表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1私の狐  作者: 川本千根
第二部
43/51

ほっこりの里

小関さんに誘われて、この家のおばあさんが入所している介護施設を尋ねることになった。


美代さん、と小関さんが呼ぶこの家のおばあさんは完全にボケちゃってるわけではなく、まだらボケの状態だそうだ。


頭がしゃっきりしているときは充分会話が成り立つらしい。


会話が成り立つならちょっと会ってみたいな…と思って、その旨を話したら、じゃあ一緒に行く?と誘われた。


今日は二十個のサンドイッチ全部売り切れた。

しかも一時前に。

5月も後半に入りご近所様に『きつね屋』の認知度が少し上がったのか、あんバタにファンがついたのか、売り切れる日が多くなった。


二十個しか作ってないんだから、売り切れたからと言ってあんまり威張れないんだけど。


二時ちょうどに小関さんがうちに来た。


「繭ちゃん、行こ」と。


私は台所を手早く片付け、自転車を引っ張って小関さんと西通りにある『ほっこりの里』へ歩いて向かう。




『ほっこりの里』からは直接家に帰ろうと思って。

なにせ夕方からバイトがあるもんで。


周りからはお店やってさらにバイトって大変じゃない?って気の毒がられる。


大変には大変だ。

スケジュールが詰まってて。


はは、でも、作るサンドイッチ二十個だからね?

来月からは定休日も設けるし。


ん、あ?

そういえば涼子まだ買いに来てくれてない。

あの薄情者め。


もちろんお弁当箱も来ていない。


チッ。

お弁当箱め。

こんな若い娘…三十になったばかりだからね、まだ二十代の残り香があるはず…に恋い焦がれられてるとは知らずに、今日もどこかでのんきにアスファルト張ってるのかな?

奥さんの愛妻弁当食べて。


奥さんの…


チクリ。


くう、ヤツが奥さんの愛妻弁当たべてるかと思うと胸が痛む。

重症だよ、私。




「繭ちゃんどうした?」


私の仏頂面を不審に想ったの小関さんがが声をかけてきた。


「なんでもないです。結構歩くと歩きでありますね、西の商店街まで。ほっこりの里までは1キロくらいはあるのかなぁ?」


「なに言ってんの。このくらいで」とはっぱをかけられた。


…小関さんって七十代半ばくらいだよね?

元気がいいな、この人

この距離が苦にならないなんて。

私は歩くのあんまり好きじゃないんだよね。


なんか小関さんって私を孫的に扱ってる。

強がってるけど、ほんとは寂しいんじゃないかな?一人暮らし。

なーんて思ってるうちに『ほっこりの里』に着いた。




施設の入り口で、来訪者リストに名前を書いて、アルコールで手を消毒してから、職員さんの案内で私の大家さんの許に向かう。


今の時間は談話室にいるらしい。


…なんか独特の匂いのする廊下を歩き小関さんと談話室に向かう。

私は手土産に柔らかいカステラを選んだ。

カットされ個包装されてるやつ。


ほんとはサンドイッチ持ってきて食べてもらいたい気がするんだけど…

衛生的なことを考えると危険だから。

温度管理ができてないところに置いて時間がたった後食べられて、食中毒とかになられたらお店潰れちゃうもの。




談話室のドアは開きっぱなしだった。

食堂と続いたその空間には大きなテレビが壁にかかっていて、いくつかのソファーや椅子がテレビに向かって置かれていた。

食堂のテーブルでは職員さんが何やら作業をしている。


入り口で職員さんは美代さん、お客さんが、お見えになりましたよ、と声をかけたあと私たちに会釈をして持ち場に戻っていった。


「美代さん」と小関さんが声をかけながらテレビを観ているおばあさんに近づいていく。


小さいおばあさんのそばに行っで小関さんがもう一度声をかけたとき、おばあさんは初めて私たちの方に振り返った。


そして私の顔を見るなり


「あらっ、繭ちゃん!久しぶり」


と言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ