カフェへ
公園のベンチに腰をかけている。することはない。
「俺、追い出されたのかな」
まだ子供がたくさんいる公園に俺の声は届かない。
「仕事はちゃんとやってたはずなんだけどな」
あのときから俺はずっとこうだ。いつもやっていたことをやらなくていいと言われると追い出されたと勘違いしてしまう。
自分でも勘違いだと思ってる。なのに、あの記憶が鮮明に蘇ってきてなかなか勘違いだと断定することができない。
「どうしたの?おにーちゃ」
顔を上げ前を見ると小さい女の子がいた。こういう純情な子はまだ人間の醜い部分を知らないんだろうな。
「こらダメでしょ、美保。すいません、迷惑かけちゃって」
「あっ、いえ」
「ほら、いくよ」
「でも、あのおにーちゃ悲しそうな顔してるよ?」
「大丈夫だから、お砂場行こ?」
「うん、おにーちゃ、バイバイ」
声をかけてきた女の子とその母親が目の前からいなくなる。
そうか、俺悲しそうな顔してたんだ。
「情けないね」
後ろから急に声をかけられる。その声の主はあの迷惑先輩だった。
「なんでしょうか」
「あんな小さい子に心配されるなんて情けないなーと思って」
「あなたには関係のない話です。失礼します」
俺はさっさと話を終わらして帰路に着くことにする。こういうときはさっさと帰って寝る。これが一番の対処法だとあのときわかった。
「なんで失礼しちゃうのー?」
「あなたが嫌いだからです」
「あっ、嫌い。いやー、分かっていても本当に聞くと悲しくなるもんだねー」
迷惑な先輩は一瞬だけ悲しそうな顔を見せるとすぐに切り替えてきた。
「では、失礼します」
「まあ、ちょっと待ってよ」
迷惑な先輩に腕をグッと掴まれて動けない。振りほどくために振り返る。
「なんですか」
「おっ、やっとこっち向いてくれた」
「そういうのは要りません。早く用件を伝えてください」
俺が迷惑先輩にそう言うと先輩はニッと笑う。
「圭吾から聞いた?あの話」
「……聞きました」
「ねえ、長岡くん。君、私のこと騙したよね?」
とても笑顔だ。なのに声はとても固く冷たい。
「……なんのことか自分にはわかりません」
「そうかー、わからないか。んじゃ、しょうがないな」
「では、これで失礼します」
「まだ終わってないよ」
この声も固く冷たい。
「……まだなにかあるんですか?」
「うん、あるよ。長岡くんが私を騙したことを認めて、許す条件として連絡先を聞くって言うので終わらせるつもりだったけど」
「だったけど、なんですか?」
「認めてくれないし、冷たい態度とるからちょっと私に付き合ってよ」
「お断りします」
「えっ、いや、一緒にご飯にいくだけだから」
「嫌いな先輩といく意味が理解できません」
「じゃあ、惚れさせてあげるよ。私にメロメロになっちゃうな」
「無理ですね。もしそうなったとしても、そうなっていたらもう自分の頭がおかしくなったとしか考えられませんね。ではこれで」
俺は今度こそ帰路に着く。もうこんな日はうんざりだ。さっさと帰って頭に整理をしたい。
「逃がさないから。じゃカフェ行こ」
迷惑先輩は俺の腕に抱きつき引っ張ってつれていこうとする。
俺は生徒会で、ほとんど家からもでないので運動ができない。それに対して迷惑先輩は運動部のエースだったので、引退して時間が経っているとはいえ、力の差は歴然としている。
「んじゃ、カフェにレッツゴー」
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