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1私の狐  作者: 川本千根
第二部
39/51

稲荷ずしin弁当箱

稲荷ずしに目が行っていた私の視線はお弁当箱を持つおっさんの手に移った。


汚っ。

爪の周り真っ黒。

いや手全体が汚れている。


うえっこのおっさんキモイ。

なんでお弁当箱差し出してきてんの?

私がそれを食べたがってるとでも思ったの?


知らないおっさんのお弁当なんか食べるわけないじゃん。

バーカバーカと、思う頭と裏腹に私の手はお弁当箱の中の稲荷ずしを鷲掴みしていた。


きゃーなに!自分?!

と思う間もなく稲荷ずしは私の口の中に…


噛みちぎった油揚げの中からほろほろと口内に酢飯が散らばる。


うっ!

うまい…


自分の常識外れの行動を反省する間もなく私は二個目の稲荷ずしに手を出していた。

そして三個目…

四個目…


私が我に返ったのは四個目の稲荷ずしを食べ終えておっさんと目があったとき。


空になったお弁当箱を持ったまま、おっさんは明らかに引いていた。

小さい目が目一杯開かれている。


自分でお弁当箱を私に差出したくせに、まさか本当に私がそれを食べるとは思わなったんだろう。

私も思わなかったよう〜


私、どうしちゃったの!?

むしゃむしゃガツカツといった感じのこの不可解な行動!

ああ、どうしよう…

この人から見れば完全に私は飢えた頭のおかしい女!


とりあえず謝ろう。

そして言い訳しなきゃ。


「あっあの、すみません!私どうかしてました!

お腹空いてた訳じゃないんですけど、なんかあのあまりに美味しくて…」


深々と頭を下げる私をおっさんは無視した。

無視して無言でお弁当箱の蓋を締め巾着袋みたいなのにしまった。


「ちょっ、ちょっと待っていて下さい!私代わりをコンビニで買って来ますから」


そう言って自転車のスタンドを外したとき初めてお弁当箱が声を出した。

正確に言うとお弁当箱みたいな顔をしたおっさんが「いや、いい」と言った。


「そう言うわけにはいきません、少し待ってて」と叫ぶ私に「時間が…もうない」と言って巾着袋を手にお弁当箱はダンプに向かう。


後ろ姿がこのへんな女から早く逃げようと語ってる。


その気持ちはわかります!

だってほんと変だもん、今の私。

けれど私もこのままじゃ気持ち悪い。

肉体労働者のエネルギー源を横取り。多分愛妻弁当を。


二、三歩私はお弁当箱を追いかけたんだけど、あ、じゃあと思い自転車に引き返した。

そしてかごからチラシを一枚取ってそれを手にお弁当箱のもとに駆け寄る。


お弁当箱はダンプの中で休んでいたおじさんにの横に巾着袋を置き「トイレ借りてくる」と声をかけ小学校の方に歩き出した。


私は小走りでお弁当箱を追いかける。


「あのっ、私この近所でサンドイッチ屋をやるんで、良かったら来てください!

土曜日開店なんです。

食べてしまった稲荷ずしの代わりにサンドイッチ差し上げますのでっ」


そう言って手渡そうとしたチラシをお弁当箱は受け取らなった。


しょうがないから緑がかったグレーの作業ズボンの後ろポケットに無理やりねじり込む。


小学校の敷地内に入って行ったお弁当箱に「ほんとにすみませんでしたっ」って声をかけたけど完全無視された。


私はトボトボと自分の自転車を置いてある場所に帰るしかなかった。

私、なんてことしちゃったんだろう。

なんてあんな常識外れなことを…


脇を通ったときダンプの窓が下がり「なんだぁ?トラブルか?」って中にいた人に声をかけられる。


とりあえず「なんでもありません」と答えといた。


う…自分の行動に泣けてくる。

恥ずかしさで。


あの人…

お店に来てくれるかなぁ。


ポケットからもう一度ティッシュを取り出し鼻をかむ。


なんか…

狐につままれたような自分の行動だったな。


一応お詫びはしたわけだし、済んでしまったことはしょうがない。

わ、忘れよう。


とりあえず今日は家に帰って、耳鼻科に行こう。

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