カオスな名前の乙女ゲーム☆
秋の桜子様からFAを頂きました!
FA→☆
砂臥作→★
いずれも副題の後ろにつけますので、宜しくお願いします!
作・秋の桜子様
放課後の校舎裏、私ナナセ・ロッドアーニ男爵令嬢は、自称「フランソワーズ・セルトガ公爵令嬢のご友人」のお嬢様方に絡まれていた。
「フランソワ様が相手にしていないからって貴女調子に乗りすぎなのよ!!」
「「「そーよそーよ!!」」」
そこに徐ろに割って入ったのが紛れもないフランソワーズ・セルトガ公爵令嬢。
「何をなさっておいでなの?」
魅惑的なナイスバディと黄金の髪を持つ迫力の美女、フランソワ様は、自分の名を語って私に絡んできた御令嬢方をやんわりと窘め、エメラルドのような瞳で私を一瞥すると、何も言わず静かに去っていった。
(――――こ……このパターンはぁっっ!!)
突如蘇る前世の記憶。
私は紛れもなく乙女ゲームのヒロインちゃんに転生した事を思い知った瞬間だった。
ここは乙女ゲーム『テヘペロ☆平民からの下克上!!~どっきん♥プリンセススクール~』というカオスな題名の世界であることは多分間違いがない。
この乙女ゲーム『テヘペロ(以下略)』は会話分岐で全てが決まり、エンディングも甘甘セリフと素敵な画像が出てくるだけの至って単純なアプリゲームだ。
よってかなりのご都合主義。
下町に生まれ下町に育った主人公は、実は赤子の頃誘拐され、放置された男爵令嬢の娘だった。
それが判明し実の両親のもとに引き取られるが、貴族学校に通わなければならない年齢だったため、両親と録に関われないままさくっと寮に入れられてしまう。
当然マナーも勉強もまるでわからない彼女は、なんだかんだでイケメン達に勉強や社交ルールを教わるハメになるのだ。
……全く私の今の状況と同じである。
そして全く今までそんな事思い出せないまま、今更の様に前世の事を漠然と思い出した。
私は膝から崩れ落ち、土に手を付きながらオルツ(orz)化した。
(なぜ……なぜもっと早く思い出さない……!!)
まざまざと思い浮かぶ現世の自分の半生……というよりここ1ヶ月の日々……
それは異世界転生系恋愛小説で断罪される『ビッチ系転生ヒロイン』に近いといえる。
幸いなことにまだ仲良くなっていないが、攻略対象とまんべんなく接してしまっていた。
(でもそんなの私のせいじゃなくない!?)
このゲームは前に述べたとおり、会話分岐のみの単純なゲームであり、6人の攻略対象に毎日一人ずつ強制的に勉強を教わらなければならない仕様なのだ。
そして現在の私もまた、自分の意思に関係なく半ば強制的に勉強を教わっていたのだった。
当然ここは前世の『乙女ゲーム転生系小説』で読んだのと同様に、『乙女ゲームであり、乙女ゲームでない世界』だ、と思う。
……ゲームで出てこないお友達や知り合いが下町にいるし、頬を抓れば普通に痛い。
そして悪役令嬢であるはずのフランソワ様は私を虐めてきていない。むしろ助けてくれた。
ただしそれは、まだゲームの序盤だからかもしれないが。
しかしこのまま強制的にイケメン攻略者共に勉強を教わる形になり、あまつさえフランソワ様がこのまま私を虐めなかった場合、近い未来『乙女ゲームEND』のそれではなく『乙女ゲーム転生系小説・ビッチヒロイン断罪パターンEND』に陥るのではないだろうか。
(いやぁぁぁぁ!そんな波瀾万丈な人生いやぁぁぁ!!っていうか勉強だってしたくてしてるんじゃないのにぃぃぃ!!)
しかもこのゲームに対して私はあまり思い入れがない。
なにぶん会話分岐だけで進んでくれるので、暇つぶしにやっていただけだ。
絵は好きだったけど、暇つぶしなので合間合間で全攻略しようと思っていたため、推しもいない。
ちなみに途中で面倒臭くなって放置したので、バッドエンドがあるのかどうかすらわからない。
私は大変パニクったが、取り敢えず寮の自室に戻って頭を冷やしつつ事の次第を整理することにした。
自室は実にラブリーで素敵なお部屋だが、よくよく思い出すと全くもってゲームと同じである。そして全く趣味じゃない。
さして会ったことのない両親の趣味だと思って甘んじて受け入れていたが、ゲームの仕様と思うとなんだか気色悪い。
取り敢えずノートを開き、まずは思い出した限りの自分の前世を書き出すことにした。
名前は現世と同じ『七瀬』……でもこれはゲームの主人公が自己投影型だからなのかもしれないが。苗字なのか名前なのかは不明。
家族のことは漠然としか思い出せないが、一般的な幸せ家族だったような気がする……思い出せなくてなんとなく申し訳ない。
死因も思い出せないが、17の時に死んだ。
そんな大事なことは思い出せない割に、好きなアーティストだったり、どうでもいいような会話は思い出せてしまったりするのがまた腹立たしい。
そうだ、私はロックが好きだった。
学校の立ち位置的には底辺モブの地味子で、周囲のお友達も似たり寄ったりだがみんな優しかった。
いや、違うな……私は、地味で優しい人としかつるまなかったのだ。
そしていつでもナチュラルに一人になれるようにしていた。
群れから逸脱することを恐れつつ、ロックで反抗的な自分を消せないという私が集団の中で一人になる術だったのだ。
そんなのロックじゃないかもしれないが、集団の中で孤立するのを選べる程、前世の私のメンタルは強くなかったようだ。
ロック好きであることも皆には隠していた。
大好きなアーティストの『好きなものは好きと言え!』というストレートな歌詞を胸に秘めつつも……。
ラノベや乙女ゲームの世界には、優しいお友達の勧めで足を踏み入れた。
正直なところ始めは心の中で小馬鹿にしていたが、小説はなかなか面白く、最終的にとてもはまっていた。
特に異世界恋愛ものは私の好きなバンドの描く世界観とマッチしており、曲をかけながら小説を貪るように読んでいた。
ここまでを箇条書きでノートに走り書いて読み直す。
「まるで役に立ちそうもない情報ばかりか……!!」
前世の記憶を思い出したところでスキルチートどころかクソの役にも立ちそうにないじゃないか!!
転生チート!?なにそれ美味しいの!?
大体にして17で死亡とか!!
コミュニケーション能力だってなんだったら現世で見についた部分の方が大きいわ!!もっとも下町育ちだからそれもまた今、クソの役にも立ってねぇけどな!!
私は舌打ちを繰り返しながら某ロックシンガーの曲を脳内で繰り返した。
『絶望!(イェー!!)絶望!(イェー!!)ZE TU BO U!!(絶望!!)』
……『絶望ロック』という曲である。
やはり前世の記憶はクソの役にも立ちそうもない。
閲覧ありがとうございます。
『ロック好き』設定は軽めに残します。
初見の方、↑コレはあんまり気にしないでくださいね!