虚数都市のアルスマギカ〜理外の錬金術師と情報の石〜
「──ったく、今日の獲物はこのガラクタ一つかよ!」
シオンは、巨大なデータサーバーと蒸気機関が混じり合う、霧に包まれた虚数都市アルスマギカにて、腕利きの解体屋として名を馳せていた。今日の収穫は、軍の廃棄場から見付け出した喋るガラクタ、自我を持った 情報の欠片の少女が1体……。
「──っ!……はぁ……厄介な予感しかしねぇぜ!」
本来、ホムンクルスは解体されてから売りに出される。そこを曲げて収穫したのは、シオンが表向きは信用されている『解体屋』だからだ。だから本来、シオンはその少女を解体して処分しなければならなかった。
回収を終えたシオンは、軽トラックの荷台に少女を載せて帰宅した。
シオンは隠れ家にて、そのホムンクルスを作業場まで担いで行った。
そして、作業台にそのホムンクルスを載せ──彼女が目覚めた。
「うおおっ!動けるのかよ!」
確かに、喋るとは訊いていたが、動くともなると、解体するのは人権問題に抵触しかねない。
「マジかよ……。おい、俺はシオン。解体屋だ。
お前さん、名前は名乗れるか?」
「名前……?──リリ」
首をコテンと傾げて、彼女はそう名乗った。
「そうか。リリ、お前さんの動力源は?飯か?オイルか?」
「──何でもいい」
「そうか……。なら、とりあえず飯でも食うか」
幸い、リリの格好はメイド服。軍のお偉いさんの慰みモノででもあったのが、用済みになって処分されたのか……。だが、そんな詳しい情報を訊き出すのは躊躇われた。だから、とりあえず飯だ。
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「ふぅ~、喰った、喰った!」
冷凍食品を温めただけのものだが、二人?は食事を終えた。
「──で?リリ。お前さんは何故、棄てられた?」
「棄てられ……?憶えてない」
「おいおい、記憶喪失か、将又データの削除済みかよ!」
「……多分、データの削除済み?」
リリはコテンと首を傾げる。
「……解体する……訳にもいかんよなぁ……」
彼女を解体する。即ち、彼女を殺すに等しい。そんな真似はする訳にはいかなかった。最悪、犯罪になる。それも、殺人とあれば、罪は重かろう。
その時だった。シオンの隠れ家の警報装置がけたたましいサイレンを鳴らしたのは。
「何だ、何だ?」
シオンは慌てて防犯カメラの画像を確認した。
「ゲッ!鋼鉄の猟犬!」
シオンは幾つかある隠し出口の一つを選んで、オートバイのエンジンを直ぐに掛けた。
「リリ、後ろに乗れ!」
「うん」
ヘルメットなんて用意している余裕は無い。だが、今直ぐに逃げ出さなければ、猟犬に咬まれて最悪、死に至る。
「飛ばすぞ、しっかり俺に掴まってろ!」
シオンは迷わずに逃げ出した。
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「……逃げられた?」
鋼鉄の猟犬の飼い主、「賢者の議会」の憲兵団長は遠ざかるエンジン音を聞いてそれに気付いた。
「追え!」
猟犬は走り出す。速度でバイクには負けない筈だ。それに、彼女の『賢者の石』の気配は消せはしない。
回収を忘れて廃棄してしまい、急ぎ気付いた「賢者の議会」が憲兵団に指示を出したのだ。
だが、運悪く、裏側の顔は賞金首として指名手配されている、『違法錬金術師』に彼女は回収されてしまったのだ。
故に、警報音は鳴りっぱなしだし、追い付く前に逃げ出された。
それでも、『賢者の石』の気配は消せない。猟犬が追い付くのも時間の問題かに思われた。
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「クッ!逃げ切れねぇ!」
相対速度からそう判断すると、シオンはオートバイを180度回転させて止め、左手を添えた右手を猟犬に向けて──錬金術を発動した。
「理を外せ、虚数、展開──!!」
シオンの右手がノイズと化し、広がるそれに触れた鋼鉄の猟犬が花弁と化した。それはまるで、桜の花が散るが如きであった。瞬間、霧に包まれた街並みに華やかさが花開いた。
コレが、シオンが『違法錬金術師』である理由。禁忌の錬成である、物質の情報を瞬間、虚数方向に展開し、別の情報で上書きして書き換える能力である。
代償として、シオンの右手の『存在感』が失われ、リリにはシオンの右手が半透明に見える。
「はぁ、はぁ、はぁ……。無茶したな、暫くツラいぜ?」
リリは、首をコテンと傾げて問い掛けた。
「なぜ、そこまでして僕を助けたの?」
リリの疑問に、シオンは右手の握力が残っていることを確認すると、発車の前にその疑問に答えた。
「別に、お前さんが追われてたとは限らないし……。
それに、俺もこの世界の理外だからな!」
アクセルを吹かしてオートバイを反転させると、シオンは今度は錬金術が『物質の変換』から『情報の操作』へと進化した蒸気都市エセリアの隠れ家へと向かった。エセリアこそが、『賢者の石』の廉価版である『情報の石』の発明をした都市であり、シオンもまた、『情報の石』を使う錬金術師なのだった。




