【峻:(16) 澄:(11) 萊:(10)】
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「おかえり峻兄ちゃんっ、今日は何したの!?」
小走りで迎えに来た5個下の弟。名前は澄。
俺を慕ってくれる上、文句の一つも言わず家事を手伝ってくれる。
初めて親に殴られ蹴られ、嘲笑と共に鍵を閉められた日から既に13年が経った。
あの女と最後に対峙した中2の初夏。
澄がまだ8歳だというのに殴り蹴りご飯を与えずと暴走するから、いよいよ限界を迎え、庭に引き摺り込んだ。
それが人生で最初に見た人間の「恐怖」だった。
自分の支配下に置いていた筈の小動物がいきなり胸ぐらを掴んでくる猛獣と化したのだ、当たり前だろう。
当時、親にどう反抗してやるか試行錯誤していた際。
丁度と言うと言葉は悪いが、澄がちょっとした喧嘩をして負けた。それに目を付けた俺は「勝つための練習」と称して密かに二人で特訓をしたのだ。
庭の草と一体化したかのように崩れる女に俺は離婚届を突き付け、判と署名をさせた。父親の筆跡を真似て記入し見せるとまた少しの絶望顔を晒した。父親と俺の文字が異なる事すら分かっていなかった。
あんな扱いでも愛していたのか。それとも独りになるのが怖かったのか。
何とか離婚を成立させ、後から父親に打ち明けた。特に何と言う反応も無く理解しまた出張に出掛けた時には流石に何も言えなかった。
ずっと放っておいたお前からは何も無いのか?
何故あの女を俺らに押し付けた?
巡る思考を抑えようとしているその最中、入れ替わりの様に女が入ってきた。
それからの日々は瞬く間に過ぎた。
そいつは父親の新しい女で、理解し難い物の母になると言い出す。連れ子もいた。
女が近所中と無駄に話したせいで家の状態は晒された。
澄の他に、弟が増えた。
これも大きかった、正直今でもまだ壁は感じている。
澄に見られる事なく済ませた前回になぞらえて再度庭に出した。
二度目の女には更に手荒な真似をした。
その後何をしたかは誰にも言わないと決めている。
ただ一つだけ言えることは、相応の事をされたからやり返そうとした迄、其だけ。
終わらせた後、荷物を纏めて澄と新入りにそれなりの説明をした。
新しい弟の名前を聞くと、俺と一文字しか違わず本人もあまり気にしてなかったから俺が新しく付け直した。
長く強く生きて欲しいと願い蓬莱の山から取って付けたのに、後から調べると
「雑草の生い茂る場所」と出てきて、申し訳なさと同時に庭で罰されたこいつの親を思い出し頭を撫でてしまった。
「兄ちゃん…?」
「…あ」
心配そうに訪ねてくる澄と、後ろに隠れるようにして見つめる萊に慌てて取り繕う。
「大丈夫だ、心配掛けたな。今日はまた悪い奴飛ばしてきたぞ」
に、と性に合わない笑みを貼り付けると瞬間、二人の顔に笑みが広がる。
二人には昼間高校に行って「悪い奴」と戦っていると説明してあるが夜間学校に行っていて更に高校には殆ど行けていない。
いわゆる闇バイトに手を出していた、
暴力で手に入れた金を使って弟を養っているのかと考えたら胸が痛む。
客に暴力を振り振られ、勝敗に大金を賭けられる。
勝たなきゃいけないから勝つ。そんな悪者を倒している兄ちゃんは本当に格好いいのか?
「僕、将来兄ちゃんみたいに強くなる…!」
何かを決意したかのような顔でぐっ、と拳を握りしめる澄。
「ぼ、ぼくも!!」
それに便乗して跳び跳ねる萊。
「いやいやお前らには無理だから大人しくお勉強しててくれ、兄ちゃん晩御飯作るわ~」
「「!?」」
あまりに驚く弟達に思わず素で笑ってしまった。
でもせめてお前らには、兄ちゃん全うな人生に軌道修正してほしいんだよな。
やいのやいのと騒ぐ二人をダイニングのテーブルに向かわせ、勉強を開始させる。
こう見ていると2年で大分大きくなった。
料理の手を休め見つめていると自分が澄の方を多目に見てしまった事に気づく。
あの事件から一緒になった萊に、俺は未だ澄と同じ扱いをできる大人に成りきれていなかった。
行動では出来ても、心情では。
怒りの矛先を間違えて感情をぶつけそうになった事もあるが、何とか堪えて笑顔を保てる。まだ保てる。
いつか澄か萊がこの気持ちに気付いてしまうかもしれない。
それを恐れている辺りまだ子供だと実感する。
諸々を合わせてこんな最低人間が俺。
16にして歪みきった人格に成り果てた。
焼け焦げ始めるハンバーグをひっくり返す。
俺もこんな風に焼かれて罰されれば良いのに。
こんな風に、料理を作ってくれる人が
頼れる人が居たら
叶わない夢は持たないって決めたか。
盛り付けて完成。
「おーい、ハンバーグ出来たぞ」
「「わー!!! …




