戦場の魔術師
世界最強の魔術師に与えられる称号、【第一級魔術師】。
俺こと、黒田大河は、その第一級魔術師だ。
最強の魔術師のわりには地味な称号だと思う。もっと、【魔神】とか【魔王】とかでもいいんじゃないか? まぁ、後者の場合はなんか悪役っぽいので嫌だが。
何にせよ、俺は20歳にして世界最強の魔術師になった。だが、この現代日本に、魔術師の居場所はない。
なぜなら魔術師とは、人知れず神秘の探求を行う者だからだ。魔術師は世界に数千人単位でいるが、その存在は、一部を除いて一般人には知られていない。
だから、その「一部」を叩き潰しに行く。それが、今回俺の引き受けた仕事だ。
100km望遠の魔術で敵陣を監視していると、動きがあった。
どうやら進軍してきたようだ。
ここアフリカ大陸では、未だに民兵やら武装組織やらの内紛が続いている。犠牲になる一般人は数知れず。
彼らが武器を取るのは貧しさのためだ。
生命創造系の魔法でも使って食糧を大量供給し、助けてやりたいところだ。だが、あいにく世界最強の俺とて、そこまでの魔力は捻出できない。
だから、魔術を一般の兵士に流し、戦争に悪用する者を成敗するくらいのことはしなくてはならない。
一般に流された魔術とは、すなわち召喚術。それも地獄から悪魔を呼び出し使役する魔術だ。この戦場では、天を衝くばかりの巨大な黒い影が何度も目撃されているという。
高位の悪魔の使う闇魔法【黒影神】だろう。闇の魔力を巨人の形に凝集させる魔術だ。
悪魔などという存在が戦場に投入されれば、魔術の隠匿ができなくなるのはもちろん、広範囲に災禍が撒き散らされかねない。
本来であればこの案件はエクソシストの領分なのだが、こうした危険な戦場が舞台では、彼らは頼りない。戦闘力の高い俺が出向かなければならないというわけだ。
戦いが終わるのをひたすらに待つ。
血と硝煙の匂いが立ち込め、防護結界越しにも爆音が轟いてくる。
世界最強たる俺が乱入すれば、全員を無力化することは容易い。実際、今までもそうしてきた。
だが、何の解決にもならなかった。焼け石に水というやつだ。
戦争は繰り返される。子を殺された親は、兵士に育てるべくまた次の子を産むだけだ。
だから今は、悪魔が出現するまで、じっと耐えるしかない。
20分後。戦いが収まりかけた頃、その時は来た。
強烈な魔力反応がこちらに向かってきたのだ。
間違いない。
あの緑色の狩人服を着ている男―悪魔レライエだ。
レライエは争いと論争を引き起こすことができるという。戦いの終わり際に召喚すれば、また新たな戦いを引き起こしてくれる。戦争が戦争の連鎖を生むよう仕向けるには、うってつけの悪魔というわけだ。
どこの誰だか知らないが、魔術使って戦争で儲けようとは。あくどい連中だ。
「聖魔法【聖雷】」
中級聖魔法を発動する。白い光線は、レライエの頭を撃ち抜いた。
その後もじわじわとレライエの頭部を聖属性の魔力が侵食し、確実に命を削っていく。
「終わりだな」
大河がそう口に出したときだった。
一人の女が現れ、レライエの額に手をかざした。すると、傷はみるみるうちに塞がっていく。
魔術師か。
この戦場に召喚術を流した張本人と見ていいだろう。
「待ってろ。今すぐ狩り殺してやる」
大河が飛行魔法で急接近すると、魔女の方も鞍付きの箒に乗って離陸した。
しかし、箒なんて時代遅れな代物に頼らなければ空も飛べないとは。情けない奴だな。