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Ep.VI オサナナジミ

 Ep. VI オサナナジミ


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 やけに重い空気。

 こんなの僕たちじゃない。

 でも、

 そんな声を上げるのは僕に許されてなさそうだった。

 少しひどい言い方だけど原因は、ファリエナだ。

 少しも泣いてないけど、泣くことを忘れるぐらい悲しいんだと思う。

 ふと、シューエが立ち上がり、続けてカリーナとギャルシュも立ち上がる。

 そして、何も言わずに部屋から出て行った。

 SCがあれば、何か声をかけてくれたんだろうけど、そんなことはなかった。

 もしかしたら、みんなもSCで励ましていたのかもしれない。

 でも、わからない僕にはわからなかった。

「…ファリ――」

「いいわよ。別に。慰めてなんかくれなくったって。

 私なんかより、ギャルシュやカリーナを慰めてあげなさいよ。

 故郷の星をあんなやつらに壊されたんだから」

 悔しいけどもっともだ。

 きっと、部屋を出てからどこかに行って泣いていたりしているに違いない。

 泣かなくて済むほど、心が強い人じゃないはずだ。

 女の子なんだから。

「でも…僕はファリエナのそばにいたい」

「……

 いっつもマゾっ気放ちながらみんなにイジられてるくせに、こういうときは頼ってもいい、って?

 かっこつけてんじゃないわよ。似合いもしないくせに」

 さっきからずっと顔を机から上げないせいで表情は全くわからず、近寄ることも怖い。

「でも――」

「でもじゃないのよ。こういうときに限って、いっつもしてないことやってるのがムカつくのよ。

 早く消えてくれない? こういうときは一人にした方がいいことぐらい、いくらあんたでも分かることでしょ?」

 いつもと変わらない喋り方で自分を隠していることが見え見えで痛々しい。

 こんな声なんか、聞きたくない。

「…嫌」

「はぁ? あんたバカじゃないの?

 いっつも女だの男だのって気にしてばっかりのくせに、反抗しないでよ」

 僕が今取ろうとしている行動は、限りなく間違いだと思う。

 でも、ファリエナならそれでもわかってくれる気がした。

 逆にこれで無理なら、もう部隊としても、幼馴染としてもおしまいだ。

「…嫌だ」

「出てけって言ってるでしょ。

 …殴るわよ」

「…嫌だよ」

「あんた、この期に及んであたしをバカにするわけ?

 出てって」

「嫌」

「出て」

「嫌だ」

「出てってよ」

「嫌だよ」

 ……

 動いたのはファリエナだった。

「出てけって言ってんでしょうがよ!」

 ファリエナは勢いよく立ち上がると、僕に向かって走り出す。

 そしてその素手を、頬で思い切り受け止めた。

「…っ……」

 完全に本気だ。

 僕のことをちっとも考えていない。

 ファリエナがこんなに痛かったなんて、知らなかった。

「あんた…バカでしょ。バカ決定よ。

 人に本気で殴られて、なんで何もしようとしないのよ」

 僕はゆっくりと立ち上がる。

 でも、ファリエナを見る前にみぞおちに膝蹴りが入った。

 内臓が揺れて気持ちが悪い。

「おかしいわよ…あんた。

 出てけって行ったら、素直に出て行きなさいよ!」

 背中に回し蹴りを食らい、そのまま壁に叩きつけられた。

 骨…折れちゃったかもしれないな。

「嫌…だ、よ……」

 立ち上がる。

「その態度も性格も顔も全部…ムカつくのよおおぉぉ!」

 目の前に白い閃光が飛ぶ。

 壁に追い詰められてボコボコにされてるのがなんとなくわかるぐらいだった。

 こんなことやって無事で済むかなぁ…ファリエナ。

「はぁ…はぁ……

 これで…気は済んだかしら……」

 気付けば床に座っていた。

 僕はファリエナを見る。

 そして、勢いよく立ち上がり、その勢いに任せてファリエナに対する全ての気持ちを込めた拳を放った。

「…!」

 多分、届いたと思う。

 外れちゃったけど。


 痛みで目が覚めた。

 こんなことは生まれて初めてだ。

「する前から言っておくけど、起きないで。ひどいから」

 目だけを開けて周りを見ると、心配そうな顔、というよりむしろすごく落ち込んでいる顔のファリエナがいた。

 まだ他のみんなは来てないみたい。

 自分の体から薬品の匂いがした。

「する前から言っておくけど、相槌とか別に入れなくてし、聞かなくてもいい。独り言だから。

 何か言うことがあったとしたら、言ってからにして。

「……」

「あたしってほんっとバカよね。あんたのこと怒鳴りたくなんてないし、殴ったりなんてましてしたくないのに、ただ単にどこかに何かを向けたいからって人に当たって。しかもそれがあんたで。さすがにここまでやると、どっちかが言えば私は格下げね。別にあたしのことなんか考えなくていいから。単純に人にあいさつを言う感じでさらっと言っちゃえばいいのよ。あたしは怒らないし、恨まないから。ま、あんたがやんなくてもあたしが自分で言うからいいけどね。ほんとバカだと思うわ。あたし。怪我させたのに自分で治療してるなんて。わっけわかんない。何したいのかしらね。あたし。ま、あんたもあんたなんだけどね。逃げたきゃ逃げればいいのに。本当に嫌だったのはどうせあたしから殴られたりすることなんでしょ? わかってるわよそれぐらい。いっつもそんな顔しているもんね。あたしの機嫌を伺って。あたしのさせたそうなことして。あたしに従って。それを当たり前だと思ってたあたしもあたしなんだけどさ。何でこんな変な関係なのかしらね。昔からだけど。いっつもあたしが怒るのに、あんたが謝って。気付いてたのよ? あんたがあたしは自分から謝らない人だって知ってること。それもあんたのせい、っていえばあんたのせいなんだけどね。なーんでこんなに素直になれないかな。あんたに言ってもしょうがないけど。でもさ、悪くないと思ってるよ。あたしは。あんたはただドMみたいに振舞わなきゃいけないから嫌だと思ってるかもしれないけど。ほんっとに何もなくぼーっと過ぎていきそうね。あたしたちは」

 ちょっと悪いことしたかもしれないけど、独り言は聞いてなかった。

 僕の方が言いたいことがあった。

「さてっと。

 あんたのその様子だとほんとに聞いてなかったみたいだけど、何か言いたいことある?」

「僕は…僕はファリエナと一緒にいたいよ。

 傍にいる必要もないし、離れていてもいい。

 でも、僕はファリエナと一緒にいたい。

 僕が何を言ってるのか自分でもよくわからないけど、とりあえず聞いて欲しい。

 僕は、ファリエナが僕にしてほしいことなら何でもする。もうドMでも何でもよくなったから。

 そりゃ、いつもみたいにひどすぎることには反対したりするよ?

 でも、言いたいこととかあったら何でも言ってね。

 解決できないと思うし、聞いてさえいないかもしれないけど。

 こんな、関係なんだからさ」

 その直後、ファリエナは僕の胸で本気で泣き始めた。

 …痛いなぁ。


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