マグロ&サーモン
夢のお告げであった、映画化すると傑作になるらしいアイディアの断片を纏めたものです。
その漢は、船で帰港しようとしていた。
貫禄のある、中年男性だ。
名を、伊達 信長と云う。
伊達は、大物を仕留めて来ていた。
100キロを超えるカジキマグロ。
ソイツは、70分の死闘の末に仕留めた獲物だった。
伊達は、流石にコレは元を取っただろうと、勝利を確信していた。
頭の中では、競売で100万を超えるイメージを思い描いていた。
何の準備もせずに、ただ100キロを超えるカジキマグロを釣ると云う釣果だけを挙げて。
「富澤ー!俺はやったぞー!」
競売の下準備を任せた富澤 政宗が、キッチリと仕事を済ませている事を信じて。
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「ヤバい、ヤバい………」
一方の富澤 政宗は、当日朝まで何の準備も調査もせず、「どうせ釣れんだろう」と高を括って、申し訳程度に早朝に漁港に向かい、当日アポを取ろうとしたが、獲物も未だ確かでは無いので当然断られ、その後に伊達からの釣果を報せる無線を聞いて、慌てふためいていた。
当然、釣果の換金は不可能となった。──そう思った瞬間、名案が閃いた。
「そうだ!」
富澤は、とある人物を探しに、周囲の人々に声を掛け始めた。
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伊達は帰港してすぐ、異変を感じた。
──富澤が居ない。
まずはそのことを疑問に思った。
時刻はもう8時近い。
このままでは、カジキマグロがダメになる。
その時、1台の某有名回転寿司店のトラックが、伊達の目の前に止まった。
そのトラックから一人の人物が降りて、伊達の方へと向かうと、こう云った。
「伊達 信長さんですか?」
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富澤は、自分の失着を取り戻そうと、必死だった。
カジキマグロは、捨て値で某有名回転寿司店の店長に売った。
当然、ソレでは元を取れない。
富澤は、禁断の手段に手を染めようと、丈夫で大きな網を購入して、人目に付かない川岸で、鮭が遡上して来るのを網で捕らえ始めた。当然、密漁である。
しかし、回転寿司屋の約束してくれた金額は、断じて伊達の了承する金額では無かった。
僅かでも良いからリカバリーを!と、生食出来無い鮭を網で掬い続けた。
やがて、十分に捉えただろうと判断した富澤は、20〜30程度の鮭を積んで、回転寿司屋に車を向けた。
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伊達は、憤りを堪えていた。
30万。伊達の釣り上げたカジキマグロに付けられた対価だ。
とてもではないが、納得出来る金額では無い。完全に赤字だったからだ。
しかし、富澤の名を出されて、「コレでも頑張って弾き出した金額だ」と云われると、その憤りをぶつける訳にもいかない。むしろ、回転寿司屋の方でも高く評価した方だった。ソレは、伊達がカジキマグロを急速冷却し、考え得る最善の状態でその獲物を引き渡せたが為についた金額だった。
そして、伊達の怒りの矛先は、ひと月も前から用意しておけと指示した富澤の不手際へと向かおうとしていた。
その時、ようやく富澤は現れた。
「社長、鮭も買い取って貰えないですか?」
富澤の一言目は、謝罪でも報告でも無く、『要望』であった。
「テメェ、フザケンナ!!」
伊達がブチ切れたのも当然の事だろう。
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「密漁じゃないだろうな?」
回転寿司屋社長のその疑いは、当然であろう。
「あ、その辺は大丈夫です」
返されるのは、曖昧な返事。だがそれで、回転寿司屋社長の責任では無くなった。
「鮭、っつっても、身は刺し身では食えないから、買い取れるのはイクラだけだぞ?」
「あー、じゃ、仕方無いですねぇ。
イクラだけ買い取って貰って、身は返して貰えますか?」
結果、イクラだけは買い取って貰えたが、金額にして、僅か1万数千円程度のものであった。
「富澤、テメェ、こんな鮭の身ばかり残して、どうするつもりだよ?!」
「大丈夫。鮭トバにして、俺らで食おうぜ」
「二人でこんな大量な鮭をトバにして、食いきれるかよ!?
そもそも、何処でこの量の鮭をトバにすンだよ?!」
「ソコは俺が、ちゃんと工場まで依頼して加工して貰うから」
「ソコまでするんなら、鮭トバ売ろうぜ!?」
「大丈夫、親戚に送ったら、こんな量、すぐにハケるから」
「チッ!しゃーねぇなぁ。
なら、カジキマグロの代金、俺に寄越せよ」
「ハッ?お前が受け取ったんじゃねぇの?」
「「………」」
今更、回転寿司屋に行って、代金を請求したって、「既に支払ってある」と言い張られる事は想定内。二人は互いを疑った。
「しゃーねえなぁー。
富澤、鮭の加工の代金、お前が立て替えておけ。
このイクラ代は──」
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「いらっしゃいませ~」
「三連バラ三セット!」
伊達は、宝くじを買って賭けに出た。
後日。
「うぉぉぉおおおおお!」
一等前後賞併せて七億の大当たりを引いて、伊達は見事に黒字を挙げた。
「金は天下の回りもの、ってな。
フゥ。富澤、お前、分け前は幾ら欲しい?」
「じゃあ、七億!」
「はぁ?!フザケンナ!
そもそもがお前の不手際が原因だろ。
お前の分け前、ゼロな!」
「………じゃあ、俺の不手際のお陰で当たったんだから、俺の物だよな?」
「お前じゃ、宝くじ買うなんてアイディアも出せないし、当たる買い方も出来なかったろ!
そんな奴が全額欲しいっつうなら、分け前はやらねぇ、っての!」
「なら、ハズレクジで!」
「ハズレクジ位なら良いか。
良しっ!当たりクジは俺の物、ハズレクジはお前の物だ!
お前が言い出した条件だ、文句ねぇよな?」
「おう、ソレで構わない」
二人の分け前は、こうして無事に決まったのだった。
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ハズレクジを貰った富澤は思っていた。
何故、最初の一組に大当たりがあったからと言って、残りのクジのアタリは確かめないのだろうか?と。
「やっぱり当たってた、一等前後賞併せて七億!ヨッシャ!
アイツ、スゲーツキしてんなぁ」
お零れを貰った富澤は、伊達の知らない所で言い分通りの七億を頂戴していたのだった。
このシナリオ通りに映画化しても、傑作になる保証は致しかねます。悪しからず。