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Ep.III 航宙艦艦隊戦

 Ep.III 超撃艦艦隊戦


「失礼します」

 俺の部屋に誰かが入ろうとしていた。

「誰だ」

「私はファリエナ航宙機隊隊長です」

 カメラで一応確認する。

 やはりファリエナだった。

「入れ」

 扉を開く。

「失礼します」

 扉を閉めた。

「何よ、一体。いきなり呼び出して」

 …やっぱり、ファリエナはこうでなくちゃな。

「いや、特に」

「用も無いのに呼び出さないでよね。私だっていろいろあるんだから。

 あんたはあんたにゾッコンの副艦長がいるからいいでしょうけど」

「ゾッ…コン?」

 初耳だ。

「あんたの前だとあの副艦長、完全に乙女の目をしてるわよ?

 それに私、あんたと話したあとに溜め息ついてるの見たし」

 確かに優秀なやつだとは思っていたが……

「今度、別の艦隊の指揮官になるとき、副艦長候補を見てみなさいよ。

 なんでもあの女、指揮官試験をけってまであんたのそばにいたいみたいよ?」

 どうりで、どこかで見たことのある顔だと思った。

 全部の候補に載っていたわけか。

「そうか……」

「そうか、じゃないでしょ。そうか、じゃ。

 付き合っちゃいなさいよ」

 またそういうことを言い出す。

 これは面白がり屋…というよりただのお節介だな。

「…好きでもないのに付き合えるか」

 ファリエナの顔がいらついている顔に変化する。

「はぁ?

 あんた、女から『好き』って言わせるわけ?」

「そう…なるな……」

 恋人が欲しいなんて、思ったことは今まで一度もない。

 必要だと思ったことがそもそもないからだ。

「あんたねぇ、一体――」

「そうやって、お前も言われるのを待ってるわけか?」

「な……」

 ファリエナの顔がそのまま赤くなっていく。

「たとえどんなに色気を出しても、綺麗になっても、お前がお前である限り、あいつが気付くわけがないぞ。

 あいつは銀河連合軍一…いや、全銀河で一番の鈍感だ。

 おまけに女を意識したことが人生の中で一度もない。

 そんなやつを振り向かせる確立なんて、天文学的な数字になるぞ」

「う、うっさいわね……

 あんたには…関係ないじゃないの……」

「ま、あそこまで鈍感な上に性格も外見もいいせいで、軍の中では女殺しとして通っているわけだが」

 ファリエナがむすっとする。

 彼女も、悪い人材ではあるまい。

 むしろ、良い。

 …口を閉じていればだが。

 …まあ、中には口を開けたほうがいいやつもいるらしいが。

「それに、何でも、お前が他の艦隊の任に就いているときに『ソレ』のせいで事故を起こしかけたことがあったそうじゃないか。

 それも何でもないときに」

「だって、あれは……」

「証言によれば、偶発的にお前を押し倒すような形になり、お前が操作を誤ってヴァルキリーを発進。

 格納庫の中にデブリを溜めているような、だめな司令官のところでなければ、お前らを巻き添えにして機動要塞撃沈だぞ」

 失態を言われたのが恥ずかしいのか、思い出して恥ずかしいのかはわからないが、まるで風邪をひいたように顔がさらに赤くなる。

 おそらく後者だろうが。

「喧嘩してるくせに、お構いなしに『どうしたの? どうしたの?』ってうるさいし。

 一回ぶん殴ろうと思って襟首掴んだらリフトが倒れてそのまま操縦席入り。

 あとは…よく覚えてないわ」

「泣いて心配されるまでは、意識も完全に飛んでたらしいな」

「…うん」

「……」

「……」

 ひとしきり話題が終わってしまったために、会話が途切れてしまった。

 そして、改めて聞く。

「お前は…レステアのことが好きなんだろ?」

「…大好――」

「ファリエナー、なんでこんなとこにいるのー?」

 なんという鈍感だ。

 レステアが入ってきた。

「ど、どこから聞いてたのよ!」

「え? 何か話してる、ぐらいしかわからなかったけど」

 こういうときにこの性格は役に立つ。

「それよりあんた……」

 鬼のような形相とは、まさにこのことである。

 …こんな女と仲良くしていけるレステアが信じられない。

「なんでドア閉めてないわけ?」

「閉めてはいた。だが…ロックを忘れて――」

 襟首をつかまれる。

 抵抗する暇もなく、俺は投げられた。

「このくそ指揮官!

 あんたのせいでめちゃくちゃになるところだったじゃないのよ!」

 …非常に痛い。

 だが、それ以上に痛みを被っている人物が俺の下にいた。

「なんで僕まで……」

「カンリイも悪いけど、それ以上になんであんたが入ってくんのよ!」

 レステアがかわいそうだ。

 …本当に不思議な二人組だ。

 このまま漫才でもやればよさそうなものなのに。

「だって、14:00に全体でシュミレーションをやるって言ったはファリエナじゃん……」

「カ、カンリイ指揮官! 大丈夫ですか!」

 今度は副艦長。

 …正面から見ずに下の方から見てみる、というのもなかなかいいものだ。

「…心配ない……」

「骨とか折れていませんか? お腹変じゃありませんか? 意識ありますか?」

 …最後の一個は、俺がお前に答えているだけでわかるだろうが。

「何よ。あんた、あたしがそんなに凶暴だとでも言うわけ?」

「あんたとは何ですか!? 私は副艦長ですよ!?」

「私は航宙機隊隊長よ。

 あんたと同格、ってわけ」

 …女同士の喧嘩は見ごたえがある、と心の中で思った。

「位が同じだからといってそんな言葉を使うなんて、あなたは本当に軍人ですか!?」

「はいはい。よくわかりましたよ、副艦長様様」

 …おもしろくなってきた。

「カンリイ指揮官! なぜこのような下種な女を航宙機隊隊長にしたんですか!」

「ほーう。あんたもそういう言葉、使えるんじゃない」

 とりあえずファリエナは無視して話を続けた。

「ファリエナ航宙機隊隊長は…銀河連合軍の中でもトップクラスの腕の持ち主だ。

 信頼のおける仲でもある」

「し、信頼のおける仲!?」

 どうやら、まずい一言を付け足してしまったようだ。

 一気に着火される。

「…少し、不謹慎じゃありませんか? ファリエナ航宙機隊隊長」

「え? ああ。

 そりゃ、あんなことやそんなことぐらいやってるけどね。

 さっきまでそうだったし」

 …おい。

 さすがにそれはまずい。

 予想通り、怒りとも憎しみともつかない表情をする。

「…わかりました。

 カンリイ指揮官、失礼しました」

 何も言わずに出て行った。

 …これは、指揮に響きそうだな。

「さてと、邪魔者はいなくなったところで」

「…お前、俺とあいつの関係をどうしてくれる」

 ファリエナはこちらをちらりと見るが、大して悪びれた様子はない。

「別にどうでもよかったんでしょ?」

「プライベートでは…確かにそうだが、仕事となると話は別だ」

「…と、とりあえず僕も邪魔?」

 …すっかり忘れていた。

 というより、墓穴を掘ったな、ファリエナ。

「ち、違うのよ? 私とカンリイは……」

「い、いいよ別に。ちょっとびっくりしただけだから。

 …じゃ」

 慌ててファリエナがレステアの腕をつかむ。

「違うのよ。本当にカンリイとはそうじゃないの」

「…本当に…いいって」

「違うのよ! 私はあんたのことが――」

「レーダーに敵影確認!

 雷撃艦十五隻、航宙艦五隻が角度二百四十度で接近中!

 至急、各乗組員はフェイス2にて待機!」

 …空気が読めていなかったようだな。

 いや、間が悪い、と言ったほうがいいか。

「出撃だ。お前ら。

 レステア、ファリエナの言っていることは事実だ。信じてやれ」

「…うん。二人ともそういうなら」

 ファリエナが悔しそうに下唇を噛んでいる。

 …ま、頑張れ。


「敵に捕捉されていない可能性は!」

「50%です!」

 五分五分…か。

 戦艦一隻一隻で比較すればこちらの方が性能は低い。

 先手を打たなければ、基本的にこちらは負ける。

「ヴァルキリー至急発艦させろ!

 敵航宙艦全滅を確認するまで各艦は密集隊形で対空用意!

 確認後、全砲台一斉砲射!」

「了解!

 全艦長に通達!」

 信じてるぞ。三年四組。


「あああっ! もう!

 こんなに無茶させる作戦立てて!」

 至急、ということもあって、ちゃんと宇宙服を着れていない。

 背中にあるシワを気にしながら走る。

「この前より活躍できそうだね」

「ドッグファイトは好きじゃないの!

 とくにあんなハエみたいなやつを撃ち落すのはね!」

 ハエみたいなやつ、っていうのは、ジャシルタのことだろう。

 敵主力航宙機ジャシルタ。

 銀河連合軍にある全航空機、航宙機にはない、突進攻撃をする。

 別に特攻っていうわけじゃないけど、とにかく戦艦撃墜能力は高い。

 戦闘形態にはいると速度は亜光速を超え、戦艦を貫く。

 まさに弾丸。

 それに、亜光速以下の弾丸はなぜか直撃しない。

 速度は航行速度でもこっちより速い。

 でも、なぜかは知らないけど、それ以外の攻撃方法は一切持ってない。

 他の戦艦の対空攻撃が強力なせいで、ドッグファイトを考えて設計されてないのかもしれない。

 どっちみち、僕達がどうにかしないと、ほぼ確実に一隻はやられる。

 うまい奴だと一回で四、五隻は沈む。

「ぼーっとしながら走ってると、転ぶわよ!」

「・・・ん? うん」

 ファリエナがため息をつく。

「ほんっとに、あんたは私がいないとどうにもならないわね」

「じゃ、ずっと一緒にいてよね」

「…え?」

 格納庫についた。起動は済ませてある。

 乗り込むとハッチを閉める間もなく機体が移動しはじめる。

「ヴァルキリー、TMOVカタパルトへと移動開始!」

 あわててハッチを閉めると、やっぱり直らなかった背中のシワのせいで居心地が悪い。

 何度も座りなおす。

「カタパルト発射まで、3、2、1…はっ……」

 「発艦」の文字が聞こえる前に重力で目の前に星が飛ぶ。

 緊張が、今頃になってやってきた。

 ……

 ファリエナからの命令がない。

「ファリエナ、どうしたの?」

「…!

 ぜ、全部隊解散し、各機で戦闘開始!

 向かってくるハエは残らず撃ち落とせ!」

「了解!」

 僕の声しか聞こえない。

「つないだ?」

「…あー、もう! あんたのせいよ!

 全部隊解散し、各機で戦闘開始!

 ジャシルタは全て打ち落ちょしぇ!」

「「「「りょ、了解!」」」」

 最後をファリエナが噛んだせいでクスクスと笑いが残った。

「あ、あんたのせいなんだからね!」

 通信が一方的に切れた。

 僕、何かした?

 と、部隊を解散して各機がTMOVを解除して敵の方へと向かっている。

 レーダーにはすでに敵航宙機が続々と映ってきている。

 最前線はもう戦闘に入りそうだった。

 僕は急いでTMOVを解除し、最後尾から味方の後を追った。


「ヴァルキリー、戦闘開始!」

「密集隊形が整いました!」

「全戦艦対空砲、撃ち方始め!」

 色とりどりの砲弾が戦場へと吸い込まれていく。

「戦況は?」

「こちらの方が押してはいますが、やはり数が多いです」

「そうか・・・…」

 敵の航宙艦の航宙機推定艦載機数は五十五機。

 こちら側は非生体空母艦が平均五十五機、半生体艦が平均二十機

 単純に考えると四百七十対二百五十でこちらが勝っている。

 だが、機体の性能上、こちらは一度に全機出すわけにはいかない。

 相手の戦闘可能時間は推定二時間三十分。

 こちらの戦闘可能時間は約一時間。

 交代で出すような仕組みをとっているものの、実質戦場に出てる数で比べれば百二十対二百五十で圧倒的に不利。

 だが、これくらいは跳ね除けてもらわないと困る。

 いや、跳ね除けなければならない。

 この先に待っているのはこんなものではない。


 画面が異常を知らせる。

「…!」

 旋回すると、そのままならいるはずだったところをジャシルタが突き抜けていった。

 ジャシルタの通ったあとはなぜかその先に見える星の光が揺らめく。

 でも、見ている場合じゃない。

 亜光速弾を放つが、無常にも宇宙の中をまっすぐに突き抜けていった。

 異常音がほぼ同時に重なって聞こえた。

 勘だけを頼りに旋回すると、五機ものジャシルタが突き抜けていった。

 その中の二機を亜光速弾が貫く。

「何もたもたしてんのよ!」

 いつものファリエナだった。

 やっぱり、こうでなくちゃ。

「MJシステム起動!」

「使うの!?」

「ちょっとやられたのよ!」

 MJシステム……

 ヴァルキリーの相互連結システム。

 主に緊急時に使われる…けど……

「…ほんとに?」

「い、いいじゃないのよ! そういう気分なの!

 さっさとやりなさい!」

 仕方なくMJシステムを起動する。

 ファリエナの底部に移動して、同じ面を合わせる。

「連結完了」

 機械音声がそう告げた。

「攻撃は私! 避けんのはあんたよ!」

「はいはい」

 連結したままの戦闘は難しい…らしいけど、僕達にとっては二人三脚より簡単なことだ。

 むしろこっちの方が戦いやすい。

 機体が大きくなっても、二人乗りだと扱いやすいからだ。

「十五機目!」

 連結してから敵の攻撃が一気に増した。

 無理もない。

 僕達は…自慢じゃないけど…銀河連合軍内一の功績を持っている。

 そのせいか、敵側にはかなり知られてるらしく、最近は特に僕達に対する攻撃が激しくなってきている。

 最も、連結しないと気付かれないんだけど。

「二十! 二十二! やりぃ、五連ちゃん!」

 たまに飛んでくる雷撃艦のレーザーを利用してジャシルタを散らせる。

 今日はいつもより調子がよかった。

「かき混ぜるわよ!」

「わかった!」

 敵艦隊にまっすぐ突っ込んでいく。

 雷撃艦のレーザーが激しくなっていくけど、それにつれてジャシルタの数も減っていく。

「前の航宙艦を潰すわよ!」

「うん!」

 航宙艦の縦のラインに機体を合わせ、機体を斜めにするようにして二機の赤電苛粒子砲を当てる。

 航宙艦を過ぎたところで機体を旋回させ、今まさに開こうとしているカタパルトに向けた。

「「発射!」」

 赤い光がカタパルトの中へと吸い込まれていく。

 そして、音が聞こえるわけもなく航宙艦が爆発した。

「次! 右の雷撃艦!」

「うん!」


 …頑張りすぎだ。お前ら。

「ファリエナ、レステアが四隻目の雷撃艦を撃沈しました」

 出る幕もないとは、まさにこのことだ。

 だが、あいつらの残弾と燃料もやばい。

「対空砲火止め!

 全艦、主砲へ装填!

 ヴァルキリーの撤退命令を出せ!」

「了解!

 全ヴァルキリー、戦線を離脱してください!」

 一斉に点が離れていく。

「安全を確認!」

「全艦主砲、放て!」


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