世界の終わりの七日間、彼らは猫を抱いていた(AI生成)
その知らせは、いつも通りの日曜の朝に届いた。世界は、あと七日間で終わるらしい。
テレビの画面は、静かなパニックを映し出していた。専門家も政府も、なぜ、どうやって、という答えは持っていなかった。ただ、七日後の午前零時をもって、この星のあらゆる生命活動が停止することが、観測によって「確定的」となったのだという。
アパートの一室、佐伯と美月は、ソファに沈み込んでいた。彼らの間に、丸く、温かい重みがある。美月が保護施設から引き取った、推定三歳の茶トラ、リクだ。
「どうする?」佐伯が絞り出すように言った。
美月は何も言わず、リクのやわらかい毛並みを撫で続けた。リクは喉を鳴らし、満足げに目を細めている。世界が滅びるなんて、この小さな生き物には関係ない。彼にとっての「世界」は、この温かい部屋と、この二人の人間と、皿の中のご飯だけだ。
「私、どこにも行きたくない」美月がようやく口を開いた。「食料とか、水を確保しに、って言う人もいるけど。どうせ七日後には、何の意味もないじゃない」
佐伯は同意した。騒ぎに巻き込まれたくなかった。外は、もう混乱の渦の中だろう。彼らが選んだのは、この部屋で、最後の七日間を生きることだった。
最初の三日間:日常の崩壊と再構築
最初の三日間は、奇妙な時間だった。電気はまだ通じていたが、インターネットは途切れがちになった。佐伯は有給休暇を取るための電話をかけたが、会社はもう機能していなかった。
彼らは、残っていたレトルト食品と、冷凍庫の肉を順番に食べた。そして、リクのために残しておいた上質なキャットフードを、少しずつ分け与えた。
二人は、普段なら忙しさにかまけて見ることのなかった、お気に入りの映画をたくさん見た。映画の登場人物が、ささいなことで笑い、泣き、未来を語るのを見るのは、不思議な感覚だった。
夜、佐伯が美月に言った。「リクは、どう思ってるんだろうな。俺たちがずっと家にいて、撫でてくれるから、ラッキー、くらいに思ってるのかな」
美月はリクを膝に乗せ、その額にキスをした。「きっと、いつもの平和な毎日が続いているって思ってるわ。私たちにとっては、彼がいることが、平和の証明みたいなものよ」
残り三日間:静寂の訪問者
四日目に入ると、外の音はほとんどしなくなった。車のクラクションも、人々の叫び声も、遠くのヘリコプターの音さえも。
五日目の朝、電気が消えた。
六日目。佐伯は窓を開け、街を見下ろした。誰もいない。誰も動いていない。まるで、時間が凍り付いた世界のようだった。彼は、美月とリクに、決して見せなかった一瞬の恐怖を感じた。
その日、美月はアルバムを取り出し、彼らの思い出を語り始めた。初めて二人で旅行に行った場所。リクを抱き上げた日。ささやかな、愛おしい過去。
「ねぇ、佐伯くん」美月が言った。「もし、これが夢じゃなくて、本当に明日で終わりだとしたら、一番幸せなのはリクよね。何も知らずに、ただ愛されて、眠るようにいなくなるんだから」
佐伯は美月を抱きしめた。そして、その腕の中にいる美月と、二人の足元で丸くなっているリクの温もりを感じた。
「ああ、そうだな。リクは、世界で一番幸せな猫だよ」
最終日:最後の抱擁
七日目の夜。
部屋の中は、キャンドルの光に揺れていた。残りのキャットフードを少し温め、リクに食べさせた。リクは満足そうに平らげ、水を飲んだ後、いつものように美月の膝に飛び乗った。
午後十一時。
美月はソファに背を預け、リクを胸に抱いた。佐伯は美月の隣に座り、彼女の肩を抱いた。リクは、二人の間に挟まれ、二つの心臓の鼓動を聞いている。
「ねぇ、佐伯くん」
「ん?」
「私たち、何があっても、最後まで一緒にいられたね」
「ああ」佐伯は強く頷いた。「それだけが、俺の、たった一つの誇りだ」
リクは、喉を鳴らし続けた。その振動が、佐伯の腕と美月の胸に伝わる。ゴロゴロという、永遠の平和を約束するような、小さな音。
午後十一時五十九分。
キャンドルの炎が、揺れることなくまっすぐに立ち上がっている。
彼らは、愛しい猫を、しっかりと抱きしめた。
そして、午前零時。
リクの喉のゴロゴロという音が、わずかに途切れた。
佐伯と美月は、その温もりを、世界が暗転する最後の瞬間まで、肌で感じていた。
彼らが最後に見たものは、暗闇ではなかった。愛する猫の、満足げに閉じられた目と、その小さな体の、究極の安らぎだった。
世界の終わりの七日間、彼らは猫を抱いていた。そのぬくもりだけが、彼らの、そして世界の、最後の真実だった。




