攻略対象その2.クラレンス・エース(候爵令息)★
クラレンスの画像UPしました。
もう多分直さない。多分。
「はぁ…今日は散々だ……」
あの後も私はミクラーシュに、テキストの内容を質問形式で出しては正解すると飲食物を与えられた。私は芸を教わる犬じゃねっつってんだろ!!
……しかし私も乗ってしまった。
奴が出す飲食物のチョイスとタイミングが絶妙なのだ。あれは卑怯だ。
最終的に『魔法には運動能力も大事……君の運動能力を見る』等とのたまった奴にマシュマロキャッチを何度もやらされた。徐々にハイスピードになっていく高速マシュマロキャッチだ。
……本当に魔法学関係あんのかよ?!絶対ないだろ!!
つくづくジャージで良かったと思う。
制服での高速マシュマロキャッチは流石にキツイ。
そんなこんなで無表情なりになんとなくご満悦の御様子で、ミク野郎は研究室へ戻っていった。
ミク野郎からは解放されたが放課後になってしまった為、私は補講を受けねばならない。
王子の侍従の方に昨日のことを聞きに行きたかったのに、そんな余裕など一切ない。……時間的にも精神的にもそうだが、特に身体だ。
私の身体はミク野郎の高速マシュマロキャッチのせいでもうヘトヘトだ。
仕方なく私はいつもの様に、補講のため使っている空き教室へ向かった。
「失礼しまぁす……」
クラレンス様は顎くらいまでの長さのストレートの銀髪を中分けにした、クール系真面目優等生キャラの筈だが、私の姿をみて明らかに驚いた顔をして数秒停止した。
……何に驚いた?ジャージか?髪か?ヨロヨロのこの姿か?
うん、おそらく全部だろう。
しかし彼は何も聞かず、いつもの様に私のために椅子を引くと、「先週の続きから始めよう」と抑えた声で言った。……紳士だ。
ただし動揺は隠しきれていない。教科書が逆さまだ。
おそらくこの人は、職的にクールでいなければならないと自分に課している人なんだと思う。なんとなく微笑ましい。
無駄話は一切と言っていい程しないので、この人の授業はいつも予定より大分早く終わるので有難い。
今日もサクッと終わってくれた。
私も今まで一切の無駄話はしなかったが(不貞腐れていたため)、今日はちょっと彼とお話がしたいと思っている。勿論やましい気持ちは一切ない。
私が話したいのは他でもない、フランソワ様のことだ。
確か設定では彼と王子と騎士は、フランソワ様と幼馴染だったハズ。
フランソワ様について聞き出すのに、俺様系チャラ男と脳筋に比べたら、彼が一番適任なのは間違いない。
クラレンス様は『モテるが故の女嫌い』というわかりやすーい設定ではあったが、勉強以外の会話を今まで一切しなかったことが幸いしたようで「勉強以外の話になりますが、残りの時間、クラレンス様とお話したいのですが」という私の言葉を、彼はこちらが拍子抜けするくらいあっさり受けてくれた。
「……何か困ったことでもあったのか?」
アイスブルーの瞳を気の毒そうに私に向けて、優しく彼は言った。……可哀想な子扱いだ。
っつーかなんでそういう感じなんだ?!
よっぽど気の毒な感じなのか?ミク野郎のせいでズタボロだからか?!
「いえ、まだ困ったことにはなってません。実は昨日女子生徒に絡まれはしましたが、通りかかったフランソワ様が鮮やかに助けてくださいました」
「!フランソワ様が……」
(……おぉ?!)
フランソワ様の名前を出したらクラレンス様の目の色が明らかに変わった。
探りを入れるべく、試しにフランソワ様を褒め讃えてみる。
クラレンス様はそれに大きく頷いて、満足そうな笑みを浮かべた。
普段から王子と騎士とでつるんでいるこの方は、三人とも美形なのもあり凄く目立つ。なので近くにいれば自然と目に付くのだが、この人のこんな顔は一度だって見たことない。……可愛いじゃないか。
(ほほう……フランソワ様に懸想しているクール系わんこキャラってとこだな……?)
私は心の中でほくそ笑んだ。
どちらかっつーと私の方が悪役令嬢だが、コレを利用しない手はない!
私は計画を少し変更することにした。
「それで是非助けてくださったお礼を言いたいと思っているのですが……実はその他にもですねぇ……フランソワ様に図々しくもお願いしたいことがございましてぇ……もしよければクラレンス様からも打診してくださったらなぁ…なーんて」
クラレンス様は私の言葉に少し訝しげな顔をしたが、とりあえず話だけは聞いてくれるようだ。
「できれば私の補講の際、フランソワ様も御一緒していただけないかと」
「えっ…………?」
彼は私の意図が全く理解できないといった感じで、あからさまに困惑している。
クラレンス様のこういうところはフランソワ様関係のみなのだろうか。
いや、違うな……私が入ってきたときめっちゃ動揺してたもん。性格だ。
……この人宰相とか向いてない気がする。仕事内容よくわかんないけど。
「ホラ、既に女生徒にも絡まれましたし、一応私もデビュタントを控えた女子な訳じゃないですか。殿方とふたりきりで放課後勉強——というのはいかがなものか、と言われてしまえば全くもってその通りな訳ですよね。それに私は下町生まれ下町育ち……普段からガサツですからフランソワ様のような淑女の見本とも言える方が近くにいるだけで私の素行も是正されるのではないかと思うのですよ!」
私のもっともらしい言葉にクラレンス様の動揺は止まらない。
おそらく彼はフランソワ様がこの部屋に一緒にいることを想像してしまっている。(多分その想像に私は存在していない)
何故そんな事を断言するかというと、クラレンス様の顔は真っ赤だからだ。
わかりやすいっ!わかりやすすぎるぞ宰相候補!!
やっぱりこの国の未来が少し心配だ!!
しかしまずは私自身の未来が大事。……あとひと押しと見た。
「勿論フランソワ様もお忙しい身でしょうし…あまり知らない殿方たちの中に入ってもらう、というのは私も気が引けます。ですが殿下と騎士様とクラレンス様に限っては幼馴染だとうかがっておりますし……。できればクラレンス様には私が殿下にダンスを教わる際、フランソワ様と協力して頂ければ美しいお二人のダンスを手本として見ながら、殿下にダンスを教わることができるので大変にありがたいのですが……」
「ダ……っダンスをフランソワ様と私が?!」
更にダメ押しをする。
「騎士様の乗馬訓練も、遠乗りの際にフランソワ様とクラレンス様が付き添って下されば、行きはフランソワ様の手本を見つつ騎士様の馬に乗り、帰りはフランソワ様と交代し、騎士様の指導を受けつつ馬に乗って帰る練習をすることが可能になります。フランソワ様にはクラレンス様の馬に乗っていただかなければなりませんが……」
「フランソワ様が……私の馬に?!」
うわーちょろーい、この人。
頭に水を入れたヤカンを乗せたら漫画のように沸騰するんじゃないかってくらい、クラレンス様の顔は真っ赤っかだ。
「あ、そろそろ補講終わりの時間ですね?お話聞いていただいてありがとうございましたー。勿論無理にって話じゃないんで、気が向いたら是非フランソワ様にお話をお願いしマース」
「……ぜ……善処しよう」
「では!今日もありがとうございました!!」
ペコリとお辞儀をし、言い逃げくらいの形で私はさっさと文房具をまとめて部屋を後にした。
身体は疲れているが、クラレンス様のあの感じを思い出すと、こちらまで甘酸っぱい気持ちでダッシュしたくなる。
可愛い人だ。目的の為に言い出したことではあるが、彼の恋を応援してあげたい。
(……あーでもフランソワ様ってディートフリート王子の婚約者候補筆頭なんだよなぁ……)
フランソワ様にキチンと会えたら仲良くなる努力をし、実際の気持ちの程を聞いてみるつもりではあるが……クラレンス様にもチャンスがあるだろうか。
(あってほしいな)
そんな気持ちになった補講の後だった。
寮の自室に戻ると、寮内連絡用の魔石板(タブレット端末みたいな物)に一件連絡が入っていた。
クリーニングに出していた制服が仕上がったらしい。
『転送しますか? →ハイ →イイエ』
『→ハイ』を選択すると室内転送用の魔法陣が光り、小包が届いた。
「へー、これってこうなってるんだぁ……便利だな〜」
使用法は聞いていたが、実際に使うのは初めてだった。
浮かれつつ小包を開けると、制服の他に替えのジャージが入っていた。
……なんでだよ?
疑問は残るが明日も着ていくことに決定した。