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  作者: ココア*
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【峻:(18) 澄:(14) 萊:(12)】

帰ると萊が駆け寄って来た。

足に抱きつくなり泣き出すから俺が困る。

たかが一週間と三日だ、何も無かったかと問い掛けると萊はたちまちしょげて此方を見ては彼方を見て、を繰り返し始めた。


分かっている。何も無い訳がなかった、その原因も胸に刺さる位に分かっている。

毎年何よりも優先してきた事を今回逃げてしまったことも知っている。


悄気た萊に布団へ行くように言うと、すんなり言うことを聞いてくれた。

これで一番厄介、重要な問題に向き合える。



「ただいま」


一人、隔離した布団に座っている弟に声を掛ける。

澄は此方を見ようともしない。

根気強く話しかけるべきか否かは分からない。


これまでとは違う俺の知らない" 澄 "だった。


様子を伺う為、一度離れて土産を開いた。



寝息をたてる萊を見ながら考える。


本当は分け隔てなく接するつもりだった。

兄弟とはこう有るべきで、どうすれば良かったか等あの日から悟っていた。

「理想」にすがらせた俺が悪かったのか、優しい兄に身を委ねすぎた弟が悪いのか、それをずっと爽は考えていたと最後に聞いた。


準備を終え、澄の前に簡易的な机を用意し向き直る。


「…え…?」


思わず言葉が漏れたといった所か、目を一瞬こちらへ向けて動かした。素が出たといった所か。


「誕生日迎えたろ、居ない所で気にしてないだろうけどこれ。」


以前、目を輝かせしきりに俺がしているピアスを見ていた澄。

ならば喜んでくれるだろうとあらかじめ買っておいたピアスを差し出した。

"あの頃"の澄なら喜んだかもしれないが、変わってしまった今の澄がどう反応するのか見当がつかない。


まだまだ俺も弱いもので、固まる澄を見て怖くなり布団に潜ってしまった。

昨晩遅くまで話していたせいか、はたまたずっと動き回っていたせいなのか、直ぐに睡魔に襲われ、自然に目が閉じた。



早朝、目が覚めた。

やってしまったと嘆きながら身を起こす。

萊はまだ起きていない様で、まだ寝息をたてて眠っている。


気付くと、目の前に小箱を持って澄が現れた。ぎこちないながらも少し笑いながら口を開く。


「…ありがとう、峻兄ちゃん」



一瞬、驚きで目眩を起こす。確かに今兄ちゃんと呼んだのだ、あの言葉を吐き捨てた澄が。


希望を持った。やはり悪い夢だったのか?そうかもしれない。

同級生に変な事を言われ気がたっていたのか、3日の間に記憶喪失になっただけの話か。


そう考えたのが間違いだったと知ったのは、その数秒後の事だった。



「これで罪滅ぼしになると思ってるんならそれは間違いだけどな。俺の変貌の訳を知りたいんならちゃんと互いに話す場位作れよ、逃げてばっかりの兄貴」



澄ははっきりと目を見て、濁す事なく言い放った。

これでまた何度目かのダメージを食らったのだろうか、視界がぼやける。


澄の言う事は最もだった。正解だ、俺は逃げてばかりで向き合う姿勢等取れていない、取れない。弟の前で弱い所を晒したくも無かった。


澄はやはり俺が変えてしまったのか?今、この場できちんと話せば全てを元通りにする事が出来るのか。堂々巡りの思考を裁ち、やっとの思いで口を開いた。

表情を一度も崩さなかったのはせめてもの強がりと笑ってほしい。


「分かった、萊が家を出たら話そう」

そう、笑って言った。


朝御飯はトーストに味噌汁を作って二人が食べるのを見ていた。

萊と澄が好きな食べ物を組み合わせてはみたが食べ合わせは大丈夫だろうか。


萊の前では澄も笑って話しかけてくる。

お互い萊には事情を見せないつもりらしい、考える事だけは似てしまう。


「行ってきますっ」

萊が家を出た。やっと、と言いたくなってしまうのを抑えながらドアを確認する。

既に話す準備は出来ているのか、澄が座っているのが見える。



「何も話す事無ェだろ、終わる」


俺が座った瞬間にそう言う辺り、ひねくれているのか怒っているのか。


「許せ無いのは分かってるよ、昨日のも罪滅ぼしなんかじゃ無い。まずは話を聞いてくれ」


もう癖になっている、ヘラっと笑う動作。

それがいけないのも知っているが戻すに戻せない。


尚も相手は黙っている。

口を開きかけた瞬間、澄が俺を睨み付ける。


「聞いて欲しいんならその声、その口調、その笑顔何とかしろよ!ンでそんな見下す様な事すんだよ、クソイラつくんだよ!」


と、言われた。

灰皿を投げつけられた、かわしたくなかったのに手が勝手に受け止める。


成る程と思った。ストン、と何かが胸に落ちていく音がした様な感覚。

口を開いた時にはしっかり仮面が出来ていた。


「別に何もしてないだろ?これが俺、" 峻 " だろ」

「な、話す事確かに無いよな申し訳無い、もう出ていかないし萊とも澄とも仲良くしたいぞ兄ちゃんだからさ~、


言い切る前に体が揺らいだ。

状況把握に時間が掛かったが、澄だった。


幼少期から泣いた所をあまり見ていなかった澄が涙をぽろぽろ流しながらすがり付いてきた。

俺が見れてなかっただけか、何も出来てないな。


「兄ちゃんが無理すると俺、知ってる、あの時の顔で本音、分かってた、ごめんなさい」


言葉になってないし所々聞き取れない。

只こいつは無理して突っぱねてた事だけ分かった。


「もっと俺らに、僕たちに相談とか、無理に笑わないでも良いのに…」


もっと、の部分から何も聞こえなかった。

耳が受け付けていない?のか。

弱々しく泣くなよ男の癖に、と笑ったら怒られてしまった。


とりあえずその場で慰めてから、二人で美味しい物を買おうと提案し歩いた。



翌日からは、澄が尖った口調になっていた。

もう睨まれる事も無かったが、ニコニコと笑いかけてくれる事も無くなった。





俺はどうしたら壁を、一番大事な兄弟との壁をなくせるのだろうか。



何処で間違えたのか、考える癖がついた。

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