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第六話 新給与システム

社長が考えた、新しい給与制度とは……

 そこは従業員百名ほどの小さな会社だったが、不相応なほど立派な従業員用体育館を持っていた。体育館としてはもちろん、従業員の集会などにも使われている。

「社員全員体育館に集合しろって言われたけど、何かあんの?」

「さあ、よくわからんけど、社長命令らしいぜ」

「また何か変なこと思いついたんじゃねえか」

 体育館の正面には演台が置かれていた。

 そこに社長らしき人物が立つと、従業員たちは静かになった。

「えー、忙しい中、集まってもらってすまない。実は先日、ある光景を目にした。ちょうどわしが駅前のパチンコ屋の前を通った時、名前は伏せるがウチの社員がそこから出て来た。わしが近くにいることにも気付かぬほど落ち込んでいて、『ああ、今月の給料、全部スッちまった』とつぶやいたのだ。一ヶ月の間一生懸命働いた給料を、一時の快楽の為に全部失くしてしまったのかと腹も立ったが、気の毒にも思った。それにしても、仕事の方がよほど変化も楽しみもあるだろうに、何故、あんな単調で退屈な行為に夢中になるのか、わしには不思議でならなかった。つらつら考えるに、結局、報酬の不確実性にきるのではないか。例えば、普通は十の仕事をすれは十の報酬が与えられるものとして、ギャンブルではそれが一の報酬になったり、百の報酬になったりするわけだ。そこでわしは思いついたのだ。不確実性が人間を夢中にさせるなら、給料を不確実にすれば、社員はもっとやる気が出るんじゃなかろうか、とな」

 従業員たちは明らかに動揺どうようし、ザワつき始めた。

「ああ、心配はいらん。何も全員に強制するつもりはない。希望者だけでいいのだ。実は、これからあるゲームを行う。その結果によって来月の給料を決めることに、賛成する者だけゲームに参加してくれればいい。人事部長、例のものを持って来てくれ」

 直径一メートルほどの、何色か扇形に塗り分けられた円盤が運び込まれた。

 社長は手にダーツの矢を持ち、みんなによく見えるように腕を高く上げた。

「あの円盤には給料の金額が書いてある。最低十五万円から最高百五十万円までだ。もちろん、高額になるほど扇形の面積は狭い。それを高速で回転させ、ここからダーツの矢を投げるのだ。矢が刺さった位置に書いてある金額が、その人間の来月の給料となる。まあ、かいより始めよというから、わしが最初にやろう。人事部長、思いきり回してくれ」

 社長は回転する円盤を目がけ、エイヤッとダーツを投げた。すぐに止められた円盤を見ると、十五万円のところに刺さっていた。

「ええーっ、そんなあ。あ、いや、おほんおほん。うん、まあ、これも想定の範囲内だ。武士に二言はない。わしの来月の役員報酬は、十五万円でいい。さあ、誰か次にやってみたい者はおらんか?」

 シーンと静まり返った体育館内で、「ハイッ!」と元気良く手を上げたのは、今年入社したばかりの女子社員だった。言うまでもなく、このシステムは現在の給料が低い者の方が有利である。そこに気付いたのだろう。

「おお、威勢いせいがいいな。やってみたまえ」

「はい。エイッ!」

 今度刺さったのは、なんと百五十万円の部分だった。

 さあ、そうなれば、我も我もと希望者が殺到し、結局、ほぼ全員がダーツを投げることになった。もちろん、大幅に給料が下がった者も大勢いたが、そういう者ほど次回はリベンジしたいと言った。

 ところが、新しい給与システムは、この一回限りで打ち切りとなってしまった。

 社長が、夫人から大目玉を食らったからである。

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