Ep.I 侵攻開始
「コーヒーまずいっ!」
吹きかけられた。
ある意味・・・間接キス?
「もうちょっと甘くしろって、何度言ったらわかるわけ?
使えないわね、ほんとに」
この子はファリエナ。僕の幼馴染。
シィーア人と地球人のハーフでこの銀河連合軍第一侵攻艦隊の航宙機隊隊長で、僕がいるこの銀河連合軍第一侵攻艦隊第四半生体艦第一部隊の隊長。
・・・とりあえず、いろいろわかんないと思うけど、何とかついてきてね。
「もう少し、感謝の心とか持ったらどう?」
「そうよファリエナ。レステアくんのことも」
この子はギャルシュ。本名はものすごく長い。
シィーア人でこの中だと一番普通。
身長200m弱の息子持ち。
・・・まあ、詳しいことは後で。
「こいつのことなんかかばったって無駄よ。どうせドMなんだから」
「でも、そんなこと言ってる優しいルシュりんも私は好きよ」
この人はファリエナさん。
・・・同じ部隊だけどなんか呼び捨てできない人。
話す必要がない要素は置いといて、歴代SC値ランキング二十五位というものすごいSCを持ってる。
・・・これも、説明は後で。
ちなみに「ルシュりん」っていうのはファリエナさんがつけたギャルシュのあだ名。
「ところでシュエりんは何を読んでるの?」
「あっ!」
今本を取られた人はシューエ。
本ばっかり読んでるからちょっと話しかけづらいかな。
時々、自分のことを話してくれないことがある。
もちろん、「シュエりん」はファリエナさんがつけたあだ名。
そして最後に、僕はレステア・フィーバック。
何にもいいとこ無いけど、一番この中でマシだという確信はある。
・・・Mじゃないからね?
「返してください!」
「やっぱり、上目遣いでこっちを見てくるこのアングルがたまらないわね」
・・・・・・
ボクタチハマダナニモキイテイナイ。
「うぅ・・・・・・」
「そういう真っ赤な顔、久しぶりに見ちゃった。カワイイ〜。
この連続こそまさに必要よね。アレに」
・・・・・・
ボクタチハマダナニモキイテイナイ。
「は〜い、返してあげるから」
「えっ!」
ドサッ!
「その代わり私も受け取って〜」
・・・・・・
残念ながらこれが僕達の日常風景です。
もう慣れた。
色んな意味で。
「にしても、待機時間長いわねぇ」
結局コーヒー飲んでるし。
「カンリイは何やってるわけ?」
「今はカンリイって呼んだらまずいでしょ」
「別にいいじゃない。あいつに変わりはないんだし」
カンリイ・・・キサラギ指揮官は銀河連合軍第一侵攻艦隊指揮官。
そして、僕とファリエナの同級生でもある。
僕ともファリエナとも友達だ。
「あの優等生、ほんとに何やってんだか」
・・・鼻がむずむずする。
どうせあいつらだろう。
「どうかしましたか? キサラギ指揮官」
「いや、何でもない」
つくづく「SC能力」というものに腹が立つ。
物理的障害を無視し、精神的にSC能力生物と交信することができる。
俺にもあと少し、あと少しあれば・・・・・・
「どうかしましたか?」
「いや。少しSCというものに腹が立っていただけだ」
「そうでしたか・・・・・・」
まあ、指揮官としての能力にSCはあまり関係ないが。
「各艦の状態は?」
「生体艦一隻を残し、準備完了です」
またあの生体艦か。
あいつらにもいい加減どうにかしてほしいところだ。
「・・・第四半生第一に何とかしろと言え」
「了解。
第一部隊ギャルシュ、例の生体艦を規定位置につかせなさい」
「だってさ、ギャルシュ」
「またリボリアは!」
ギャルシュがボタンを押すと壁の一方が大きく開き、全体がガラス窓になる。
ガラス窓には壁に入りきらないほどの白い何かとこちらを見る巨大な赤い目があった。
「リボリア。
・・・あなたも軍人としてちゃんと命令には従いなさい。
・・・やだじゃないの。あなたは一人の軍人として、立派に認められているんだから。
・・・はぁ。とにかく、移動したらまた来てもいいから、配置に戻りなさい。
・・・まったく」
白い体が少しずつ離れていく。
生体艦。
一般的にはそう呼ばれている生物の戦艦。
何でも製造・・・じゃなくて誕生にはどんな生物でも「親」っていう存在が必要らしい。
今、ギャルシュは航宙機隊所属だけど、昔は生体艦隊所属だった。
そのときの生体艦がさっきのリボリアなんだけど、ギャルシュが航宙機隊に移るときに破棄する予定だったのが、優秀な戦艦だったせいで破棄されずにそのまま使われることになった。
でも、ギャルシュの母性本能が目覚めちゃってたせいでギャルシュに甘えまくり。
僕個人は別に迷惑ってわけじゃないけど、艦隊としては相当迷惑なんだろうなぁ。
「ギャルシュ、また聞こえてるわよ」
「ごめん。怒るときはいっつもこれだから」
ちなみに、ギャルシュは独り言を喋ってたわけじゃない。
SC能力を使ってリボリアと喋ってたんだ。
生体艦全般に言えることだけど、もともと軍事用の戦艦だから精神的にもほとんど成長しないし、普通の生物にはあるはずの器官がほとんどない。
リボリアはさっき目を開けてたけど、あれも結構稀な例みたい。
「さて、用意しましょうか」
「全艦、用意完了しました」
「そうか。では私は準備に入る。あとは頼む」
「了解しました」
扉を抜けると服をたたんで全てロッカーにしまう。
そうして全裸になると、横の白い肌へと触れ、その中へと溶け込んでいった。
温かい。
レイの中に入っていると本当にそう感じる。
――お父様、用意は出来ています。
心の中にレイが話しかけてくる。
レイは半生体輸送艦。今回の全体的な作戦もレイが要になる。
――そうか。全ハッチを開いて、非生体艦を入れてくれ。
――わかりました。
そういえば、久しぶりだったな。レイと話すのは。
――レイ、すまなかったな。しばらく会えなくて。
――いいえ。お父様はいつでも私の中にいますから。
心、という意味じゃなくても本当にレイの中に俺はいるか。
――お前も・・・甘えたいか?
――え?
――あのリボリアのようにだ。
返答がなくなった。
我ながら、意味の無い質問だったな。
いくら無機質に対応しても、やはり俺が親ということに変わりはない。
――いいえ、別に――
――無理はしなくてもいい。ここにはお前と俺しかいない。
また返答がなくなった。
――はい。
答えと共に恥ずかしく答えているのが伝わってきた。
――今度はいつもより大変かもしれないが、時間があればまた来るからな。
――は、はい!
こんなにレイが甘えたがっていたとは正直思わなかった。
SCで語るからこそわかる事実。
――ところで、非生体艦の収容状況は?
応答がない。
――すみません、完了していました。
つい・・・舞いあがってしまって・・・・・・
つくづくかわいいものだ。
――三次元空間移動の準備はできているか?
――はい。お父様が来る前からすでに準備はしてあります。
――わかった。
俺はSCを副艦長へと向ける。
――全非生体艦、収容完了だ。
――確認済みです。
やはり・・・そうだったか。
――すまない。全乗組員に伝えておいてくれ。
――わかりました。
再びレイに戻る。
――これより、侵攻艦隊支援用小惑星基地へ三次元空間移動を行う。
――地点把握。出力問題なし。
――空間跳躍!