白い封筒
今日から大学が始まった
久々に会った友達と夏休みに何してたかなんかを報告しあいながら(私の友達はSNSとか熱心にしてない子が多いから)お茶した
中学の時からの友人涼子が地元で人気のあるハンバーグ屋さんの二割引券を持っているというのでそのままみんなでその店に夕飯を食べに行った
で、今家に帰ってきたんだけど…
家には先に雛が帰ってきていて、私の顔を見るなりハイと白い封筒を渡してきた
「何?これ?」
「環さんから預かってきた」
!!雛!あんた!
「なんか気になっちゃってさ、今日学校の帰りに寄ってみたんだよあの家に」
「私も土足で踏み込んだこと謝りたかったし」
「なんか環さん体調悪くてずっと寝込んでるんだって」
「あの人ほんとに携帯持ってないんだってねえ」
「連絡取り合うの不便だよね?」
雛!余計なことをして…と怒りで体が震えてきた
なにか…
どうにかして雛のお節介に怒りをぶつけてやろうと思うものの適切な言葉が思い浮かばない
「もお〜お姉ちゃんってばそんな怖い顔しないでよー」
「今は怒っていても私のお節介を感謝するかもよ?」
「お姉ちゃんと別れてないって言ってたよ、環さん」
「だからラブレター預かってきたあげたんじゃん」
「お姉ちゃんが言うほど変な人には見えなかったよ…ちゃんと就活もするつもりだし浮気もしてないって」
「プロレス好きだからついじゃれついて技をかけたこともあったけど、そういうのが嫌ならもう二度としないって」
自分の親切な行動に自信がある雛がドヤ顔で一気にしゃべった
「あ、あ、あんた、環さんになんか言われなかった?」
「なにを?」
あんたは俺を見て何も感じない?とか…
「ああ、相変わらずお節介だなって言ってたかな?」
「ね、私はリビングで勉強するからお姉ちゃんはここでゆっくりラブレター読みな〜」
そう言って雛は部屋から出ていった
いや、ほんとは環さんお姉ちゃんの悪口いっぱい言ってたんだけどね
ひねてるだとか、思い込みが激しいとか、努力の方向が間違ってるとか、自意識過剰だとか
ただデコっぱちのところと飯食うときの口もとが可愛くて付き合ってるんだって
ご飯食べてるとこ見るのが幸せってかなり惚れてる証拠だよね
庇護者欲が満足するってことだもんね?ああ、俺こいつに飯食わせてるって
まあそういうことは手紙に書いてあるでしょう
しっかし今どき携帯持ってないって…
くすっ
でも手紙って結構ロマンチックだよね
重みがあるっていうか…
それにしてもなんであの人私のお節介を知っていたかねえ?
確かに過去にも男取り合って喧嘩していた友達に第三の女の存在を教えて仲直りさせたり、ちょっとした誤解からすれ違ったカップルの仲取り持つったりしてきたけど…
さてはお姉ちゃん、私の事色々話していたな、環さんに
正直、ひと目あの人を見たときなんでこのイケメンとお姉ちゃんが?って思ったけど、環さんと話してみたらなんか納得した
あの人まあまあトンチンカンで変
でもどことなく品があって悪い人じゃなさそう
あとは環さんが無職から脱してくれれば…
就職さえしてくれれば私的にはお姉ちゃんの交際相手として不服はないよ
とにかく私の暴走で入ったお姉ちゃんと恋人のヒビが早く修復されるといいな…
雛のお節介が無茶苦茶腹立ったけど、それより封筒の中身への興味が勝った
封筒の表には繭へと達筆で書いてある
流れるような字体
環さんっぽいな…
やだ
せっかく忘れようと頑張っていたのに…
なんだか泣きたくなっちゃうよ
どうしよう、中身を読もうか
それともこのまま捨てようか
捨ててしまったら後で気になって気になってしかたなくなるよね、きっと
ドキドキしながら封筒の上の方をちぎった
震える手で中の便箋を取り出す
書かれているのは別れの言葉だろうか、それとも…
恐る恐る畳んだ便箋を広げるとそこには一言大きく
「貸した金返せ」
と書いてあった
私はちょっと拍子抜けしてしまった
ぽかんと口が開いてしまう
…環さん?いったい今なんの漫画を読んでいるの?
部屋に戻ってきたらお姉ちゃんが脱力している
ときどきふう、とため息ついて天を仰いでる
でもさっきよりほんの少し口角が上がってる気がする
ふふ私が運んだ、ラブレター
仲直りの甘い言葉が書かれていたに違いない
私、グッジョブ!
雛、ほんとに余計なことしてくれた
確かに借りたよ、タクシー代千円
しかし…こんなに複雑な思いで借金の取り立て文を読む人が他にいるだろうか?
でも これ…借金の取り立てじゃないよね
家に来いってことだよね
踏み倒しちゃおうかな
もうあの家には行かないって決心したからね
それにしても環さん、せっかく雛が訪ねて行ったのになんのアプローチもしなかったんだ
私のときは無遠慮に襲ってきたくせに
はあ〜アレですか?
ほんとに好きな相手は大事にしたいというアレ…
それとも
少し私に遠慮してるのかな
一応恋人として付き合ってきたもんね
それなのに元カノ現れたとたんそっちに乗り換えるって、仁義に反すると思ってるのかな
昔の繭さんより私の方が好き…なんてことはないよね?
ないよね?
大恋愛だった雰囲気だったもんね、環さんの執着の仕方
私とは小、小、小恋愛…
はっきり、けじめをつけたいのかもしれない
私とのことを
私は千円を手持ちの淡い黄色の封筒に入れ封をした
表書きに環様と書いて
そっとあの家のポストに入れてこよう
悪いけど、もう会いたくない
怖い
真実と別れを告げられたときの自分の気持ちを思うと…
私は翌日学校の帰りに環さんの家に千円札を入れた封筒を持って環さんの家に向った




