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究極を超えた牛玉〜カラオケで99.999点を弾き出せ!!〜

 つまらないものですが………。

「遂に………遂にやったぞ!

 成功だ!遂に99.999点を弾き出したぞ!!」


 男は、自分の開発したカラオケAI採点マシーン、『牛玉(ぎゅうぎょく)ジェネレーター』に向かって叫んでいた。


 『牛玉』とは。


 『牛玉ジェネレーター』によってのみ作成される、3つ集めれば、生命的・経済的・精神的・社会的における『死』から、3度逃れられる、希望の玉であった。


 その、『牛玉ジェネレーター』を発明・作成したのが、彼・火上(ひのかみ) 参馬(さんま)だった。


 自らの呪われた名前と運命に対抗する為に作成した、究極を超える発明だった。故に、『究極』を濁らせて『牛玉』。


 決して、100点を出してはならない。ソコにあと僅か最低単位の得点で1点足りない、『99.999』点を出さなければ、『牛玉』は発生しない。

 敢えて、出すのが最も難しい点数の時にのみ、発生させるのでなければ、『牛玉』の意味が無い。


 その、究極の点数を出した場合にのみ作成されることによって、『牛玉』が生み出される際に、ソコに九十九神(つくもがみ)が宿り、丑三つ時に(あやか)って3つ揃えた時に、ありとあらゆる『死』から逃れられるのだ。但し、老衰に依る『死』の場合、30年若返って生き延びる。


 火上 参馬は、名前の通り『丙午(ひのえうま)』の生まれであった。しかも、花札で鹿の描かれる10月17日の生まれで、文字通りの『馬鹿』であるが、『馬鹿』であるが故に、正解か否かは問わずとも、問題に対して何らかの『答え』を『(ひらめ)く』能力の持ち主であった。


 自らの縁起の悪さから回避する手段として思い付いたのが、『牛玉』とその『ジェネレーター』であった。


 当然、練習の過程で100点は当たり前に出せるようになったし、僅か『0.001点』の減点を受ける以前に、まず、技術点の加点を消すか、ソレも含めたコントロールが必要になったが、参馬は後者を選んだ。


 何度かの、『99.998点』と、何度もの『100点』を繰り返した後に、ようやく、1度目の『牛玉』の獲得、つまり『99.999点』を叩き出した。


 参馬は狂喜した。後は回数の繰り返しの問題だと。


 ところが残念、その次の回は、『99.777点』だった。


「縁起は良い。縁起だけは良いよ?

 でも、何故突然、こんな低い点数に………」


 その答えは、参馬が組み込んだAIが優秀過ぎて、『飽き』と云うものを覚えてしまったからだった。


 つまり、曲の鮮度が命!!


 参馬は、再び新しい曲の解析を行い、『99.999点』を目指し始めた。


 大まかに言って、曲の加点・減点のコツは大して変わらない。つまり、曲の素因数分解的な解析を行い、ソレを計算して加点・減点の合計から、『99.999点』を出せる曲を探す事になる。


 そして、AIが飽きる前にその得点を出さなければいけない。


 勿論、加点だけを積めば、100点を出すことは参馬には簡単な事だった。

 だが、僅か『0.001点』の減点を狙って出すことが、非常に難しかった。

 勿論、減点より加点が多く加わって、100点を出してしまうことも当然のようにあった。


 そして、参馬は得点の解析に当って、AIの方の情報処理を調べて分かった。


 厳密には、『99.9999999点』を出さないと、牛玉は発生しないと。

 つまり、1個目の牛玉が発生したのが、如何に奇跡であるのかと云うことを。


 そうなると、バタフライエフェクト迄をも計算に入れなければならない。


 ソコまで判明した時点で、参馬の心は折れそうになった。

 何故ならば、バタフライエフェクトを計算に入れる必要があると云う事は、全く無関係に思える他の何処かで、風の流れのちょっとした強弱迄もが、得点に影響すると云う事だからだ。


 だがしかし、考えてみて欲しい。

 切り捨て以外の計算方法で、『99.9995点』以上を取ったら、大概が『100.000点』表示にならないだろうか?


 何故、『99.9999999点』の時に『99.999』点表示になるのかは謎だが、過去の処理された情報群を観察した結果、『99.9999999点』の時のみ、『99.999点』表示になり、もしも『99.9990001点』にでもなったら、『100.000点』表示になることが判明した。但し、『99.9990000』点の時に、何点と表示されるのかは分かっていない。過去の情報群に無かったからだ。


 参馬は、その『AI採点』を、一般的な『AI採点』が行われるカラオケマシーンに限り無く近付けようとした。


 だがやはり、全く同一には出来なかった。


 『牛玉ジェネレーター』にのみ、積まれている機能も勿論多い。


 或いはやはり、『99.9990000点』の時にも『99.999点』表示になったとしても、勿論、その難易度は究極を超えると判断しても、間違いでは無いのかも知れない。


 だが。参馬は『99.9999999点』を目指すと決めた。


 何故ならば、『9×9個』で『81』、8重にNo.1と云う意味合いがあるからだ。


 それにしても、バタフライエフェクトとは、何と酷い世界のバグだろうか?

 一見、何の関係も無い些細な原因が、他の大きな現象の原因になるとは。

 コレは、蝶々(バタフライ)だからこそ意味があった。

 何しろ、(バグ)の一種なのだから。


 だから、『99.9990001点』も発生した。

 最早、数を繰り返す事の継続によってしか、『99.999点』は出ないに違いあるまい。


 そう決断を下した参馬は、100点に限り無く近い点数を求めて、偶発的な『99.999点』に希望を(たく)した。


 果たして、2個目の『牛玉』まで、3ヶ月掛かった。

 その後、3個目の『牛玉』まで更に6ヶ月掛かった。


 そして、3個の『牛玉』が揃った途端に、1個の『牛玉』が割れた。

 ──つまり、経済的か精神的か社会的かで死んでいた状態であったと云う訳だ。


 参馬は、4個目の『牛玉』に挑んだ。


 だが、ソレを果たす前に、その「手紙」は届いた。


『公開処刑に処するところだとです。

                佐倉=サクラ=桜』


 中身は、ただその一文と署名だった。


 参馬は、大いに動揺した。

 公開処刑と云う言葉の響きに恐怖した。


 その時、家のチャイムが鳴った。


「──はい」


「佐倉=サクラ=桜だとです」


「──はい?」


 参馬は大いに動揺した。


「ちょっと、待っ………!

 公開処刑?!

 アレ?死なないんじゃ無かったの?!

 つーか、死にたくねーよ!」


「死なない公開処刑だとです!」


「………へ?」


「私と貴方のS◯Xシーンを動画配信するとです!………靴下では無いとですよ?」


「そそそ、そんな公開処刑?!」


「ホテルに行くとですよ!準備するとです!」


「ホテルって………」


「サクラ帝国の一般のホテルだとです!

 サッサとするとですよ!40秒で仕度するとです!」


 急かされるままに、参馬は出掛ける準備を整えた。


 参馬は、結局着替えて財布を持った程度で、桜に腕を掴まれ、転移させられた。


 場所は異世界の空中大陸上にあるサクラ帝国ホテルだった。


「──で、俺は何をすれば………」


「ナニをすれば良いとですよ!

 私もホントはアイドルとかが相手だと良かったとですよ!」


 不満を言われても、参馬には自主的に行なった事ではないと思っていた。


「ハスマホ、セット!録画開始だとです!

 ホラ、アンタ、ベッドの上に座るとです!」


「え?ええ?

 じゃあ、失礼して」


「あ!明かりは消すとです!」


 明かりがリモコンで消され、カーテンもこれもリモコンで閉じられ、部屋が薄暗くなった。


「私が、今から最大4回の質問をするとです。

 アンタは、それに『はい』か『いいえ』で答えるとです。

 最初に『はい』と答えたタイミングに、私は従うとです!


 一回目は積極的な合意。

 二回目は消極的な合意。

 三回目は恥ずかしいから、懇切丁寧に。

 四回目はどうぞ襲って下さいと云う意味を持つ返答だとです!


 何度目で『はい』と云うか、決めたとですか?!」


「ええっ!!

 そんな事、合意すると云われても………」


「ならば五回目の運命を選択するとですか!?

 五回目は、『はい』なら覚悟を認めて好きに扱え。

 『いいえ』なら、合意など以ての外、いっそ包丁で刺し殺せ!だとですが、それでも五回目の運命を選ぶとですか!?」


「やっぱり、恐ろしい事になってしまった!!」


「何を言うとですか!!コレでも精一杯、平和的な『公開処刑』の執行だとですよ!!


 それで、どうするか決めたとですか?!」


「──まぁ、その選択肢なら、一択だから………」


「では行くとですよ!


 『神様、18禁プレイ中ですか?』」


「──!?

 ………『いいえ』!」


「『神様、18禁プレイ中ですか?』」


「──『はい』!」


「『かM………』、そうだとですか。なら、サッサと済ますとですよ!」


 その後、二人はアッサリとした男女の仲になり、桜はシャワーを浴びてから録画を止めた。


「えーと………、割としっかり見えてしまっているとですね。

 まぁ、良いとです。

 前後をカットして………。

 アンタ、ちょっと動画をチェックするとです!


 ──ああ!『貧相なモノだとですね』と(けな)すのを忘れていたとです!


 まぁ、良いとです。

 コレをこの状態で動画を配信しても良いとですか?」


「ど、動画の配信?!

 何故、そんな事をしなくちゃ──」


「報酬の支払いを『動画の配信への協力』と云う口実にしなければ、売買春で罪に問われるとですよ!


 コレでも、精一杯のサービスだとですよ?」


「報酬!?何故?!」


「何億回も再生されたら、利益を得られるからとですよ!

 50%はアンタに還元するとです!」


「──ソレ、割と洒落にならない金額になるんじゃ………」


「でも、『臆病者(チキン)』の証拠映像になるとですから、多分、帰ったら2個目の牛玉が割れているとですよ!


 それで、この動画の配信は問題無いとですか?!」


「一応、チェックさせて貰って………。


 うん、顔はハッキリとは(うつ)ってなかったし、問題無い………と思う」


「なら、サッサと返してから、動画を配信するとですから、コレで用件は終わりとです!


 ──ああ、報酬を支払うとですよ」


 そう言って渡された封筒を、自宅に戻されてから中身を確認してみれば、ソコには七万円が入っていた。


「何だったのだろう………」


 イマイチ現実感が無く、翌日に動画をチェックしてみると、確認した動画の最初に、『公開処刑』と云う赤文字が表示され、無事に(?)配信されていた。


 尚、牛玉は言われた通り、2個目も割れていた。


 それから参馬は、4個目以降の牛玉に挑戦しながら、動画の広告料で生計を成り立たせて過ごしたのであった。

 如何でしたでしょうか?

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