ちみっこい聖騎士(元)は食い意地がはってる
「レミちゃん〜ビール大ジョッキで~」
「は~い」
「こっちは鳥串盛り合わせな」
「はーい」
客で混み合う食堂で料理の皿を運んでいるエプロン姿の小柄な少女が元気に返事した。
エレシード王国の辺境の田舎町ウライデアにある大衆食堂「あさの葉」は手頃な値段の美味しい料理ときっぷの良い女将さんが名物の地元民や冒険者や傭兵などに愛される人気の食堂である。
最近そこにもう一人名物が加わった。
短い黒髪の給仕な小柄な少女レミである。
「美味しそうです〜」
「ヨダレをたらすんじゃないよ」
小柄な短い黒髪の少女が料理をうっとりとヨダレをたらしかけるとすかさず女将さんのげきが飛んだ。
はいーとたれかけたヨダレを袖で拭き慌てて運ぶ少女に常連客は癒やされたように笑い声をあげた。
「女将、看板娘ができてよかったじゃねぇか」
カウンターでエールを飲む髭面親父のベテラン冒険者ランゲードがおつまみを置く女将さんに片目をつぶった。
実はしばらくウライデアを離れていたのでレミは初めてみたのである。
「未熟者で迷惑かけて悪いね」
辛辣な事を言いながらも目尻をさげる女将さんは可愛くて仕方ない様子である。
レミちゃん、あーんと常連客の一人がベーコンポテトをフォークに刺して差し出した。
わーいありがとうございます〜とレミは嬉しそうにそのまま口に入れた。
美味しいとへにゃりと笑うレミに常連客はかわいいとその笑顔にデレッとなった。
「レミ〜何やってんだい!」
「はひーごめんなさい〜」
レミはビクッとなった。
ダストンさんも餌付けしないどくれと続けて女将さんが叫んだ。
悪い悪いあんまりにも可愛くてさ〜と地元で雑貨屋をやってる中年男ダストンがポリポリと頬を掻いた。
「ランチが終わったらまかないにしてやるからがんばんな」
「はい! 」
頑張ります〜と急いで運ぼうとしてかなり前かがみにコケかけてまた叱られるレミであった。
「あの姿勢から立て直すってまぐれか? 」
つまみの豆と鶏ひき肉の落とし揚げを食べながらランゲードは目を丸くした。
そもそもこの辺境の町ウライデアに冒険者や傭兵が多いのは古代遺跡を内包し魔物がばっこする還らずの森の入口にあるからである。
もっとも地元民はひょいひょいと危険を避けて入口付近から森も中まではいりこんでいるのであるが……
つまり住民もある程度腕が立つのである。
冒険者も傭兵もギルドがしっかり管理しているのでおおむね平和? な辺境であった。
平和? な辺境に比べて中央な王都はいつも繁栄と喧騒にみちあふれている。
エレシード王宮とつながる白亜の大神殿に神より選ばれた神子が聖騎士に護られて暮らしている。
「私の聖騎士はどこにいるのでしょうね」
光のごとく麗しき瞳をくもらせて美しき神子はそばに控える聖騎士の青年を見た。
「は、はぁ〜? 」
先輩にいけと押し付けられた新人聖騎士は内心首を傾げた。
神子の聖騎士は自分たちのことのはずである。
「私の可愛い聖騎士はいったいどこなのでしょうか? 」
銀の長い髪の美青年は前にひざまずいた聖騎士の手を持った。
美しすぎる神子の顔のアップに禁断の扉が開きそうな新人聖騎士である。
しかし彼は知らないこれが不幸の始まりだと。
「どこにやったのですか? 私のレミファーナを……」
色気のある美声に思わずうっとりする新人聖騎士は何かを感じた。
手のひらから何かが流れ込んでくる。
ああ……天上界が……御使いが……しびれる……
麗しの神子の極上の微笑みとともに新人聖騎士は床に倒れ昏倒した。
「うわぁ……新人に容赦ねぇ……」
「さすが暴れん坊神子様」
「だいたいレミっちはどこにいるのさ」
それを物陰で見ながらコソコソと話す先輩聖騎士たちである。
新人は知らないが当代神子イェシールは裏では『暴れん坊神子様』と評判なのである。
つまりスケープゴートにされた新人聖騎士であった。
「あ~あれだ、修行の旅に出るのでさがさないで下さいと出ていったよな」
「神子狙いの令嬢聖騎士が嬉しそうにレミファーナさんの辞職願い偽造してたよね」
「あれ、神子に見られたら潰されるよな」
ゴリマッチョな聖騎士アライルと細マッチョなインテリ聖騎士エルシアンとおっさん聖騎士トミオンがから笑いをした時、圧力を感じた。
「それを……止めなかったあなた達も同罪です……」
地底のそこから聞こえるような低い美声にみんな背筋を凍らせた。
恐る恐る視線を向けると麗しき神子が極上の笑みを浮かべて手をかかげた。
まさに宗教画のごとき美しきと別の意味で皆息を呑んだ。
手のひらに稲光が見えたからである。
「わー誤解だぁ〜」
「ちゃんと受け取らない処理……」
「落ち着け神子〜」
ちみっこはウライデアのどっかのーと
聖騎士たちの往生際の悪い言葉を冷たく無視してイカヅチが三人に落ちる。
因果応報である。
もちろん、新人も三人衆も頑丈で手加減されているので軽症ですんでいるのである。
しかし古代の芸術的な柱をモチーフに作られた光あふれる部屋はまさしく死屍累々である。
「ウライデアですか……」
ずいぶん辺境ですねと神子はつぶやいてから神語を放った。
部屋の中央に光の輪が浮かび背中に翼のある銀の長毛種の猫が現れた。
ふぁーとあくびをする様子はとても癒やされる光景である、ただしサイズは三メートルはあるが。
聖獣ピアである。
「呼んだ? 寝てたんだけどな」
「レミを迎えに行きます」
うん、わかったとうなづいてピアはしゃがんだ。
あの遊びがいがあるちみっこいの帰ってくるならいいかと目を細めた。
神子が素早くまたがるとピアは立ち上がった。
「どうやって出るの? 」
普段呼ばれるのは召喚部屋なので出る扉があるのである。
「壁を壊していいです」
うん、わかった〜と戦闘聖獣ピアは邪魔な壁を爪の一閃で破壊してそこからそらにむかって飛び立った。
壁は大きな音とともにおちて美しい大神殿の庭を破壊した。
幸いけが人はいなかったようである。
あまりの音にしばらく誰も近づけなかったと後に神官は語る。
恐る恐る神官が覗いたとき美しき神子の部屋はもぬけの殻であった。
ただ一枚『私の可愛い聖騎士を探して来る……邪魔したら……』と書かれた迫力あるメモ紙を残して……
美しい部屋の壁には聖獣が開けた大穴が残されていた。
向こうに壮麗な都の屋根が見えて神官は思った……修復費用かかりそうですねと。
令嬢聖騎士の縦ロール頭がどこからか落ちてきたイカヅチでパンチなパーマになったのは余談である。
大衆食堂『あさの葉』はまかないタイムである。
「わー美味しそうです〜」
ジュルリと出るヨダレを袖で拭いてレミは目を輝かせた。
串を外した鳥串の残りとトマトとキュウリスライスにマヨネーズつけてパンにはさんだサンドイッチが山盛りの大皿と残り野菜とベーコンの具だくさんスープ鍋がテーブルに置かれた。
「レミ、皿を運んどくれ、親父さんが帰ってくるからね」
女将さんの旦那さんは農家なので昼には帰ってくるのである。
食堂で使うほとんどの美味しい野菜や果物は自家製であった。
はーいと嬉しそうに小分け用の皿を運ぶレミに落とすんじゃないよと声をかける女将さん。
どこからどう見ても親子である。
ただいまーと日に焼けたおじさんが籠盛り野菜と袋を持って裏口から帰ってきた。
「お帰りなさーい」
「レミちゃん、ただいま」
可愛く迎えられて農家のおじさんは目尻を下げた。
「おかえり、もうすぐできるからね」
女将さんは少し顔を出した。
ああと答えて農家のおじさんは収穫物を厨房脇の棚において席についた。
残った野菜とチーズでオムレツを焼き上げて大皿にもった料理がテーブルに置かれてレミのヨダレは洪水である。
「じゃあ、お祈りして食べようかね」
レミも待てないだろうしねと苦笑して女将さんが席についた。
はーいとキラキラした黒い目を女将さんと農家のおじさんに向けるレミである。
三人で目を閉じて手を組んで恵みへの感謝の句を唱える。
根源の女神よりもたらされ幾多の生命と恵みをいただき……
いつもの落ち着きない様子から信じられないほどの朗々とまるで神殿の聖句のように唱えるレミの声にやっぱり……と思う二人であったが体制に影響がないのでしらばっくれるようである。
「サンドイッチ美味しいです〜」
「そうかい、スープもおかわりあるからね」
小さい身体から想像もつかないほど沢山食べるレミである。
女将さんが鍋からスープをすくって注いでくれた。
「プラムもたべるかい? 」
「食べたいです」
注いでくれたスープ飲み干してレミはキラキラした目で農家のおじさんを見た。
近所の人がくれたんだよと袋からプラムをだして自ら洗って差し出すおじさんはデザートはあとにしなと怒られるのであった。
本当にいい人たちに拾われたなぁとチーズオムレツを口に運びながらレミはしみじみ思ったのであった。
つまり修行の旅の途中で行き倒れたどんくさいレミなのである。
大衆食堂「あさの葉」は夜も営業している。
食事も提供しているが酒が昼間より入るのはお約束である。
「テメーよくも俺の女を取りやがったな」
「モテない男のひがみですか? 」
冒険者風の優男がやっぱり冒険者風のごつい男……隣に座った強そうな女戦士が酒をあおっている……に言いがかりをつけた。
こいつは俺の女だ。
彼女は僕の恋人です。
二人がこぶしを振り上げた横で女戦士は酒を飲んでいる。
「あの、お客様、おやめくださ……」
レミが止めようとしてうるせーと優男に突き飛ばされる。
そのまま優男が殴り掛かるのをごつい男が避けて勢い余った優男は椅子を巻き込み転がった。
ごつい男が蹴りを入れようとした。
次の瞬間床にフォークが二本刺さった。
優男の首のすぐ脇とごつい男の足の甲の皮一枚横である。
冷汗をたらして二人が思わず動きを止めて飛んできた方に視線を向けるとレミがすみませんすみませんすみませんとフォークをもう一本構えて謝り倒した。
女戦士が大ジョッキのビールを一気飲みして立ち上がった。
「あたしがいつあんたらのもんになったって? 」
女戦士が椅子に立てかけていた得物のハルバードを持ち床に柄をトンと打ち付けた。
その迫力に男二人は沈黙のまま女戦士を凝視した。
「だいたいあたしはレミちゃんみたいな可愛い系が好きなんだよ、いくら腐れ縁だからってこれ以上迷惑かけるなら容赦しないよ!! 」
「レミちゃんなんだ? 」
「ライバルはレミちゃんだと〜」
ごつい男ミランは困惑し優男デアスは頭を抱えた。
そんな〜絶対に勝てないぜー
そうですよー
男二人が叫んだところでこれ以上騒ぐなら追い出すよと女将さんが厨房から顔を出して怒鳴った。
すみません
悪かったと二人の男が平謝りしてるのを横目に夜も来ている髭面冒険者ランゲートがあのちみっこいのそんなに強いのか? とつぶやいた。
「エマさん……」
「もちろん、レミちゃんが女の子なのは知ってるけど、可愛いもんは正義なのよ」
はじめて見たときに美少年がいると思ったのよ〜と女戦士エマがハルバードをかかげた。
天井のペンダントライトがハルバードにぶつかって激しく揺れた。
エマさん破壊しないどくれ、出入り禁止にするよと厨房から女将さんが怒鳴った。
ごめんなさいと謝るエマと許して下さいと謝るミランと悪かった出入り禁止は許してくれと土下座するデアスにレミがこちらこそ申し訳ありませんどうぞお席へとか言ってるうちにカランカランと食堂の扉が開いた。
美しい銀の髪が明かりに反射して揺れる。
光のような琥珀色の瞳の中性的な麗人が優雅に旅装をひるがえして入ってきた。
「こりゃ美人だな〜」
ランゲードが酒を片手につぶやいた。
「いらっしゃい……フィアタラ!? 」
お盆をもって振り向いたレミが目を見開いた。
麗人は極上の笑みを浮かべて早足で近づいた。
「私のレミファーナ、やっと見つけました」
「フィアタラ、ど、どうしてここに!? 」
困惑するレミを麗人は優美な腕で抱きしめた。
ああ、俺のレミちゃんがぁ。
フィアタラさんってレミちゃんのお姉さんか?
あのさ、窓の外になんかいるんだけど……
客たちが口々に騒いでいる。
「なに騒いでいるんだい! レミ……誰だい? 」
「女将さん〜すみません〜フィアタラです」
レミが腕の中で困った顔をして厨房から顔を出した女将さんを見た。
「フィアタラさん、お席へどうぞ」
女将さんは迫力ある笑顔を浮かべてずんずん歩いてきて二人を引き離した。
「私はレミファーナを迎えに来た……」
「レミ、フィアタラさんはおかえりだそうだよ」
女将さんの喧嘩うりまくりの態度に麗人は眉を釣り上げた。
緊張感漂う店内の様子と裏腹に勢い良く扉が空いた。
「ねぇ、でっかいニャンコがいるんだけど、魔獣? 魔獣なの? 」
若い犬獣人な冒険者の女性がキラキラした目で飛び込んできた。
魔獣もヒトを襲わなければ討伐対象でないのである。
「ルーさんなんて能天気なんだ」
「ピアさんが来てるんですか? 」
ピアさんは聖獣だから大丈夫ですよとレミが脳天気にはしゃいだ。
そうなんですか〜モフりたいです〜ととってもモフモフした尻尾をもつ能天気な犬獣人とちみっこ給仕は両手を握りあった。
可愛い〜と女性客から声なき悲鳴があがった
。
大きなモフモフワンコとちみっこい給仕のコラボ、可愛さまんさいである。
落ち着いた二人が手を離したとき残念とみんながため息をついたほどの愛くるしさであった。
さて魔獣と聖獣は似て非なるものである。
魔獣……それは自然発生的な魔法的野生生物である。
対して聖獣は天上界より使わされたと言われる神秘的? な生命体であり、神子しか乗れないと言われている。
「フィアタラ……フィアタラって神子かぁ!? 」
ランゲートが叫んだ。
実はランゲートは王都出身で意外といいとこのボンである。
この間まで実家に呼び出されていい加減世帯を持てだの見合いを無理矢理設定されたりしたのはどうでもいい話であるが王都出身にとって聖獣に乗って世界を救う大昔の神子の伝説は子守唄並に聞かされて育つ話である。
もっとも地方出身者にとって神子なんて居たっけ? 何それな感じであるが……
「何言ってんのさ、フィアタラさんだろう? 」
「神子……もう、めんどくせーな、この方は一応な王都の大神殿のおえらいさんだ」
ランゲートが神子を指差した。
おおーそうなんだと何故か拍手が起こる店内である。
「そしてレミファーナは私の聖騎士です」
神子が腕をさしのべた。
「嘘だぁ〜神子の聖騎士はこんなにちみっこくねぇ〜ごつい渋い歴戦の勇士だぁ〜」
ランゲートが勢い良く立ち上がって拳を突き上げつけ髭は見事に落ちた。
そう、神子と聖騎士に夢を持つ男ランゲートは見合いで強制的に髭をそられて中途半端な伸び具合を隠そうと付け髭をしていたのである、どうでもいいけど。
「えっとエルシアンさんとかトミオンさんとかアライルさんならイメージ通りかも? 」
レミが人差し指を口元に小首をかしげた。
「駄聖騎士の名前は聞きたくありません」
神子がプイッと横を向いた。
「駄聖騎士って何だぁ」
「ああーもうっうるさいね、神殿のおえらいさんだろうが駄聖騎士だろうが、私の店でいいようにはさせないよ」
女将さんがフライパン片手に宣言した。
「店主殿、ここなるレミファーナ・ジラ・グラセニアは私の第一の聖騎士なので早急に業務に戻らせたい」
神子が優美なしぐさで礼をした。
神子が礼をした〜ジラ・グラセニアって聖騎士の名門じゃねぇか〜ちみっこいのに~とランゲートが騒ぎ近くのごついおやじに口をふさがれた。
「レミ、どういうことだい? 」
「あ、あの私は未熟なのでしばらく修行に行ってくると届けを出したと思いますが……」
それに私がいると神子の伴侶が決まらないとオレエリア聖騎士に抗議されましたし……とゴニョゴニョと口の中でつぶやいた。
そうなんだ……と神子が腹に一物持ったような笑みを浮かべた。
その時何か羽音と大きなものが動く音が聞こえてきて扉の向こうが騒がしくなってきた。
わーピアっち、別に俺は邪魔しに来たわけじゃ〜 トミオンの尊い犠牲は忘れないよ
エルシアンも悪いやつだなぁ……っとピアさん俺何もしてないってという男の声とフギャーとかいう大きい猫の声と悲鳴とともに扉が勢い良く開いた。
「レミ、生きてますか? 」
「レミっち大丈夫か? 」
「わぁ~暴れん坊神子様」
聖騎士三人組がボロボロ猫毛まみれで入ってきた。
「そうだ、これが正統派聖騎士だ!!」
ランゲードが力いっぱい宣言した。
猫毛まみれのマッチョその他にしか見えないけどと客たちは思った。
「私の邪魔をするとはいい度胸です」
「あんたら営業妨害だよ!!! 出ていってくれないかい!!! 」
神子の低い声に女将さんの怒声が迫力満点で店中に響いた。
聖騎士も神子も客たちもその迫力に一瞬たじろいだ。
「ご迷惑をおかけしました、レミファーナ帰りましょう」
神子が優しくレミに手を差し出した。
「レミ、あんたはどうしたいんだい? 」
女将さんがジロっとレミを見た。
「ここにいたいです」
迷いない瞳を女将さん向けるレミである。
だってここにいれば美味しいもの食べ放題だし……それに遺跡で修行し放題だもんとレミは心の中で思った。
食べ放題が最初にでてくるところこそ食いしん坊の面目躍如であろう。
「そうかい、ならスジを通しな」
「はい! 」
元気に答えてレミは神子の前にひざまずいた。
「レミファーナ……」
「神子私、レミファーナ・ジラ・グラセニアにしばしお側より離れる許可をください」
レミの真剣な眼差しに神子は微笑んだ。
「嫌です」
「そんなぁ〜」
がっくりとうなだれるレミを抱き上げて神子は愛しそうに頬ずりをした。
「あんた、心が狭すぎだよ」
「可愛い子には旅をさせろって言うじゃねーか」
「レミちゃん独占禁止ー」
客たちが口々に抗議しだした。
「あんた……神子様? 心が狭すぎるだよ! 」
女将さんが両手を腰に当てて神子をにらんだ。
「……撤退です」
迫力負けした神子がレミを抱き上げたまま踵をかえした。
慌てて聖騎士三人組が追いかけた。
扉からでると聖獣ピアがちみっこいのーとパタパタと尻尾を振った。
「神子、私、聖騎士を辞めさせていただきます」
レミは力いっぱい神子の腕から飛び降りた。
長期休暇が駄目なら転職しようとレミは心を決めた。
未熟者の自分がいなくても聖騎士の先輩たちもいるし後輩もジラ・グラセニアには弟もいる。
何よりここにいれば美味しい料理も食べ放題だし修行もし放題なのである。
神子には自分みたいなジラ・グラセニアの落ちこぼれより優秀な弟がついた方が良いと決断したレミである。
長期決戦型で確実に敵を倒し判断力のある優秀な武人と実は高評価されているのを本人はしらない。
コミュニケーション不足すぎる親子関係で誤解しまくりのレミであった。
「辞表は後で送ります、またのご来店をお待ちしてます」
ペコリとお辞儀をするとレミは食堂にはいっていった。
あーあーとトミオンが頰をかいた。
大騎士団長荒れるよねとエルシアンが天を仰いだ。
それより前にふられ神子を止めねぇととアライルが天を仰いだ。
「どうして私の愛がわかってくれないのです〜」
「はいはい、ここを壊すとレミに嫌われますよ」
ポイッと神子をピアにたくしたアライルは飛竜を呼んだ。
飛竜は聖騎士の乗り物である。
レミファーナと騒ぐ麗人一名を引き連れて聖騎士と聖獣は王都に帰っていった。
とりあえず上の聖騎士長とかに相談しようと聖騎士三人組はため息をついた。
身分でねじ込んだ令嬢聖騎士とちがってレミファーナ・ジラ・グラセニアは実力で入ってきた聖騎士で未来の聖騎士長と密かに期待されていたのである。
もちろん本人は知らない話である。
「レミちゃん、あ~ん」
美味しそうなトマトのベーコン串を常連客に差し出されてわーいとレミは食べる。
「何もらってるんだい! 」
女将さんに叱られてごめんなさい〜とあわてて仕事に戻るまでが最近の辺境の大衆食堂『あさの葉』の名物である。
ランチが終わったらまかないだからヨダレたらすんじゃないよとの女将さんのお言葉にはーいと大喜びのレミである。
カランカランと扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
元気な黒髪の給仕が笑顔で挨拶して客を案内しだした。
辺境ウライデアの大衆食堂『あさの葉』は時々大神殿の神子と聖騎士たちが来たりするが今日も女将さんの美味しい料理で大盛況である。
ウライデア遺跡探索のおりによってみて損はない。
「ヨダレを皿にたらすんじゃないよ」
「は、はーい」
ちみっこい黒髪給仕はそっとヨダレを袖で拭った。
その際ぜひもう一人の名物チミっ子の可愛い黒髪給仕に餌付けを密かにするのをおすすめしたい。
レミちゃんあ~んと常連客から唐揚げが口に放り込まれる。
美味しいです〜とうっとりするレミに何やってるんだいと女将さんから注意が飛んだ。
すみません〜と給仕は謝って仕事にあわてて戻った。
あ~んして女将さんに怒られるまでが名物でたいへん可愛らしいのである。
ぜひ一度は訪れてもらいたい名店である。
読んでいただきありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ