なんかへんなサラサラなもの
企画「ひだまり童話館」の「さらさらな話し」参加作品です。
ぼくが住んでいるのは、明るい森の小さな池。
ぼくはもう手足も出来て尻尾も取れた。そして地上にあがって、ゆっくりノソノソ歩いたり、ぴょんと跳んだりできるようにもなった。
歩いてみたかった憧れの地上。
ぼくは、兄弟のミドリとアオタと散歩に行くことにした。連れだってノソノソ歩いていると、ぼくたちが住んでいる池のお隣にある、広くてきれいな湖に出た。
「うわあ~、きれいだね!」
「ひろいね~!」
「すごいね~!」
ぼくたちの池はちっぽけで淀んでいたけれど、ここは本当にきれいだった。ぼくたちはあんまりにも驚いて心までぴょんと飛び跳ねた。
― パシャン ―
ぼくたちの心が跳ねたみたいな音が、湖から聞こえた。
なんだろうと覗き込むと、誰かが水浴びをしているのが見えた。
なるほど。こんなに綺麗な湖だったら、水浴びもしたくなるよね。ぼくたちみたいな水辺に住む動物じゃなくたって、きっとこの水だったら入りたくなるはずさ。
「あっちにいこうよ」
「そうだね」
ぼくたちは、水浴びの邪魔をしないように静かにしながら、湖のそばにある素敵な木のところに行くことにした。
ノソノソと歩いていたその時、ビューっとすごい風が吹いた。
「うわあ、すごい風だ」
「気をつけて、しせいをひくくして!」
「目にすなが入るよお」
池の中にいたときには風がこんなにすごいなんて知らなかったから、ぼくたちはドキドキしながら風をやりすごした。
その時
― ひゅ~~~~~ペタ ―
風にのって何かが飛んできた。そしてぼくの目の前に落ちてきた。
「あれれ~?これ、なんだ~?」
「へんなの~、これ、なんだ~?」
ぼくたちが森で見たこともないような、目が覚めるような色の何かが飛んできた。それはなんだかすごく興味深かった。
「さわってみようか」
「うん」
― ペタ ―
不思議な感触だった。
「へんなかんじ」
「へんじゃないよ、きもちがいいよ」
「さらさらしている」
「ほんとうだ、さらさらしている」
ぼくたちの体はペタペタしているし、水の中はパシャパシャしているし、こんなサラサラしたものは触ったことがなかった。
「さらさらって気もちがいいね」
「ほんとう、気もちがいい」
ぼくたちは、その変なのに乗っかってみた。
「おや?ここは穴になっているぞ」
アオタがそれの端っこを持ち上げると、穴があいているのがわかった。薄っぺらいなにかだと思ったけれど、穴の中に入れるみたいだ。
「ここにも穴があるよ」
ミドリも他のところに穴を見つけた。
「ここもそうだ」
ぼくも穴を見つけた。
ぼくたちはそれぞれ見つけた穴から、中に入って行った。すると
「あ!」
それの中で、ぼくたちはまた出会った。
「あははは、中はつながっているんだね」
大笑いをしていると、他にも兄弟がやってきた。
「何をしているの?」
「これ、なあに?」
みんなでそれを観察する。このサラサラしたものは一体なんだろう?
だけど、ぼくたちがそれにペタペタ触っていたら、いつの間にかあんまりサラサラじゃなくなってしまった。
「湿ったらあんまりさらさらじゃなくなっちゃったね」
ぼくたちはガッカリして、その変なものの上に座った。
そのまま日向ぼっこをして、いつの間にかグウグウ眠ってしまった。
眠っていたら大声が聞こえてきた。
「パンツ、パンツ!どこだ、パンツ!」
ぼくたちはハッとして飛び起きた。
人間の声だ!
そう思った時には、人間はもうぼくたちのすぐそばに来ていた。そして、ぼくたちを見つけると、さらに大きな声で叫んだ。
「ぎゃー、俺のパンツがああ!」
ぼくたちはあんまりにもびっくりして、そのサラサラの上からピョンと飛び跳ねて、四方八方に散らばって行った。
人間の手が、ぼくたちを掴もうとしていたけれど、ぼくたちは誰も捕まらなかった。
危ないところだった。
草むらに逃げて振り返ると、人間はさっきのサラサラの何かを摘まみあげて呆然と座り込んでいた。
ぼくたちは池に戻ると、あのサラサラについて話した。
「あれは人間のもちものだったんだね」
「穴がみっつあるさらさらなんて、なんかヘンなものだね」
「もう一度さわってみたいね」
あの、なんかへんなサラサラなものは、ぼくたちのお気に入りになった。またあそこで人間が水浴びしていたら、あのサラサラを探してみようと思う。