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1私の狐  作者: 川本千根
第一部
31/51

エビフライ

罪の意識からか雛が小さくなっている

家にいる間中


私が環さんと会ってないのをなんとなく察しているみたいだけど前みたいに正面切って聞いてこない

なんとなく自分が原因で環さんと私の仲がギクシャクしちゃってるんじゃないかと思っているみたいで


…原因なんだけどね


特に私はそれを口に出して責めてはいない

けど、雛はいやーな圧を感じているんだろうな…


私は私で雛に訊いてみたいことがある

環さんからなにか働きかけとかないのかってことを


もしなんらかの働きかけがあったら雛はどうするんだろう

雛はあの日環さんに会ってなんにも感じなかったのかな?


ん…まあ繭には直くんがいるからな

雄としての素敵さで言えば全然環さんの方が上だけど


直くんめ

私をこっそりつけるなんてことして…

あんた、いずれ雛に捨てられることになるかもよ?

ふん、自業自得




それにしても我が家に漂う雛の申し訳ないオーラ鬱陶しいな


今日はお母さん夜の講座の講師で呼ばれているし、お父さんもいつもどうり接待があるからか帰ってくるのが遅い。

つまり雛と二人っきり


はあ、気が重い

向こうもだろうけど


いつまでもこの空気の中で暮らすのは嫌だなあ

ここはひとつ、年長者として私から歩み寄るか




私は寝転んでいたリビングのソファーからむくりと起きて雛が勉強している部屋を覗いて声をかけた


「雛、お母さんが作ってくれたエビフライ温めるけど、どうする?あんたのも温める?」と少々無理してほほえみながら


学習机に座って顔だけ戸口に向けた雛の顔がぱっと明るくなった


「うん」



「じゃあ仕度したら呼ぶね」


そう告げて私はキッチンに向かう


お皿半分にキャベツの千切りを盛り付けスチームオーブンで温め直したエビフライを乗せる


冷蔵庫から漬物の鉢やらソースやらを出して、味噌汁の鍋を火にかけたところで雛を呼びに行く


そしてダイニングに戻って炊飯器の蓋を開けご飯をよそう

…おそろいの色違いのお茶碗に

味噌汁をお椀によそってダイニングテーブルに運んだところで雛が来た



「なんか二人でご飯食べるの久しぶりだね」とお茶を入れながら嬉しそうに雛が言った

ほんとに嬉しそうに


その様子に思うところがあった


雛が妹だということは、私の人間形成に大きな影響を与えてきた

けど、この子がいなくても結局私はひねくれものだったんじゃないかな?


この子は私のような姉でも、姉として常に慕ってくれていた

それが今までどんなに私に安心感を与えてきただろう


雛がいなかったら私はもっとひねて暗い人間になっていたかも

そう思うと…

絶対敵わない恋敵でもあるけど、大事な妹でもあるんだよなぁ


ふぅ…

しょうが…ないな…





「雛よ、そのエビフライを一本私によこしたらこの前冒した汝の罪を許そう」


ほんとは許せないけど私は雛にそう言った


「お姉ちゃん!」


あげますあげますと雛は私の皿にエビフライを移した


もぐもぐとそれを速攻頬張りながら「…私店員さんと別れた」と雛に報告する


「えっなんでっ、ラブラブだったんじゃないの?やっぱり私が土足であの家に上がっちゃったから?変な妹のせいできらわれた?!」


「ごめん〜だって、だって!緊急性を感じたんだもん!」と雛が叫ぶ



「いや、あんたは関係ない、潮時だったんだよ…」


「あの人ちょっと暴力ぽいとこあったしさ…お母さんいつも言ってたじゃん暴力振るうような男とは絶対付き合っちゃダメって」


「それに…あの人ニートだし、また働きなよって言っても働いてくれないし…常に他の女の影がちらついていたし」


あ、れ

こんなこと言っちゃったら環さんが雛を口説こうとしたとき不利になるかな

話盛りすぎちゃった


…まあいいや

縁があればきっとくっつく


「そう…なんだ…もったいないね、見た目いいのに」



「うん」


「いくら見た目よくても中身が良くなきゃね…」


「さあこの話は終わり、あんたはとっとっと食べて勉強しな」


「後片付けはやっとくから」


うん、と雛は返事をした

でも首をひねりひねりご飯を食べ、首をひねりひねり部屋に戻って行った


なんか納得してない感じ…




この時、雛のお節介スイッチが入っちゃったことに気づいたのは翌日のことだった

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