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Ep.X  天誅艦戦

 Ep.X 天誅艦戦


「第二小惑星帯での非生体ミサイル艦二十四隻での合計四十八発の宙空衝撃弾頭ミサイルの攻撃はほぼ無効。

 一時間で全艦撃沈。

 第一小惑星帯での非生体主力戦艦百隻による飽和砲撃で左翼を撃破。

 その後のジャシルタの総攻撃により二時間で全艦撃沈。

 木星軌道上機動要塞十二機での攻撃を行うがジャシルタ数百機の撃沈に留まる。

 八時間後に全機撃沈。

 勝てるの? こんなのに」

 ファリエナが今までの天誅艦との対戦成績を読み上げる。

 文字通り、連戦連敗。

 これまでに三十万人以上の軍人があの艦に殺された。

「仕方ないよ。あと一時間後なんだから。

 逃げる場所だってどこにもないんだし」

「…それはそうだけど……」

 何だか、ファリエナはかなり落ち着かないみたいだった。

 それもそうだよなぁ。

「…レステア?」

「何?」

 さっきから何か言いたそうにしてるけど、ずっと隠して別の話題にもっていってる。

 言いたいことがあったら言ったらいいのに。

「こんなときに…なんだけどさ……

 その…やっぱりお嫁さんは日本人じゃないと…だめなの?」

「別に。もう純日本人は僕しかいないみたいだし。

 地求人もシィーア人もファリエナみたいなハーフだって、結局は変わらないと思うよ」

 何だか少しイライラしてるかも。僕。

 そんなことしたくないのになぁ。

「そう…なんだ……」

「そういうファリエナはどうなの? タイプとかっているの?」

 僕は後ろを向いているからファリエナの表情はわからないけど、多分、動揺したんだと思う。

「あ、あんたみたいに…根性なしじゃなくて…あんたみたいに…反抗もしなくて…あんたみたいに…背も――」

「じゃあ、僕以外なら誰でもいいんだ。へぇ」

 …ものすごくひどいことを言ってしまったのかもしれない。

 こんなの僕じゃない。

 一番不安がってるのは僕…なのかな……

「そ…そんなこと誰が言ったのよ!」

 思わず振り返る。

 ファリエナは泣いていた。

 今度はファリエナが後ろを向く。

「な、泣いてなんかないんだからね! 泣いてなんか……」

「ごめん。ファリエナ。なんだか僕、どうかしてたよ。ありがと」

 ファリエナは必死に涙を拭いている。

「…あんたのためにやったわけじゃないわよ」

「もっと楽にしていいよ。僕達はいつまでもいっしょだから。ずっとここにいるから」

 ファリエナがこっちに向き直る。

 目はまだ腫らしたままで、頬にはまだ水滴が残っていた。

「なに、この前みたいなクサい台詞言ってんのよ。

 何度使ったって私を落とすなんて百万年早いのよ」

「言葉で通じないなら……」

 僕は立ち上がるとできるだけゆっくり、不安がらせないようにファリエナに近づいていく。

 いつの間にかファリエナより少し背が高くなっていたことに気付いた。

 ファリエナは僕を見つめたまま、動こうとしない。

 目からまた涙が出ているけど、拒否しようとはしていないみたいだった。

「…ぁ」

 そんな小さな言葉だけを聞いて、僕はゆっくりとファリエナを抱きしめた。

 僕をいつも殴っていた腕は意外と筋肉質じゃなくてびっくりした。

 こんなに近くにいると意外といい匂いがすることにびっくりした。

 ファリエナの僕への気持ちがなんとなくわかって、びっくりした。

「…ちょっと…何…やってんのよ……」

 ファリエナは意外と動揺とかはしていない。

 放心状態って感じだ。

「嫌なら、自力で抜け出したらいいじゃん」

「……」

 こんなに長く僕を想っててくれたんだなぁ。

 でも、今僕からそのことを言うのはなんだか可愛そう。

 それに、このタイミングで言ったら二人とも死んじゃいそうだし。

 でも、気持ちがわかっただけで本当に嬉しかった。


「ファリエナさん、やっとここまで来ましたね」

「そうね〜。でも、これでこそやっと真の恋する乙女よ。

 ますます欲しくなっちゃうじゃない」

「でも、私達にって、春…来るんですかね?」

「…春どころか人さえ来ません」

「…ああ〜。なんかシングルマザーみたいでやだなぁ」

「…なら、どっちでもいいから、私と春にならない?」

「「…え」」

「春を通り越して、一気に燃え上がる夏まで行ってもいいのよ?」

「いや…私はそういう趣味は…ちょっと」

「…えーっと…あの…その……」

「返事しないからシュエりん、も〜らいっ!」

「ふえっ!?」

「運動しなくてこっちの方にお肉がいってるからほんとに柔らか〜い」

「か、勝手に夏まで持っていこうとしないでください!!」

「……」


 あれからずっと、俺は別に指揮官のような位置にいるわけでもなく、ただレイの艦長として軍にいた。

 今回も俺はプレーヤーではなく駒。

 指揮官を経験してしまってから、どうも駒として動くのが何だか複雑な気分で、戦闘にも身が入らないでいた。

「全戦艦、臨戦体勢!」

 今回、俺達は直接戦闘には加わらない。

 なぜならレイは戦艦ではなく輸送艦。

 特に基地での直接戦闘になった場合はただの邪魔である。

 そこで、全ての輸送艦は天誅艦が侵攻してくる火星の地球側、直接砲撃が飛んでこないところで待機し、いざというときの箱舟になるのが役目だった。

 最も、火星が落ちればあとは地球へと侵攻するだけ。

 月も一応機動惑星としては稼動しているが、艦艇製造が主なため、戦闘はほぼ不可能。

 大きさもあって、体当たりされただけでも吹き飛んでしまう。

 仮に逃げ出せたとしても、奪還は不可能だった。

 それに、今までに発見されている地球型惑星は四つ。

 その内、鼎皇軍が完全に支配しているのは二つ。残りはシィーアと地球だけだ。

 一応、生命がいる可能性がある惑星というのは発見されているが、どれも元の火星に近いような灼熱か、極寒の星。

 あてもないところを三次元空間移動で飛び回ったところで、全員が老化して絶滅していくのがオチだ。

「全非生体防御艦、FF格子粒子シールド展開!

 全艦、全砲台発射準備!

 全航宙機、エンジン始動!」

 ただ一方的に聞くだけの俺達は、この星の裏側で起ころうとしている大規模戦闘なんてどこか遠い星の話で、ラジオを聞いているかのような気分だった。

「天誅艦、射程圏内に侵攻! 戦闘開始!」


 すごい。

 本当に思ったことはそれだけだった。

 後ろから飛んでくる粒子砲や砲弾。

 前から飛んでくる光速弾。

 飛んでるのが不思議なくらい、眩しかった。

「ジャシルタの発艦を確認!

 各航宙機は、迎撃にあたってください!」

 遥か前に見える巨大な戦艦。

 それから無数の光が飛び立っていることに気がつく。

 …そっか。

 …これって戦争なんだ。

 これだけの人が守りたいあらゆるもののために戦っていくんだ。

 力のない人たちが死んで、力のある人たちが生きる。

 そうだったんだよなぁ。これって。

「航宙機、戦闘開始!」

 モニターから鳴る警告音を聞けば、どれだけの数がいるのかがわかる。

 軽く二十は超えている。

 これだけ多いと、計測できてないのも一つくらいはある。

 急加速して大編隊を抜けると、後方の味方の点が消えていっているのがわかった。

 もう、こうなると敵とか味方なんていってられない。

 ただの子供のいじめだ。

 いじめっ子がいじめられっ子を追いかけていっても、自分がこけていじめっ子の方が泣いてしまう。

 そんな感じがした。

 でも僕は。

 いじめっ子にもいじめられっ子にもなっちゃいけない。


「航宙機交戦中!

 数が多すぎて砲撃できません!」

 まあ、そうだろうな。

 コウモリの大群のようなジャシルタと少数のタカのヴァルキリーでは混戦になるのは間違いない。

 多分、ヴァルキリー一機に二十から三十のロックが常にかかっている。

 性能や攻撃方法じゃない。

 双方のパイロットの技術力、精神力、体力の差。

 それが勝負の分かれ目だ。

 モニターを見てみれば、ジャシルタの減っていく数は一秒に百機程度だが、ヴァルキリーの減っていく数は一秒に十機程度。

 このままだと数の差で負けてしまう。

 SC能力の分だけスキルは上といっても、ここまで混戦していると丁寧に敵の位置を把握している時間はない。

「全非生体主力戦艦、相互重力発生装置搭載弾装填!」

 もろごとやるつもりか?

 いや、ある程度カタがついてからか。

 モニターを見てみると、一気に形勢逆転していることがわかる。

 一機あたりにつく数が減れば、勝てるのは当たり前か。

「全航宙機、対重力砲用シールド展開!

 一斉砲射!」

 これで蜂の巣…か?

「次弾装填! …発射!」

 一気に使い切るつもりか。

「次弾装填! …発射!」

 …使い切ったな。

 あとはおとなしくしてくれてればいいが。

「天誅艦中央より、槍状の物体が出現!

 火星に打ち込もうとしています!」

 惑星破壊兵器か…!

 ジャシルタの大型版とでも考えた方がよさそうか。

 星ごと破壊して、艦隊を壊滅させ、地球にも攻撃する寸法か。

「物体、発射されました!」


 何あれ…?

 あんなの見たことない。

「全艦、全航宙機、発射された物体に対して総攻撃!」

 実弾、粒子砲、亜光速弾、重力砲……

 いろんなものが飛んでくるけど、何一つ当たっていなかった。

 というより、表面を滑っていった。

 ジャシルタと同じだ。

 一機のヴァルキリーが近づいていく。

 あれは……

「…ギャルシュ!?」

 まさかギャルシュの念力で止めようなんて……

 そんな!?

「やめてよギャルシュ! 戻って!」

 通信は返ってこないし、ヴァルキリーも止まらない。

 念力で完全に槍を止めた。

 そして、方向転換させようとする。

 瞬間、何かがギャルシュの近くにダイブする。

 でも。

 撃ち落された。


 ……

 ……

 ……

 ……

 …あれ……

 ……

 ぼくまだ…生きてるや……

 ……

 ……

 すごく痛いな……

 ……

 ここどこだろ……

 ……

 ……

 ……

 …そうだ……

 ……

 お母さんを…助けようとして……

 …お母さん…?

 ……

 ……

 ……ぁ。

 ……

 ……

 ……

 どうして?

 なんでそんなことするの?

 そこにいるんだよね? 答えてよ。

 答えてよ。

 ぼくの話、聞いてるんでしょ?

 じゃないとぼく、お母さんのこと嫌いになっちゃうよ?

 だから…だから…だからだからだからだから

 だから答えてよおおおぉぉぉぉぉおおおお!!


「物体付近より、計測限界を超えるSC発生!」

 なんだ? なにがあった?


 ――リボリア!


 いきなりレイが話しかけてくる。

 いや、違う。

 俺にも聞こえるくらいの強いSCでリボリアに何かを言っているんだ。


 ――お願いだから…お願いだからそんなことやめて!

 ――どうしたレイ! リボリアに何があった!

 ――やめて! やめてぇ!!


「SCは一隻の生体艦より発生!

 今も増大している模様です!

 付近の航宙機は全て撤退してください!」

 リボリアは一体何をやっているんだ!?


 ――お願いだから死なないでぇ! そんなことしなくてもいいからぁ!

 ――何が――

 ――だめええええええええええええええええええええぇ!!


 瞬間的に頭が割れるように痛くなる。

 SCによるものなのは間違いない。

 レイのものなのか、リボリアのものなのか。

 そんな頭にうっすらと声は聞こえた。

「天誅艦…撃…止……」

 そのまま俺は気を失った。


 ……


 あの戦闘から丸四日。

 俺は何とか退院し、久しぶりの地球を満喫していた。

 天誅艦活動停止後、鼎皇国はすぐに降伏し、第二次銀河統一戦争は終わった。

 あのとき。

 何があったのかはよくわかっていない。

 思い切ってレイに聞いてみたりもしたが、それきり黙ってしまって、話が続かなかった。

 起きた事実はこう。

 リボリアが放ったどす黒い光線が天誅艦全体を包み、そのときの攻撃で乗組員は全員消滅。

 リボリアはギャルシュと共に死亡。

 もはやSCどうこうの問題ではなかった。

 いくら敵の砲撃でリボリアのSC制御板がある程度剥がれていたとはいえ、SCが計測限界を超えるということは最低一億以上のSCとなる。

 完全に未知の世界だ。

 この攻撃も、軍が目をつけないわけはないだろう。

 実用化されれば、相互重力発生装置搭載弾も、宙空衝撃弾頭ミサイルも全て過去の遺物となることは間違いない。

 軍人としてこういう考えはどうかはよくわからないが、俺はあまりあれが兵器になどなってほしくはない。

 どんなに危険だとしても、あれはリボリアとギャルシュの愛があったからこそできたもの。

 それを、人を殺すために使うのはあまり賛同できない。

「あ、あの…カンリイ艦長?」

「おいおい。ここは軍の施設でもなんでもないんだぞ?」

「ですが……」

「…仕方が無いな。置いてくぞ」

「あ、待ってください!」

 一時的であれ永久であれ、一応の平和は訪れた。

 これからも俺達は生きていかなくちゃいけない。

 死んでしまった仲間のために。

 そして何よりも、俺達のために。


 どうも。鯖味噌汁です。

 文章量が大してないくせに無駄に長かったです。六ヶ月です。ぐへへ。

 とりあえず、言いたいことはこれくらいですかね。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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