唇亡びば歯寒し(2)
唇亡歯寒
唇亡びば歯寒し(戦国策より)
春秋時代の大国の分裂……
優れた二人の臣下が主君の為に頑張ります!
ぜひ、本文を読んでみてくださいね。
(よしー・・・この機会を逃しはしない)
今までに着たことのないような質素な服は、
逆に張孟談の志を高くするのだった。
4日ほど前、近隣であったちょっとした韓氏との接触を機に韓氏の鎧を奪い、軍に紛れ込んだ。
もちろんこの数日で何も成果がなかった訳ではない。
紛れ込んだ直ぐには、状況が分からないまま
流されるようにこの拠点まで来てしまったわけだが、
なんと本当に幸運なことに、ここに韓・魏の両当主がいるという。
そして、今、私の前にある天幕の中には奴らがいるという次第だ。
この機会に殺して、内部から混乱を起こしてやってもいいのだが、……それでは余計、軍の統一を招くだけだ。
闇夜で、人が少ないところを見計らって天幕に入る。
「……!!誰だ!……ん?お前は……」
「こんばんは。久しいですね、御二方。」
韓康子(韓氏当主)は、こちらに気づくと警戒した様子ではあったものの、傍で剣を取ろうとしていた魏宣子(魏氏当主)を止めた。
どうやら、二人だけで密談していたようである。
「魏宣子、今ここで騒ぎは良くない。趙の張孟談……敵陣まで来るとは、よっぽどのことと見受ける。」
「無論、お二人に話があって来た所存です。」
韓康子は、椅子に座ると頷いて話を促した。
「私はこういう言葉を聞きました、『唇亡歯寒』。唇がなくなったら歯が寒い……。
今、智伯はあなた方を率いて、我が趙を討ち、そして趙は滅びようとしております。ですが、趙が滅びてしまったら、あなた方がこの次となるのです。」
張孟談が言うと、両氏とも顔を見合わせ、微かに笑った。
「そんなことは知っている。智伯殿は、乱暴で強欲だ。それを恐れ智氏に従ってはいたものの、とても信用できない。
私達も馬鹿ではない。お前の言う通り、智氏を裏切らなければ、韓も魏も滅びる。それはどうしても避けなければならん。」
「韓康子、だが、私達がそのような企てをしていると智伯殿が知ったら……滅びるもなにもないであろう」
魏宣子が不安そうに言う。
「魏宣子殿、ならばこのまま何もせず指をくわえて見ているのですか、あなたの一族が滅びる様を?
あなた方の謀は、あなた達の口からでて、私の耳に入ったのです。他の者は、このことを知りようもありません。」
韓康子と魏宣子は、顔を歪ませ、少し汗ばむ。
そう、私は二人を促しただけであって、裏切りは彼らが決めたことなのだ。
智伯を裏切り、趙と手を組むしか道はない。
そして、趙と韓・魏は密約を交わし、全軍を智伯を倒すために投入することを約束した。
張孟談は、この話を上司である襄子に報告すると、彼は張孟談に深くお辞儀したという。
ありがとうございました。