推しが魔王だと知ったので、今日の討伐は手加減します(AI生成)
「ふう……っ」
アメリアは軽く息をついた。眼下には、無数の魔物がひしめく魔王城の城下町が広がる。手に握る聖剣「アストラル」は、眩い光を放っていた。
彼女は世界でただ一人の勇者だ。人類の希望、魔王を討伐する宿命を背負った存在。
そして今、その宿命の最終盤。目の前には、ついに魔王城の玉座の間へと続く、重厚な扉がある。
扉の向こうにいるのは、人類の敵、魔王ルシファード。
……そして、アメリアが心から推している存在だ。
(あぁ、ルシファード様……今日も変わらず麗しいお姿なのでしょうね!)
アメリアの胸は、討伐の緊張感と、推しに会える喜びで高鳴っていた。
魔王ルシファードを推すようになったのは、三年前。
討伐の旅の途中、立ち寄った寂れた村で、アメリアは一冊の古びた本を見つけた。それは、ルシファードの「設定資料集」だった。
なぜそんなものがあったのかは不明だ。だが、その本を開いた瞬間、アメリアの心は射抜かれた。
漆黒の髪、紫水晶のような瞳、そして、「人類の敵」という立場にありながら、城下町の孤児院にこっそり寄付を続けているという、尊すぎる裏設定。
特に、孤独を愛しながらも、実は動物と子供に優しいというギャップに、アメリアは完全に落ちた。
以来、アメリアは夜な夜な魔王に関する情報を集め、ルシファード様の「尊い」エピソードを見つけては、旅のモチベーションに変えてきた。
(本来の私は、魔王を憎むべき勇者。でも、ルシファード様はそんな単純な「悪」じゃない。だからこそ、推し活として、ちゃんと筋書き通りに討伐をしなければいけないの!)
アメリアは聖剣を握り直した。
魔王を倒さなければ、物語は終わらない。そして、討伐の過程も、推しの格を落とすような、みっともないものにしてはならない。
魔王ルシファードは、最強で孤高の存在でなくてはならない。その「設定」を守るのが、勇者としての、そして一ファンとしての、彼女の使命だ。
「さあ、推しとの最終決戦よ!」
意を決して、アメリアは扉を蹴破った。
きらびやかな玉座の間。深紅の絨毯の先に、黒い玉座に腰掛ける一人の青年がいた。
ルシファード。
資料集通り、いえ、それ以上に美しく、威厳のある佇まい。紫の瞳が、アメリアを静かに見つめる。
「来たか、勇者よ。よくぞここまで……世界を救うという、その途方もない使命を背負いながら」
声まで麗しい。アメリアは思わず顔が緩みそうになるのを、必死にこらえた。
「魔王ルシファード! ここで、全てを終わらせる!」
アメリアは聖剣を構える。
―――(作戦)―――
魔王ルシファードの絶対設定:
1. 最強の魔術師であり、勇者の攻撃を易々と弾く。
2. 力を開放すると、背中に黒い翼が生える(超尊い)。
3. 致命的な攻撃を受ける直前、わずかに隙ができる(アメリアにしか気づけない、孤独な優しさの現れと解釈)。
アメリアの目標:
「勇者」として全力で戦っているように見せかけ、ルシファード様の「設定」を崩さぬよう、**「致命傷だが即死ではない一撃」**を与える。
ルシファードが、漆黒の魔力を放つ。資料集に載っていた「闇の裁き」だ。
(来る! 最強の魔王の、最強の攻撃!)
アメリアは全魔力を込めた「光の盾」を展開し、正面から受け止めた。
ゴオォォ!
すさまじい衝撃。アメリアは数メートル後退した。
(よし、完璧! これで「勇者が最強の魔王の攻撃を耐え抜いた」という伝説が作れるわ!)
実際には、アメリアは事前に魔王の魔力の傾向を徹底的に分析し、魔力を最大限に防御に回し、威力を半減させる結界の術式を密かに編み出していた。
ルシファードは、わずかに目を見開いた。
「……ほう。見事だ、勇者。だが、次で終わりだ」
そう言うと、彼の背中に漆黒の翼がゆっくりと広がった。
(キタアアア! 設定資料集通りの黒翼! 神々しい……! これが、私の推し!)
アメリアは内心で悲鳴を上げたが、表情はあくまで真剣だ。
ルシファードは、魔力の奔流を聖剣に叩きつける。これは、**「伝説の一撃」**だ。
アメリアは、この一撃を避けてはならない。避けては、ルシファード様の格が落ちてしまう。
彼女は正面から受け止め、渾身の力で聖剣をぶつけあった。
キィィィン!
玉座の間が光と闇に包まれる。アメリアの聖剣が、魔王の魔力に負けて、わずかに折れた。
「くっ……!」
吹き飛ばされるアメリア。これは、**「最強の魔王の前に、勇者が敗北寸前になる」**という演出。
(さて、ここからが本番!)
ルシファードが、最後の魔力を込めた一撃を放とうと、剣を振り上げる。
その刹那―――
アメリアが資料集から読み解いた、「孤独な推しが、わずかに心を揺らす一瞬の隙」。
彼女はその隙を見逃さなかった。
「これで、おしまい!」
アメリアは、折れた聖剣の柄に隠し持っていた、小さな魔力抑制の銀のナイフを、ルシファードの左胸――心臓から少しずれた場所―――に投げつけた。
聖剣の一撃を凌いだ後の、油断を誘う、極めて地味で地道な一撃。
ルシファードは、それを避けなかった。避けるという選択肢を、魔王は取らなかった。
ナイフは、深々と、しかし致命傷ではない角度で、彼の胸に突き刺さる。
「ぐっ……」
紫の瞳が見開かれ、ルシファードは膝から崩れ落ちた。
ドサッ
黒い翼が消え、魔力の奔流が止む。玉座の間に、静寂が訪れた。
(よし! 成功! 胸に深手は負わせたけど、これで**「致命傷だが即死ではない」**。魔王は復活するか、あるいは力を失って隠棲する設定に繋がるわ!)
アメリアは聖剣を杖にし、ルシファードに歩み寄る。
「私……勝ったのね」
アメリアは涙をこらえた。推しを討伐した悲しみと、推しの設定を守り抜いた達成感。
ルシファードは、苦しげに笑った。
「見事だ、勇者。……世界はお前に、託す」
そう言って、彼は静かに目を閉じた。
アメリアは、彼の胸からナイフを抜き取ると、そっと彼の手に握らせた。
(ルシファード様、お疲れ様でした。あなたという最高の推しのおかげで、世界は救われました。そして、あなたの第二章は、これから始まるんですよ)
彼女は城を後にした。世界は救われた。勇者アメリアは英雄になった。
その一か月後、アメリアはひっそりと勇者を引退した。
そして、場所を変え、名前を変え、世界を放浪する中で見つけたのは、魔物のいない小さな村。
その村の孤児院の庭で、子供たちに囲まれ、穏やかに微笑む一人の神父の姿があった。
漆黒の髪に、紫水晶の瞳。左胸には、うっすらとナイフの痕。
(ああ、ルシファード様……隠棲設定、ありがとうございます!)
アメリアは遠くから、涙ぐむ。
「推し」の平穏な隠棲を見守る。これこそが、彼女の新たな「推し活」の始まりだった。
彼女はそっと、孤児院の近くの家を借りた。もちろん、神父には気づかれないように。
今日の夕食は、ルシファード様が好きそうな、野菜たっぷりのスープにしよう。手加減した討伐の後の、これは推しへの献身だ。
(ルシファード様、今日も尊いです!)
アメリアは心の中で叫び、静かに、そして熱狂的に、新たな生活を始めたのだった。




