レベルサクリファイス〜英雄の残滓と、君に託す未来〜
魔王が討たれて早5年。32歳になったカイルは、かつて『伝説の勇者』と呼ばれた、今は辛うじてレベル1とは雖も勇者と云う職に就きながら、戦いとは程遠い世界で剣一つ振るうこともないまま、穏やかに過ごしていた。
カイルの持つ能力は唯一つ、『レベルサクリファイス』と云う名の、魂の強度を犠牲にすることで、そのレベルや能力を他者に与える能力だった。
カイルは辺境の村で「ただの男」として過ごし、かつての武勇伝を一切憶えていなかった。
ある日、カイルを訪ねる者があった。16歳の才能溢れる見習い剣士の女の子、ルナだった。
「先生、お久し振りです」
「おや。どなたかな?」
「7年前、剣の教えを授かったルナです。
この度は、再び剣の教えを請いに参りました!
探しましたよ、先生?」
「剣の教え……?済まないねぇ……、何もかも忘れてしまって、剣の握り方も分からない有り様でねぇ……」
その答えを聞いたルナは、顔から真っ青に血の気が引いた。
「そんな……、先生だけが頼りだったのに……」
軽くえづくルナ。どうやら、深刻な事態のようだった。
「どうやら事情がありそうだねぇ……。話だけでも訊いてみよう。
さぁ、上がって。お茶の一杯くらいは淹れてあげよう」
ガタガタと震えるルナを、カイルは肩に手を添えて自宅へと導いた。
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ルナは震えながら事情を説明した。
「成る程。魔王の残党が、君の中の『聖女の力』を求めて、昼夜構わず襲って来ると。
うーん……力になりたいのは山々だが……」
その時、村の中から悲鳴のような声が次々に上がり、それは近づいて来ていた。
「──つまり、今もまた例外では無いと。
5年間、振るった事も無い剣だが……役立って貰わねばなるまいな」
カイルは、『勇者の剣』を握り締め、家の外に出た。ルナも剣を握って続く。
そこには、1体の悪魔が立っていた。
2人は顔を見合わせ、頷き合うとカイルがルナを庇いながら、2人で悪魔に立ち向かった。
傷付くカイル。一方で悪魔に対しては一向に刃の一つも当てることも出来ない。
カイルは感覚的な既視感を憶えて、悟る。自分はかつてこうして、仲間を救う為に力を手放したのだと。
カイルは、僅かに蓄積していた、「村で過ごした穏やかな5年間の記憶」を全て捧げる決意をする。
カイルは『勇者の剣』をルナに握らせ、彼女の背に手を当て、言う。
「君との記憶すら失うが、君が生きる未来の為なら安いものだ」
カイルの中に残っていた、僅かな輝きがルナに宿る。
「先生?!」
カイルの瞳に、輝きは無かった。術後の記憶の齟齬を合わせる為であろうか。ルナは、受け取った輝きを力に、悪魔を葬り去った。
「やりました、先生……?」
戦闘後、涙ながらにカイルに近寄るルナ。だが、カイルはポカンとした表情で問い掛ける。
「やあ、お嬢さん。何処かでお会いしましたかな?」




