときの基本的な姿だった。

幸か不幸か、額の角以外は少し大柄な男と見た目に差異がないことによって額を隠すぐらいですんでいた。


 街は簡易的な柵で囲われており、柵の外にもぽつぽつと家が建っている。

そのほかには矢倉が要所に建っており、周りの柵とは違い中々しっかりとした作りをしていた。


 街の正面に位置するであろう場所には検問のようなものがあり、二人の男が立っている。

その場所を通り、街の中へと入るが男たちはこちらに見向きもしない。

それもそのはず、この男たちは外敵からの侵入をいち早く察知するためにここに立っているのだ。

その外敵とはいったい何なのか?


 妖である。


 これらの接近をいち早く気付き、避難するのがこの時代の定石であった。

周りに知らせる方法は鐘や笛など様々でそれぞれの街によって違う。

妖の姿は大小様々で中には、それこそ自然災害と変わらないほど強大なものも数多くいる。

つまり、嵐に向かって刀で追い返そうとするものなどいないということだ。

人間たちは世代を超えて知識や経験を受け継ぐことによって、妖という魑魅魍魎(ちみもうりょう)に対抗してきたのだ。


 街の中に入ると人々が活気づいており、騒がしく感じる。

山の中では感じることがない活気だ。

その騒がしさに少し押され気味になりながらも歩き、一軒の店の前で立ち止まる。

その店からは独特なにおいを放っており、戸は閉めておらず外と内は暖簾(のれん)によって分かれていた。

暖簾を押し上げ店内に入る。


 店内に入ると匂いはさらに強くなるが、その匂いは不快なにおいではなかった。

様々な匂いが店内を入り混じっており、その内の一つにお目当ての物があったのだ。

周りを見渡すと大小様々な樽が店の前に立ち並び、その奥で忙しそうに動き回っている人が一人いる。

その人に近づきゆっくりと話しかけ始めた。


「すみません、いいでしょうか?」


「! あらっ、お味噌の兄ちゃんじゃないかい! 今日も味噌でいいのかい?」


 そう言いながら快闊な印象を受ける、女性が元気よく声を返してくる。

歯を見せながら豪快に笑い、腰に当てている腕は太く力強さを感じる。


「えぇ、そうしたいのですが支払いは銭ではなく、今回もいつものやつで大丈夫ですか?」


 そう言いながら背中に担いでいた猪の肉を下ろし問いかける。

店の女性は肉を手に取り確認すると静かにほほ笑んだ。


「えぇ、これで大丈夫だよ。 でも本当にいいのかねぇ? お肉と味噌の値段的に釣り合ってるようには思えないんだけど……」


「いえいえ、銭を一銭すら持ち合わせてない私には大助かりですよ。 それに私はひとり身なのでそんなに量も必要ないのです」


「そうかい? 悪いねぇ! うちの子供も食べ盛りだから助かるよ! うちの旦那もあんたみたいな色男に見習って猪の一頭から二頭ぐらい()って来てもらいたいもんだねぇ!」


 そう冗談交じりに話しながら豪快に笑いながら背中をバシバシと力強く叩かれる。

どこの身の上かも知らず、銭も持たず、さらには顔を隠している自分にも分け隔てなく接してくれる彼女のことを鬼人は気に入っていた。

それと同時に、警戒しなさすぎる気がして少し心配になるのだが……


 鬼人にとっての久しぶりの会話はそれからしばらく続いたのだった。

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