社長登場
「風魔法【真空刃】・十連」
風の刃を10個連続で放つと、あっという間に魔女の身体は切り刻まれ、砕け散った。だが、血は流れ出ない。まさか。
「傀儡か」
飛散したのは木片だった。この距離まで近づいてなお人間と錯覚させるとは、相当精巧な魔力人形だな。術者の力量も高いのだろう。
何にせよ、黒幕は安全地帯からリモート参戦というわけだ。
「チッ、しくじったな」
木片に手を触れるが、もう魔力は感じられなかった。逆探知もできない。
そんなときだった。それなりに濃い魔力が感じられた。
これは……人除けの魔術か。それに防護結界まで。おかげで兵士たちは俺に気づかないし、銃弾も飛んでこないというわけだ。
「久しぶりね、大河」
4m四方はあろうかという巨大な絨毯に乗った女は、懐かしそうに声をかけてくる。金髪碧眼に整った顔立ち。そして背中に背負った身の丈ほどはある薙刀が印象的だ。
「何かと思えば、エレナか」
天堂エレナ。
ハーフの帰国子女で、小学5年の頃から家族ぐるみの付き合いのあった幼馴染だ。
「相変わらず素っ気ないね。5年ぶりの再会だってのに」
「素っ気ないか? これでもかなり驚いているんだが。お前とはもう二度と会うことはないと思っていたからな」
実際、俺はかなり驚いていた。
この世の戦場から悪魔を根絶すると決めて以来、そう長くは生きられないだろうと予期していた。いくら世界最強の魔術師といえど、強力な悪魔と幾度も戦えば消耗していく。寿命が削られる。それに、世界最強といえど不意を突かれることがないとも言い切れない。
「二度と会うことはないと思っていたって……私と会う前に死ぬだろうと思ってたってこと? 命を粗末にするようなこと、言わないでよ」
「……すまない」
「まぁ、いいけど。あんたがなんでそんなことを志すようになったかは、また今度訊くわ。そんなことより、うちに来ない?」
「うちって?」
「あぁ、申し遅れました。私、こういう者です」
エレナは仰々しく名刺を差し出してきた。
「合資会社アクロウィザード 代表取締役社長 天堂エレナ」
名刺にはそう書かれていた。
まさか20歳にして社長になっていたとはな。起業でもしたのだろうか。
「あいにくだが、スタートアップ企業に入るようなリスクは冒したくない」
起業して失敗する若者は星の数ほどいると聞く。ストックオプションがどうとか言われるのだろうが、それでも入る気にはなれない。
「何か勘違いしているようね。アクロウィザード社は、私が買った企業よ。元々の名前は、オリエンタルブレス社」
「オリエンタルブレスだと?」
オリエンタルブレス社といえば、「ティーカップを専門に取り扱う会社」という建前のもと、数々の魔具を魔術師に売りさばく巨大企業だ。
「買ったって、どうやって?」
オリエンタルブレス社は有限会社だが、その総資産は数百億円。とても個人で買えるような規模の会社ではない。
「譲ってもらったのよ。私の事業計画を話して、賛同してもらったの」
「マジかよ……」