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短編集  作者: 第八天龍王 七百七十七印麗院


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ジョブボード〜落ちこぼれの荷運び人、複数の職を管理し、高いステータスを手に入れる!〜

 カイトは、その歳まで控え目に言っても落ちこぼれの荷運び人だった。

 何の才覚も無く、『荷運び人ギルド』で下積みをして、ただその歳──15歳の神殿で天職(ジョブ)を得ることにだけ希望を持っていた。


「オラ、カイト。今日のノルマが未だだぞ?サッサと運べ!」


「だから、今日は神殿で天職を授かる日だってば!」


「あン?そんなもの、ノルマ(こな)して夕方に行けば間に合うだろうが!」


「分かりましたよ!ノルマ熟せば良いんでしょう?ノルマさえ熟せば!」


「判ってるなら、サッサとノルマ熟せ!」


「はいはい、分かりましたよ、っと!」


 そうは言われても、見習いの荷運び人に任せられる仕事量など高が知れてるし、もう5年も見習いの荷運び人をやっていれば、片方の肩に10キロの小麦粉袋を5つずつ、一度に100キロを運べるカイトは見習いとしては充分に戦力として役立っていた。

 だが、他に能の無いカイトでは、せめて『荷運び人』の天職でも得られなければ、荷運び人ギルドに所属する事も出来ず、天職次第では栄転も没落もどちらもあり得る。

 他に何の才覚も無いカイトは、この天職を授かる機会だけに、人生の全てを賭けていた。


「よいしょ、っと。

 さあ、ノルマ熟しましたよ?神殿行ってきますね!」


「応、せいぜい『荷運び人』の天職を授かって来ることだな!そしたら、食うに困らない程度には雇ってやる!」


「ハハハ……ソレが無難ですかねぇ?」


 そんな会話を交わして、カイトは神殿への道を急いだ。神殿には、数十人の行列が出来ていた。

 行列の最後尾に並び、カイトは明るい未来が訪れる夢だけを見ていた。

 やがて行列は進み、カイトの順番がやって来る。


(神様、どうか俺に良い天職を!)


 祈りを捧げると、やがてカイトのステータスボードが現れた。

 そして、その天職の欄に記入されていたのは──


(えっ!?『  (空白)』?!どう云う事だ?!)


 神官がカイトのステータスボードを見て、こう宣言した。


「カイト、無職!」


「そ、そんな莫迦(バカ)な!」


「次!──君はもう去りなさい!」


 何と、『無職』の烙印を押されたばかりか、半ば無理矢理に、カイトは神殿を追い出された。

 この世界に於いて、天職は一つ。稀に転職出来る天職もあるが、ソレも殆どは上位職への転職だけだった。

 無職。しかも、全ての天職にある筈のレベルすら存在していなかった。──否、無職ですら無かったのかも知れない。天職『  (空白)』。絶望に、カイトはクラッと意識が遠退いた。

 しかも、天職は神殿で管理される。明日、『荷運び人ギルド』に行っても、仕事一つ与えて貰えず、給料も今日迄の分を支払われる以外には一銭たりとて与えられない筈だ。

 こんな事なら、荷運び人見習いのままだった方が、未だマシである。


 その直後のことだった。カイトの意識に電流が(はし)った。


(……ん?何だ?)


 カイトのステータスボードが表示されている。その、『天職』の欄に、『荷運び人:Lv.10』との表記が……。

 それだけでは無い。『天職』の欄に空欄が4つあり、『天職控え』の欄に『剣士』『魔導士』『盗賊』『管理者』の4つの『天職』が……。『荷運び人』の他は全てLv.1だが、ソレの指し示す事実は……。


 ソレだけでは無い。スキルの欄には、『荷運び人』『剣士』『魔導士』『盗賊』のスキルの他に、『ジョブボード』『スロット機能』『経験値共有』『パッシブ合成』のスキルが。恐らく、聞いた事も無い『管理者』の『天職』のスキルと思われる。

 『ジョブボード』の能力は、一般のステータスボードに代わる能力と思われる。『スロット機能』は、『天職』を複数セットする機能に思われ、『経験値共有』は、複数セットした『天職』の得る経験値を、どうやら均等に分配したり、分割して配分する事も出来るようだ。『パッシブ合成』がイマイチ良く解らないが、どうやらセットした『天職』のスキルを合成して行使する能力に思われた。


 『天職』は、15歳のときに必ず与えられる。もっと言えば、15歳のときまでに必ず与えられるので、15歳を待たずに『天職』を得る者も中には居る。そして、カイトが15歳になったのは、つい先ほどの瞬間だった。そう、15歳のときに『天職』を与えられる者は、正確に厳密に15歳になるときまでは、『  (空白)』と云う『天職』、即ち『無職』と云う『天職』を与えられたと見做される事が稀にある事を、殆どの者は知らない。


 カイトは、試しに控えの『天職』を全てスロットに差し込んでみた。すると、全てのステータスが少しずつ上がった。『経験値共有』は、取り敢えず一律に均等に振り分けられる設定にする。


 基本、『天職』は書き換える時は、神殿で転職する時にしか書き換えられない。稀なケースの時の為に、新しく『天職』を得たら、神殿に届け出れば、『天職』を書き換えて登録して貰える。だが、このシステムを知っている者は、神殿でも各神殿の首脳陣の他に、知っている者は稀だ。つまり、カイトは知らない。


 そして、『無職』でも登録出来るギルドは、唯一つ。──冒険者ギルドだ。戦闘職の殆どはココに登録すると思って、ほぼ間違いは無い。

 カイトは、冒険者ギルドへと向かった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 結果から言えば、カイトは冒険者ギルドで大活躍した。未達成のまま、放置されていた依頼を数多く熟して、多くのパーティーと組んで活躍するも、冒険者ギルド内の勢力としてのマイナーギルドには、加わる事は無かった。

 そんな折、カイトがソロで討伐依頼を熟そうとしていた時だった。

 会敵した時に、既にモンスターと交戦し、何とか戦っているも、襲われていると表現しても間違いでは無い位には苦戦している女性と出逢った。


「助太刀は居るか!」


 無断でモンスターを狩っては、冒険者ギルドで教わったマナーに反する為、カイトは確認を取った。


「頼む!!」


 その女性、ミラは没落貴族の騎士で、未達成依頼の処分に駆り出された、生真面目な女性だった。

 今正に、目の前のモンスター、フェンリルを相手に、死を覚悟しようとしていた時だった。助太刀は、例え敵わないとは判っていても、(わら)にも(すが)る気持ちで願わざるを得なかった。

 そして、目の前に現れた男のやる事は、何かがデタラメだった。

 剣を振るいながら、魔法を行使し、ソレだけなら『魔法剣士』と言われれば納得出来るものの、どう考えても、『魔法剣士』の行使する範囲内の魔法に留まらなかった。

 少なくとも、装備と行使する魔法が噛み合わない。革鎧とは云え、重装備の『魔法剣士』なぞ、ミラは訊いた事も無かった。

 それどころか、フェンリルの背後を取る動きは、暗殺者等の極一部の『天職』の行使するスキルだった。


「ふぅ~、何とか倒したか。手強かったな。

 ──で、お嬢さん。お怪我は?」


「──あ……痛っ!」


 ミラは脇腹に傷を負っていた。必死で戦っていた間はアドレナリンが分泌されて痛みに耐えていたが、その緊張感を失った今、彼女は額に冷や汗を貼り付けて、痛みに耐えるのが限界で、会話も出来る状態では無い。


「脇腹に傷か……。……ヒーリング」


 その上、この男は、ミラの傷口に手を(かざ)し、回復魔法まで行使して見せた。


「あり得ない……あなたは一体幾つの『天職(ジョブ)』を持っているの?!」


「んー……今は7つ設定しているかな?」


 カイトは冒険者として活躍して行く中で、『スロット機能III』までスキルを育成していた。依って、最大で7つの『天職』を設定出来て、7つのスロット全てに別々の『天職』を設定していた。


「……お礼をしたいの。団長に会ってくれないかしら?」


「んー……面倒事は御免したいものだね」


「『聖騎士』のゼノス。それなりに知られた名前の筈だけれども──」


「ああ、教会では『無職』認定されているし、『聖騎士』のゼノスと云えば、以前、協力してパーティーを組もうとした時に、『無職のゴミが!』って言われて断わられた相手だから、出来れば会いたく無いかな?」


「そんな……!」


 ミラはソレ以上、誘う言葉を吐けなかった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 結局、ミラは「お礼をするまで」と言ってカイトに付いてきた。

 そして、とあるダンジョンで、ゼノスが先行しているのを見掛ける。

 ミラは「退団を伝えたい」と言って、ゼノスを追うことを願い出る。

 カイトはゼノスならばミラを放置はしないだろうと仕方無しに追随し、そして、ダンジョンボスとの戦闘になるのを見学する事になった。


「団長!助太刀致します!」


 ミラはそうゼノスに声掛けするが、ゼノスはミラの姿を見付けた事で、一瞬、油断した。その隙を突かれた。吹っ飛ぶゼノス。ダンジョンボスは、ドラゴンだ。そのブレスをモロに喰らった。


「カイト殿、助太刀を!」


 ミラは切迫していた。だが、カイトはそうでは無い。


「ダメだ。助太刀を請われていない。横取り行為になる」


「そんな……!」


 獲物の横取りは、冒険者のマナー違反だ。

 それも、ゼノス程の実力者なら、横取りを強く拒むだろう。


 結果、ゼノスパーティーが全員戦闘不能となってからの横取りとなった。この状況では、ゼノスパーティー側も獲物の横取りを強く主張する事が出来ない。生命が助かれば、儲けものと云う位だった。


 実は、カイトの強さは、単なる『天職』やスキルの多さ・その組み合わせだけでは無い。通常は一つしか持てない『天職』を高レベルで備える事で、ステータス修正値の積み重ねと云う、反則的な強さにこそその真骨頂は在った。


 依って、6人パーティーが成す術も無く叩き伏せられるドラゴンと云う相手であっても、『盾職』で防ぎ、喰らったダメージを『僧侶』で回復し、『暗殺者』で背後を取り、魔法を剣に纏わせて、高威力の一撃を繰り出すことが出来た。

 その強さは、1人にしてパーティーをも凌駕する。小さなマイナーギルドにすら匹敵した。

 現に、ミラが手を出す余地も見付けられない内に、カイトはドラゴンをアッサリと狩り終えてしまっていた。


 しかも、だ。


「良しッ!ジョブボード『竜狩人(ドラゴンスレイヤー)』ゲット!

 さあ、次はこのジョブを育成してみようか!」


 と、慢心すること無く、更なる高みを目指して新たなる『天職』の育成を目指すのであった。

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