友達以上恋人未満
「おーい 飯をくれ~」
招き猫の様な手つきで俺のコンビニ袋をつつく由香里。
「はいはい」
俺は屋上の壁際に座り込みながら、手にしたコンビニ袋を由香里に渡した。
「今日はツナマヨと焼きそばパンの気分かなぁ♪」
その言葉通り、コンビニ袋の中にはツナマヨのおにぎりと焼きそばパンが入っていた。
「やった! 当たりぃ!」
由香里は悦びながら焼きそばパンの袋を開け大きな一口を齧った。
「ほほしてはきほははんはへはひっへふぁふぁっふぁの?」
「何となくだよ、なんとなく……」
由香里と俺は高校で知り合った仲だ。屋上のサボり仲間がいつしかこうやって飯まで一緒に食べるようになった訳だ。きっかけはアニメ『スタープリンセス☆プリティラビット』のキーホルダーをお互い点けていたのに気が付き、あっと言う間に仲良くなった。やることなすこと好みが同じで話も良く弾むから一緒に居て楽しい楽しい。
「トマトジュースは?」
「何でトマトジュース買ったのまで知ってるんだ!?」
「いや、トマトジュースが飲みたい気分だったから、あるかなぁ……ってね」
由香里は俺の飲みかけのトマトジュースを容赦無くグイグイと飲み干していく。飲み終えた由香里は蓋もせずに俺に突き返した。
「アンタ、好きな人居るの?」
「おふっっ!?」
思わずトマトジュースの容器を落としてしまった……。
「いっ、居るような……! 居ないような……!」
俺はあたふたしながら極めて曖昧に答えた。
「ふぅぅぅん……。ねえ、男の人って女の子にどんな告白されたら嬉しいかな? ねぇ! アンタならどんな風にされたい!?」
「………………」
胸元曝け出しながらいきなりキスされて「好き♡」とか言われたい……なんて口が避けても言えねぇわな(笑)
「普通で良いんじゃないか?」
「普通って何よ」
「好きです、付き合って下さい……とか」
「分かった。やってみる」
由香里は徐に立ち上がると、服の埃を叩いて足踏みをした。
(え? まさか……俺の事…………)
「じゃ! 行ってくるね!」
由香里は手を上げると一目散に屋上から立ち去った。残された俺は呆然と立ち尽くし、空のトマトジュースが風でコロコロと転がっていった……。
5分くらいすると、屋上に由香里が戻ってきた。
「ちょっと! ダメだったじゃない!!」
血相を変えた由香里は俺の胸ぐらを掴み今にも屋上から投げ飛ばさんとする勢いだ!
「ま、ま、ま、待て待て!」
「よくも女の子に恥をかかせたわねぇ!」
ギリギリと締め付ける由香里に、俺は意識が怪しくなってくる。
「だ、誰に告ったんだ!?」
「三年の井上先輩よ!!」
「い、井上先輩は彼女が居るぞ……!!」
「……へ?」
力が緩み、ゲホゲホと咳き込みながら空気を求め呼吸を繰り返す俺。危うく殺される所だったぞ?
「先輩……彼女居たの?」
「サッカー部のキャプテン井上先輩と、その美人マネージャーが付き合ってるのは周知の事実だ。お前知らなかったのか?」
「……び、美人!?」
「弁当も毎日作ってるってよ?」
「お、お弁当!?」
「勉強も出来て趣味はピアノだそうだ」
「さ、才色兼備!!」
「おまけに乳がデカイ」
「ち、乳まで……!!」
ボコボコに打ちのめされたボクサーの如く由香里はフラフラと壁に寄りかかり、力無く地面へとへたり込んだ。
「それで、お前には何があるんだ?」
「…………な、無いわ……乳すら……」
グズグズな顔をする由香里へしゃがみ込み、俺はポケットで握り締めた両手を差し出した。
「今、何が欲しい?」
「……チョコレート」
「ほらよ」
俺は左手を開き、一口サイズのチョコレートを由香里に見せた。
「あと、いつものコーヒー味の飴も」
「ほら」
今度は右手を開き、握っていたコーヒー味の飴を由香里に差し出した。
「食って元気出せよ!」
「……私ってそんなに分かりやすい?」
由香里はチョコレートを舐めながら俺の顔を見た。
「知らん。俺が食いたかったから出しただけだ。それがたまたまお前と同じだっただけさ」
コーヒー味の飴をガジガジと齧り、由香里は立ち上がると俺の方を見ながら顔を赤らめた。
「?」
「流石に乳を曝しながらキスは勘弁だわ……」
そう言い残し、由香里は屋上から去って行った。
「なっ! 俺ってそんなに分かり易いか!?」
去り際に手を振る由香里は、どこかスッキリとした顔だった。
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