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Ep.VII 機動要塞戦

 Ep. VII 機動要塞戦


「シィーアを破壊した戦艦の情報はまだ無いのか」

「…はい。

 どうやら地球や火星にも伝わってはいないようです。

 あくまで聞いた情報ですが、シィーアからの連絡船も相当な攻撃を食らっていたようです。

 通信を伝えたあとに連絡船も搭乗員も亡くなってしまったようでして……」

「命を懸けて伝えた意味がある情報だな」

 だがしかし。

 破壊された情報のみではあまりにも少ない。

 方法や戦艦の攻撃方法が分かっていないとすぐに打てる手は少ない。

「君はどう考える?」

 うつむいた顔を上げて答えた。

「例の戦艦のことについて…ですか?」

「攻撃方法について、だ。

 集団での飽和攻撃による破壊か、軍全滅後、核に向けて何らかの刺激を与えて破壊するのが妥当だが、それではあまりにも時間がかかる。

 そこまでの時間があれば連絡船が来るのはもちろんのこと、こちらからも増援を送れたはずだ。

 それならば、せいぜい数時間…いや、レーダーの探索範囲に入ってから数分で惑星を破壊しなければならない。

 問題はその方法だ……」

 俺もいくらか考えはある。

 だが、こういうことは一人で考えてもあまりいい案は浮かばない。

「シィーアには地球ほどの大気があるわけですから、物理的な攻撃では破壊できません。

 だとすると、核自体に遠距離から何らかの刺激を与えて破壊するか、それとも星自体をある程度の細かい部分にまで分解……

 または大気を吸い上げて超高速弾を発射……

 私達とほぼ同等の戦いをしている彼らが、そこまでのことをできるとは思えませんね」

 まあ、妥当なところだな。

 俺が考えたことと似たようなことだ。

 だが、

 この情報はでかいだろう。

「…ところで、ジャシルタの航行方法、及び攻撃方法の考案がある軍人から出されたのを知っているか?」

「…いいえ。初めてです」

「だろうな。私も昨日伝えられたばかりで、特に使える情報でもないから誰にも伝えていない」

 上のやつらはこんな考えをめぐらせることすらできんらしいが。

「で、その考案というのは」

「要約すれば、ジャシルタの航行方法、及び攻撃方法は空間を移動させて航行することにある…だそうだ」

 いっそう真剣な目に変わった。

「空間を…移動させて?」

「つまりは宙空衝撃弾頭ミサイルの原理をそのまま航行に生かしたわけだ。

 機体が触れている宇宙空間、またはその周囲の空間を後ろへと流すことによって、航行し攻撃する、というわけだ」

「…物理的障害は全くの無駄ということですか。

 どうりで弾が当たりにくいわけです」

 理解が速くて助かる。

「そういうことだな。

 これは完全に私の意見だが、航宙機に搭載できるほど小さくなっているということは、こちらが空間衝撃装置を完成させる以前にこの装置を発明したのだろうな。

 つい数年前の技術が相手側にとってはすでに過去、とは驚いたものだな」

「ですが、こちらは重力関連の技術は上とされていますから」

 そうだ。

 土星や木星に基地を作れたのも、これがあってこそだ。

「話が少しずれたが、つまり私はこう考える。

 惑星を破壊したのはそれではないか、と」

「何か空間移動装置のようなものを搭載した巨大な何かで星を貫く…ですか。

 惑星に穴を空けるとは、すごいものですね」

 あくまで仮説に過ぎないが。

「まあ、ここで私達がいろいろ議論したところでそれがあちら側にあって、対処する方法があまりない、というのが現状だな。

 奴らはそんな装置を持っていながら、シィーアにある全戦艦を相手にして戦った。

 これに奴らは相当な力を割いているに違いない。

 これを抑えられるかが、一番の鍵だな」

 ある程度冷ましておいたコーヒーをすする。

 こ…これは……

「ど、どうでしょうか?

 レステア航宙機隊隊員やファリエナ航宙機隊隊長にいろいろ…その…指揮官の好みを聞いて作ってみたのですが……

 お口に…合いませんか…?」

 ファリエナにコーヒー作り続けて七年目のレステアとほぼ同じ味を出している。

 しかも、ファリエナ用のものではなく、俺用のものと。

 それぐらいの味の違いはレステアにもファリエナにもたっぷり飲まされたからわかる。

 これを出すために、相当努力したんだろうな……

「…あ…ああ…おいしい」

「そ、そうですか!

 ありがとうございます!

 指揮官のために頑張った甲斐がありました!」

 こんなに……

 こんなに俺のために尽くしてくれる人がこんなに身近にいるのか。


 ――お父様。よかったですね。


「だ、誰だ!」

 シェイシア副艦長があわてふためく。

「ど、どうしましたか?」


 ――いやですわお父様。私です。レイです。


 レイだったか。

 すっかりこいつの中にいることを忘れていた。


 ――急に話しかけられたらびっくりするじゃないか。

 ――お父様にもついにこの季節が巡ってきましたか。娘として、とても嬉しく思います。


 「娘」といざ言われると微妙に違和感がある。

 どちらかといえば「助手」に近いところがあったからな。


 ――何の季節だ。

 ――子離れの季節です。


 子離れ?

 俺はギャルシュのように親バカやってるつもりはないが。


 ――それで気付かれないなんて、シェイシアさんがかわいそうです。

 ――何が言いたいのかさっぱりわからないぞ。


「どうか…されたのですか?」

「いや、交信をしているだけだ」


 ――ファイトです。お父様。

 ――何が言いたいのかよくわからないが、お前が言うことだから頑張ることにするぞ。


「誰とですか?」

「レイとだ」

 二重交信はあまり得意ではない。

 頭がこんがらがる。


 ――そろそろ私も親離れしないといけませんかね。

 ――どうしてだ?


「誰ですか?」

「ああ…娘だ」


 ――キスとか、抱き合うとか、ましてや生殖なんてできません。でも、恋は誰でもするものです。

 ――そうか……


 なんだか少し悲しくなってきたような気がする。

 俺もなんだかんだで少しは親バカだったのだろうか。

「し、指揮官は子持ちなんですか?」

「いや、生体艦だ」

 

 ――相手はいるのか?

 ――ええ。います。リボリアです。


「リボリアだと!?」

「な、何ですか?」

 我に帰る。

「…いや、すまん。

 交信が思わず口に出た」


 ――そ、そんなに驚かないでください。

 ――どこがいいんだ?

 ――甘えてる姿が…かわいいんです。


 確かにレイのことは愛しているのだと思うが、レイでさえかわいいなどと感じたことはない。

 やはりそこは種の違いなのだろうな。

 ギャルシュはそこさえも超越しているが。


 ――そろそろ失礼します。お邪魔になると悪いので。


 交信が途絶えた。

「そろそろ…失礼させていただいてもいいですか?」

「ああ。それと……」

 何だろう。

 ものすごく言いにくい。

「気が向いたら…また作っ――」

「地球基地からの連絡船より入電!

 間もなく、艦隊は敵機動要塞監視区域に入ります!

 各艦長、及び各隊長は各艦のブリーフィングルームに集合してください!」

 …途切れてしまった。

「どうか…しましたか?」

「いや…いい。行ってくる」

「い…行ってらっしゃいませ」

 そうぎこちなく言ったのが少し、耳に残っている。


 部屋中のモニターに各員の顔が映る。

 この部屋に入るのは久しぶりだった。

「まず、戦闘を行う可能性の高い敵機動要塞の規模などを伝えてくれ」

「はい。

 同盟帝国軍がアンチジャミングをかける約二百五十年前、ほぼ全ての機動要塞の規模は現在の土星軌道上機動要塞オーバニスラとほぼ同じ程度でした」

 土星の第七機動要塞か。

 そこそこだな。

「現在の予測は」

「偵察船によると、敵主星星系内の軌道上機動要塞はほぼ全て、木星軌道上機動要塞ホープと同じ程度です。

 が、今回戦闘を行うのは独立型機動要塞と思われます」

 独立型機動要塞か……

 星系内を自由自在に動き回る、最高の警備。

 だが、単体での能力は他に類を見ない。

 あまり自由に動けない惑星軌道上機動要塞とはわけが違う。

「敵の独立型機動要塞はほぼ独立型機動要塞シャクナゲ程度の規模と思われます」

 火星、木星間を移動するシャクナゲと同じ規模だと?

 地球への侵攻の際の最低でも第二関門となる独立型機動要塞だぞ?

「作戦は…どうする」

「作戦を考える前に、撤退を考えた方がよいのでは?」

 第二護衛艦艦長か。

「私個人的にもここは一旦退きたいところだ。

 だが、シィーアの破壊が行われた今、たとえ双方の惑星が滅びることになろうとも、ファーリルの破壊、または占拠をしなければならない。

 その足がけとなるために、敵主星星系内に侵攻しておきながら、みすみす下がるわけにもいくまい。

 それにまだこの艦隊にもあまり犠牲者はなく、どの非生体艦も撃沈されてはいない」

「もっともな意見だと思います」

 …ファリエナか。

 また変なことを言い出しそうだ。

「犠牲者が出ているのは、我々航宙機隊数名のみ。

 他の隊や戦艦も全くといっていいほど損害がないのに、死ぬのが怖い、という理由で退いてしまうのは、軍人として最も恥ずべき行為だと思います」

 …余計なことを。

 お前らのせいで俺がいったいどれだけやきもきしながら胃を痛めているのかわかっているのか。

 臓器の年齢は四十後半って言われたんだぞ。

「ほう。最も恥ずべき行為…と。

 ならば、あなた方なら、たとえ特攻してでも敵機動要塞を撃沈させる覚悟がある…と?」

「もちろんです」

 そろそろ、年齢的にも誘われていることを理解したほうがいいんじゃないのか?

 お前はその最も恥ずべき行為を実際に受けているんだぞ?

「ならばどうでしょうか、航宙機隊に全てを任せてみるのは。

 二百五十機のヴァルキリーでどこまでできるか…みものですな」

「私もそう思います」

「私もですな」

 くされオヤジ共が。

 結局は死にたくないだけかよ。

 後も俺達より無いくせに。

「航宙機隊隊長…了解願えますか?」

 次に来る言葉が分かっていても、祈った。

「もちろんです」

 祈りは通じなかった。


「レーダーにこちらに向かってくる巨大物体の反応有り!

 隕石の可能性は極めて低いと思われます!」

 …今は祈るしかないか。

「艦隊は現態勢を維持!

 各艦ヴァルキリー第一部隊、発艦準備!」

「了解!」

 戦果は期待している。

 だが、命だけは捨てるなよ。

「各艦、ヴァルキリー発艦準備完了!」

「ヴァルキリー、発艦!」

「了解!

 ヴァルキリー、発艦です!」


 こういうのは、残念なことに初めてじゃない。

 ファリエナのたった一言で他の人まで巻き込むことは戦闘に関係があるなしに関わらず、結構あることだった。

 もう少し、威厳とかそういうのを持ってくれればなぁ……

「…何か言った」

「話す意味も無いでしょ。わかりきってるくせに」

 途端に耳を塞ぎたくなるほどの轟音が襲う。

「わかってるわよそのくらいぃ!!

 あの糞オヤジ共が悪いに決まってんのよぉ!!」

 ファリエナはまだ僕と同じ二十五歳なのに、こんなに重い役職に就いている。

 もっとも、他の艦隊だとほとんどが部隊長止まりだけど。

 性別の差っていうのは結構無くなってきた方だけど、年齢の差はまだなくなってはいない。

 たとえ、三年連続航宙機撃墜数一位、そして今年はそれに加えて戦艦撃沈数三位の腕でも、やっぱり認めてもらえてない。

 軍に入る前、ファリエナは。


 ――女だって、若いやつだって、腕さえありゃなんとかなることなのよ。軍ってところは。


 なんて言ってたけど、そうそう甘いものじゃなかった。

 同性からいじめを受けたりすることは無いけど、偉い役職の男の人からは、あんまりいい目で見られてなかった。

 …体を売って昇進している、なんていうデマが一時期飛び交ったぐらいに。

 今回も、前回も、前々回も、同じような流れでなったものだった。

 同情はするけど、周りを巻き込むともっと悲惨な目に遭うことがあるからなぁ……

「…いいわよ別に。

 わかってるから。

 ほら! 集中しなさい!」

 そのとき、警報が鳴った。

 前からだ。

 僕は機体をそらすとそれを最低限の移動で避ける。

 でも、警報は鳴り止まなかった。

 前のモニターに映るカウントダウンは、何十にも重なっていた。

「こんなに遠距離からこれだけの弾を飛ばしてくるなんて、あんたバカじゃないの!?」

 ファリエナに答えている余裕はあんまりない。

「全機、紫電荷電子砲の射程が敵に定まり次第、一斉に弾幕を張ります!」

 敵への攻撃…っていうよりは単なる防御だと思う。

 でも、そうでもして隙を作らないと、最低限、突破は不可能だ。

「全機、放て!」

 紫の光が機動要塞に向けて放たれる。

 そして、その隙を狙って全員が最大加速で飛ばした。

 ここまで接近すればさすがに……

「ヴァルキリー各機に通達! 敵機動要塞よりジャシルタが出現!

 敵数、現在約百!」

 やっぱり。

 これで砲撃は少し止むと思うけど、これはこれできつい。

「敵のカタパルトは開いてるのね?」

「はい! 開いています!」

「レステア、聞いたわね?」

 …嫌な予感がする。

 でもまぁ、確実…かな。

「まあ…ね」

「あんたは今からバックで航行。逆向きでMJシステムを使うわ。

 大丈夫。そこらへんのところは行く前にちゃんと頼んであるから。

 そして、あたしたちが減速しながらカタパルトに入ってあたしの燃料を低速でパージ。

 あとはカタパルトを出来るだけぶっ壊しながら全速力で脱出、ね?」

 バックでこの弾幕の中を避けるなんて無謀すぎる。

 でもまぁ、仕方ないかな。ファリエナの言うことだから。

「了解」

「ありがとっ」

 成功しても、しかられるんだろうなぁ。また。

「これより、生四一、生四二のMJによる機体接続を行います!

 生一から生五までの部隊は、援護を頼みます!」

「「「了解!」」」

 僕たちの周囲を十数機のヴァルキリーが飛び回る。

 ファリエナが近づいてきた。

 正しい向きなら多少ズレてても大丈夫だけど、反対だとシステム自体のロックを外しているから慎重にやらないといけない。

 速度と進行方向に細心の注意を払いながらファリエナと合わせる。

「…来て」

「…うん」

 僕がMJシステムを起動。

 接続はうまくいった。

「引き続き、援護を頼みます!」

「「「了解!」」」

 逆に接続したために、重心そのものがズレて正常な航行がかなり難しい。

 下手をすればその場で回転を始めてしまう。

「行くわよ!」

「うん!」

 急激にカタパルトに向かって旋回し、機体の進行方向が若干あやふやになる。

「減速開始!」

 入るぎりぎりのところで僕がほぼ最大出力で無理やり減速させる。

 後ろを向いているから、どこらへんまで深くきているのかわからない。

「パージ完……」

 燃料がなくなり、ファリエナの通信が途絶える。

 僕は機体全体を上向きにし、ブースターを上に向ける。

 あとは、運頼み。

「カタパルト付近にある機体は、速やかに退避してください!」

 出れた。

 そのまましばらく航行すると、一旦ファリエナを離し、とんぼ返りして正しい向きに接続した。

 そして、ファリエナに燃料を少し補給する。

「…うまくいったみたいね」

「うん」

 爆発は表面でしか起きていなかったが、それだけでも十分だった。

 敵の武器がなくなれば、撤退してくれるはずだ。

「敵機動要塞が撤退を開始!

 航宙機は速やかに帰艦してください!」

「「やったね!」」

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