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1私の狐  作者: 川本千根
第二部
36/51

起業

日曜の昼過ぎ、呼び出され自然食のカフェで中学から大学まで一緒だった涼子と会った。


涼子は数少ない私の友達。

先に店に来ていた涼子は私が席に着くと「ねえ、繭、サンドイッチ屋の準備は順調?来週オープンの予定だったよね?」と、訊いてきた。


「うん、来週の土曜日にオープンする予定」と答えたら、涼子は「けどあんたも変わってるねぇ…あんな住宅街でサンドイッチ屋を開くなんて…お客さん来ないんじゃないの?」となんの遠慮もなく正論を吐く。


「はは、はっきり言うねえ。


直くんがチラシ作ってくれたからお客さんを呼び込むために明日からは近所へのポスティングに励むよ」


「そう…じゃあまあ頑張ってね。あ、これ私達からの開店祝い」


そう言って涼子は私に祝儀袋を差し出した。


理子と亜里沙と涼子。

大学時代の友達三人の名前が記入されている。


涼子とはこうしてたまに会うけど亜里沙や理子とは大学辞めてからあんまり付き合いがない。

涼子は二人と仲良くしてるみたいだけど…


なんか悪いなと思いながらもありがたくいただく。


その時店員さんが注文を聞きに来たので、私はメニューを見て一番安いブレンドコーヒーを頼んだ。


しばらくすると私が来る前に注文していた涼子の紅茶が運ばれてきた。


涼子はポットの紅茶をティーカップに注ぎながら「しっかし繭が起業するとはね〜思いもよらなかったわ〜あんたが二年で大学辞めちゃったときにも驚いたけど…大学辞めて調理師学校入っちゃってさ」といつもと同じフレーズを口にする。


涼子は会うたびに私が大学を中退した時のことを話題にする。

涼子にとっては大事件だったみたい。

地味に真面目な私のドロップアウトが。


「繭、大学辞める少し前からなんか変だったもんね…


もしかしてあの時から今のビジョンがあった?

あんたウチらには何にも言わなかったけどさ…」


「うーん、自分でもよく分からないな。


ただサンドイッチ屋さんやりたいなって思い立ったのはやっぱりあの頃かなぁ?

何気なく作った牛肉のサンドイッチが死ぬほど美味しくて、私天才?って思っちゃったんだ。

こりゃ世間の人に食べてもらわなくっちゃって。


本当にできるかどうかはわからないけど、とりあえず調理師の免許取ってお金貯めなきゃとは思ったんだよね」


「私は繭がフリーターになったのも意外だったよ。

ひねてはいたけど基本真面目だったじゃん?繭。

だからちゃんとした店に入って修行するのかと思ってたのに、居酒屋とかテレホンアポインターとかいろんなバイトをかけもちして」


「ね〜?自分でもなんだかなと思った。

でもお金貯めたかったから時給のいいとこ渡り歩いた

修行で入っちゃうとお給料安いし…


いやー親にもネチネチ言われたよ、世間体悪いって

それに自分で国民保険とか払うこと思えば、お給料安くてもちゃんと就職した方が得だって」


「確かにそうなんじゃない?」


「まあね…我が家では雛だけが私の味方だったなー

お姉ちゃんはやりたいこと見つけて頑張り屋さんになったね、私は応援するよ、とか言って」


「はは、雛は姉思いのいい妹だよね。

あ、ねえそう言えば雛の方の事業はどうなの?」


「順調みたいよ?


毎年二割くらいずつ売り上げ伸びていたんだけど去年は二倍だって。

ほら、東アジアが今北欧ブームで、でも北欧の製品高いから、それよりは価格を抑えてるバッグとスカートおそろいの北欧チックな商品がネットですごく売れてるんだって。


雛可愛いからモデルも自分でこなすし直くんがWebデザイナーだらいろんなことが自前でできる。


日本で製造することにこだわっていたから利益率が少なくて最初は苦しかったんだけど、今はメイドインジャパンが品質保証みたいになって海外で売れてるんだよね」


「やり手っぽいもんね、雛」


「うん…何一つ妥協せず手に入れてる。仕事も旦那も子供も。

ほんと、一人前の起業家の顔してるよ、最近は」


「うん…雛が起業するのはわかるんだよ、だけどあんたがね〜

あんたが起業するとは…」


「いや、起業なんて大袈裟なもんじゃないよ…

続けられるかどうかわからないし」


「だね?言っちゃあ悪いけどすぐ潰れそう…」


「涼子ひっどーい!」


「ははっだって私はあんたの黒歴史知ってるからさ、あんたが美味しいサンドイッチ作るとは思えないんだよ。


繭さぁ、世の中の流行りとか人々に支持されてるもの全てに悪態ついてたよ?

ロハスとか自己満の極みだとかオタクキモいとかブログとかやってる人って自分を何様だと思ってるんだろうとか」


「…もぉっ若気の至りと思って忘れてよ」


「いや、私は忘れないよ、あの頃の繭は繭で好きだったし。

ひねた性格のなかにもちょっとだけ独特の可愛さがあった。


ちょっとだけね?ちょっとだけ」


「あ…」


「ん?どうした繭?」   


「いや、何でもない…」


なんだろう、今会話の中になにか懐かしさを感じた。

ちょっとだけを強調した涼子の言葉に。


うーん?前にも誰かに言われたことあったっけかな?

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