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第二話 現ナマに気をつけろ!

ホテルにチェックインに来た怪しい男が……

 ホテルのロビーには、実に様々な人間が出入りする。もちろん、紳士淑女ばかりとは限らない。

 その男を一目見るなり、新人ベルボーイの明石は、ヤバイ関係のゲストだと思った。

 ごつい体にストライプ柄のスーツ。金色に光る腕時計。極端に短くり込んだ髪に、長く伸ばしたモミアゲ。脇にはさんだセカンドバックとは別に、あやしげな紙袋を持っている。

 明石が勤めているのは割とフォーマルなホテルなので、チェックインしそうなゲストが来たら「お荷物をお持ちしましょうか?」と声をかけるよう教育されている。だが、今の明石にそんな勇気はなかった。ただし、部屋まで案内する必要がある場合に備え、ドキドキしながらも近くで待機した。

 チェックインカウンターに真っ直ぐ向かって来る男を迎えたのは、明石の先輩である、フロントクラークの茂木だった。背が高く、超が付くほどの真面目人間だ。

「いらっしゃいませ。ご宿泊でございますか?」

 茂木が低音でそう聞くと、男もしゃがれたような声で答えた。

「そうじゃ。鬼頭で予約が入っとるじゃろ」

「少々お待ちくださいませ。ああ、ご予約いただいております。エグゼクティブシングルに本日ご一泊でございますね。こちらにサインをお願いします」

 サインをした男は、紙袋をカウンターに載せた。

「明日の朝まで、これを預かって欲しいんじゃが」

「念のためお伺いしますが、こちらの中身は何でございますか?」

 すると、男はさりげなく周囲を見回し、声を低めてささやいた。

「現ナマじゃ」

 横で聞いていた明石は、ハッとした。

 もちろん、大量の現金など直接預かれない。自分で部屋の金庫に入れてもらうか、入らないようなら、フロント脇のセーフティボックスの鍵を渡すか、どちらかである。紙袋の大きさからみて、後者だろうと明石は思った。

 ところが、茂木の答えは意外なものだった。

「かしこまりました。明日までお預かりします」

 どうしたのだろう、相手にビビってしまったのかと明石は心配したが、茂木は笑顔で紙袋を受け取っている。

「それでは、お部屋までご案内させましょう」

「いや、結構じゃ」

 部屋のキーを受け取ると、男はエレベーターで上がって行った。

 男を部屋まで案内せずに済んでホッとしながらも、明石は気になっていることを茂木に聞いてみた。

「茂木さん、預かっちゃっていいんですか」

「え、ああ、ちょっと大きいね。でも、これぐらい大丈夫だよ」

 平然としている先輩に、明石はそれ以上何も言えなかった。


 翌日の早朝、例の男がロビーに降りてきた。ちょうど茂木がカウンターにいたので、男はそちらに歩いて行く。何事もなければいいがと、明石はそっと様子を見ていた。

「チェックアウトでございますか?」

「ああ。昨日預けたものを出してくれ」

「かしこまりました」

 一旦カウンターの奥に下がった茂木が、紙袋を持って現れた。

「こちらでございますね」

「うむ」

 だが、紙袋を受け取った男の表情が一変した。

「な、何じゃ、これは!」

 見ていた明石は顔面蒼白になり、すぐに保安係を呼ばなければとあせった。

 しかし、茂木は笑顔のまま、こう付け加えた。

「ナマものと伺いましたので、一晩冷蔵庫の中でお預かりしました」

 それを聞いて、男も苦笑した。

「どうりで、よう冷えとる」

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