雛と電話
久しぶりに雛と電話した。
なにせ最近二人とも忙しかったから。
絹ちゃんが、寝た隙に雛が電話をくれた。
「もう、想像してたよりずっと大変、育児。
夜寝ないんだよ、抱っこしてれば寝るのに、下に降ろすとギャーって泣くの。ありえないボリュームで」
「じゃあ、寝れてないんだ、雛」
「うん、よその赤ちゃんはもっと寝るみたい。うちの絹ほど寝ない子っていないみたい。
夜も寝ないけど、昼も寝ないの!」
「はあ、大変そう…
あんたが弱音吐くなんてよっぽどだよね。
私絹に会いたいな…
一日中抱っこしていたい。
私も店をやってなきゃ手伝いに行くんだけど…」
「あ、お姉ちゃん、店どう?」
「ふふ、絶賛難航中。
少しずつ売れる数は増えているんだけど、家賃分が丸々赤字」
「赤字すぎない!?」
「そうだよね…儲からなくていいから、売上で経費だけは賄えるようにしたいよ…」
「そんな考えじゃだめ!
商売は儲けるつもりでやらないと。
ジリ貧になるよ」
「別に儲からなくていい。」
「甘いなあ…
ううっ、商売のノウハウを指導しに行きたい」
「はは、来なくていいよ。
だいたいあんたんとこも最初は赤字だったじゃ〜ん」
「…?お姉ちゃん、なんかいいことあった?」
「は?ないよ、なんで?」
「声が華やいでる気がする」
え…
そうかな?
思い当たることといえば…
お弁当箱…
お弁当箱みたいな顔をした中年男を好きになったことくらい。
もう二度と会えないだろうけど、夜な夜な私はお弁当箱のことを思い出している。
で、キュンキュンしたり、悲しくなったりしてる。
ただそれだけ。
「お姉ちゃん、好きな人でもできた?」
うわ、鋭いなぁ、雛は。
「いや、好きな人はできないけど、この前面白いおっさんに会った。お弁当箱みたいに真四角な顔をしたおっさん」
そのおっさんの昼ごはんを横取りしたことは話さない。
話せるわけがない。
「?どういう人、その人が好きになったの?」
「いや、違う違う。なんとなく気になっただけ。ただそれだけ。
道路工事してるとこ見ただけだし、どこの誰かわかんないし」
「へぇ…珍しい。お姉ちゃんが男の人に興味持つなんて」
「いやいやいやいや、あんまり顔が真四角で個性的だったものだからなーんか印象に残っちゃってるだけだから」
「真四角…
私も年末に見たなぁ…
真四角な顔したおじさん。通ってた産婦人科の前の道で、やっぱり道路工事してた」
「へぇーそうなんだ」
「うん、お姉ちゃんの話聞いて思い出した」
「私の見た人はほんとに真四角な顔してたんだよ?髪はパンチパーマが伸びだたみたいな感じで、目なんかメダカみたいに小さいの」
「うんうん、私が見た人も そんな感じだったよ」
「へー」
「同じ人かな?」
「まさか…東京とここでは離れすぎてる」
「そうだよね…うん、でも…
確かにお姉ちゃんって昔からイケメンとか好きじゃなかったもんね。不細工な実力派俳優を褒めちぎったりしてた。
はあ、ああいう人が好みだったのか〜」
「違う違う」
「あ!ごめん絹が泣き出した。お姉ちゃん、また」
「うん、じゃあ」
電話を切ってから不思議に思った。
はて?
私ったらなんでお弁当箱のことを雛にしゃべっちゃったんだろう。
きっとこれから世話焼いてくるぞ〜
四角い顔した人見つけて私に紹介とか。
ふふ、その中に本物のお弁当箱が混じってたらいいなあ。
んなことありえないよね。あ、私ものんびりしていられない。バイトに行こ。
一日でも長く商売ができるように頑張ってあの家の家賃を稼がなくっちゃ。ね?




