攻略対象その4.アンディ・ウォレス(子爵令息)・前 ★
長いんで前後に割ります。
アンディのイラストUPしました。
「あれ?ナナセってば綺麗どころを侍らせて……是非私にも紹介してください」
ニコニコしながらアンディ様は言った。
私がこいつらの名前なんか知るわけないだろう。
『ロールパンと愉快な仲間たちです』とでも紹介してやろうか。
明らかに『ロールパ(以下略)』に私が絡まれている状況だが、そんなことなど関係なくアンディ様はニコニコしたまま彼女らに自己紹介を始めた。
「私はアンディ・ウォレスと申します。しがない1子爵令息です。『紹介して』とナナセには言いましたが、皆様の事は存じ上げております。右から順に、リューディア様、ロヴィーサ様、クロティルド様、アンス様、ナサレナ様……ですよね?」
水色のロングヘアーをひとつに纏めた(私の髪型に似ていることに今気付いた)細身で、中性的なアンディ様に妖艶な笑みを向けられ、ファーストネームを呼ばれた御令嬢方は一様に頬を赤らめもじもじする。
……そう、中央縦ロールことクロティルド嬢以外は。
クロティルド嬢は頬を仄かに染めながらも、高圧的な態度を崩さずアンディ様に物申した。ブレないとは逆にアッパレだ。見直したぞ縦ロール。
「ろくに話したこともない女性をいきなりファーストネームで呼ぶなんて、やはり下々の出の方は……」
しかしアンディ様は余裕である。アンディ様はクロティルド嬢の前まで進み出ると、かしこまって美しい礼をし、にこやかに再び自己紹介をした。
「失礼致しました、クロティルド・オーステルベーグ様。仰る通り私の家は商いで身を立てて参りました故……例えば宝石の原石のような物であっても磨いたあとの美しさに目がいってしまう。そう、貴女様がオーステルベーグ候爵家の御息女であることより、その美しさに目がいくように……」
「!!」
クロちゃん(名前が面倒臭いのでこう呼ぶことにする)は真っ赤になり怯んだ。
アンディ様は暫くクロちゃんの目をルビーの様な瞳で見つめた後、後ろの四人にも「ですから美しいご令嬢は全てファーストネームで覚えているのです」と、にっこり笑ってのたまった。
最早四人は「きゃー」と黄色い声を上げる始末。状況が不利だと感じたのであろう、クロちゃんは撤退することにしたようで、半身を後方に向けた。
しかし私は知っている……アンディ様は下町でも有名な『商人』なのである。
むしろデビュタント前の彼女らより、下町育ちの私の方が彼の評判を知っているくらいだ。
『アイツに近付くな、妊娠するぞ』という言葉を耳にしたことがあるかもしれないが、アンディ様の場合『アイツに近付くな、』の後に続く言葉が別にある。
————『なにか売りつけられるぞ』だ。
わざわざアンディ様が出てきた事を考えても、当然これで終わらせる筈はない。
彼は他のお嬢様方に声をかけて撤退しようとするクロちゃんを呼び止めると、そっと髪に触れた。
「失礼……御髪にゴミがついております。……美しい巻き髪ですね、我が商会がいち早く新商品のコテをそちらに納めたかいがある、というもの。使い心地はいかがですか?」
「え……ええ……あれはそちらの商品でしたの?毎日髪を巻く時間が圧倒的に早くなって重宝していますけれど……」
候爵令嬢とはいえ、寮に入っている者は基本、身の回りの事をある程度自分で行う。それが寮生活の目的でもあるからだ。
イチイチ自分で髪を巻いているのか、と思うとジャージで一本縛りの私はその女子力の高さに驚かされる。何時に起きてんだよ。
アンディ様は懐から小さなスプレーを取り出すとクロちゃんに見せた。
(さぁ皆、ウォレス商会が自信を持って勧める、新商品紹介の時間だよ!!)
私は勝手にそんな口上を心の中で述べてみた。
「こちら、新たにウチから出す予定の巻き髪用の仕上げ剤です。やはり巻き髪は熱を加えるため、髪の傷みを早めますし、長時間美しい巻き髪を維持するのには大量の整髪剤を使用しなければなりません。ですがこちらでしたら……失礼」
「きゃ?!なっなにを……?!」
アンディ様はクロちゃんの巻き髪を一本手に取ると、髪以外にかからないようにスプレーをかけ、そっと手を離した。
「いかがです?ほのかな百合の香りが清廉な貴女にお似合いだと思うのですが……。貴方の美しい髪が傷んでしまうのは偲びない……よかったらこちら、使ってみてください」
真っ赤になって固まるクロちゃんの手をさり気なくとって、スプレーを手に持たせた。
アンディ様は終始笑顔であるが、会話内容によってわざとらしくないぐらいの表情の変化を見せるところが女心をくすぐるのだろう。
彼は一流の商人かもしれないが、一流の詐欺師も務まりそうだ。
「しっ……仕方ないわね!試して差し上げますわ!!」
(あーあ……それは餌だぞクロちゃん……)
一応怒っている素振りのツンツン(おそらく内部では既にデレてるのではないかと思われる)クロちゃんは、ツンデレのテンプレ的な台詞を吐きながら令嬢共を引き連れて去っていった。
令嬢達からは「やだークロティルド様羨ましいー」という声が漏れている。
彼女らが遠ざかるとアンディ様は私に悪戯っぽく微笑んだ。
「いやー、今日はナナセを迎えに行ってみて正解でした」
アンディ様に限らず、私に勉強を教えてくださる皆々様は指定の空き教室で待っており、時間になると私が伺う、というのが常だ。
「なんでわざわざ今日は迎えに来てくださったんですか?」
「ああ、ミクラーシュ様にお会いできるかなーと思いまして。なかなかお話するのが難しい方ですが、ナナセとは仲が良いみたいですし、君が間にいればお話できるかな、と。残念ながらそれはできませんでしたが、代わりに候爵令嬢様に新商品のオススメが出来たので、むしろラッキーでしたよ!」
そう言って屈託なく笑った彼は「『備えあれば憂いなし』ってね」と言ってスプレーを出した懐をぽん、と叩いた。
アンディ様がミッくんに会いたい理由はわからないが、きっと商売関係のことなんだと思う。というかそれくらいしか思いつかない。
「私とミクラーシュ様が一緒にいるときに、声を掛けてくること自体は一向に構いませんが、実際のところ私はミクラーシュ様と仲が良い訳ではありませんので、お役に立てるかどうかは全くわかりません。更に言えば、私的には積極的にアンディ様の役に立つ気もないのですけれどよろしいでしょうか?」
できれば問題になりそうなことを持ち込まないでいただきたい……よしんば持ち込んでも巻き込まないで頂きたい。
そんな訳で一応その旨は伝えておく。アンディ様は少し眉を下げて『冷たいですね〜』とぼやいたが、元々そんな気はないような感じだ。
アンディ(全身)
アンディはナナセの次に描きやすいキャラです。
コンセプトは『可愛いは正義』(笑)。