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1私の狐  作者: 川本千根
第一部
30/51

9月

9月になって雛も学校が始まったし、私も流石に同好会の冊子に載せる小説書かないとヤバイので、学校の図書館に通った

何せ二週間後が締切だ


その日は偶然図書館で同じ同好会の涼子や理子と会った




「繭よ、あんた8月何してたの?」


「打ち合わせサボりまくったね〜」


「温厚な高田先輩も怒ってたよ」


と理子にやんわり怒られる


「すんません」と頭を下げるしかない


「繭、恋愛説まで出たんだよ、ハハハ」と涼子が笑う


「なぜそこで笑う?」と質問したら「だって…ねぇ?繭は理屈こねてこの世の全ての男に文句たれてくれてなきゃ」と涼子は理子と顔を見合わせた


…そういうイメージなんだ、私も


「ふう…私…8月は大恋愛していたのに…」と言ったら怪訝そうに涼子が「誰と?」と尋ねた


その問いに「狐と」と答える


「あー、繭も映画見たの?お狐様物語」


「かっこよかったもんねえ、お狐様役の風間皇…」


ふうん、そのお狐様の役者に恋したと思ってるんだ 

それならそれでいいけど


「ん?待てよ、あんたイケメン嫌いじゃなかったっけ?」



「別に嫌いじゃないよ、苦手なだけで」


「話しかけられると緊張しちゃうじゃん」



「…えーイケメンって現実社会じゃそんなにいないじゃん、言葉ばっかり多用されて」


ねえ、と言うように涼子が理子を見た


「そうだよ繭、リアルなイケメンに話しかけられたことなんかある?」


と、理子が言う


話しかけられただけじゃなく襲われたことある…なーんて言えるわけないよね


「まっ、ないわな」


「8月サボっちゃったから、これからの美術部との表紙のイラストの交渉とか、実行委員会との連絡とか私がやるよ」



「あ、そう?悪いね、じゃあよろしく頼むわ」と涼子と理子が声を揃えた


「まかせて、まかせて」


やることあった方が気が紛れるからね…

そしてこうしてみんなと話すのも


それにしても私、男にうつつを抜かして仕事も女友達との付き合いもいい加減になるという、セオリーどうりのことしてたな


ふ、あまりにも普通な…


「ぶっ」



「繭?何がおかしい?」と二人が怪訝な顔をした


「いや、なんでもない」と言いつつも私は何だか笑いが止まらなくなった

ゲラゲラ笑う私の耳に「やだ、繭どうしちゃったんだろう」と言う涼子の声が聞こえてくる


すまん君たち、今は私に自分の思い上がりと愚かさを心いくまで笑わせてくれ給え…




9月に入っても夏の暑さを引きずって半ば近くまで夏日が続いた

けれど、夏は終わってしまったことを私の心は知っている


無理してるわけでも強がり言ってるわけでも無く、私の環さんへの気持は日々小さくなっていった

って言うか目が覚めた


あの人人間じゃないし、今までなに夢中になっていたんだろうバカみたい


だいたい神の使いって言ってたのは自己申告であの狐ほんとは妖怪かもしれないじゃん?

言動を思い起こすと妖怪って名乗ったほうがしっくりくるよ

うん、なんか逆に良かったじゃん

妖怪の魔の手から逃れられて


なーんて私は思った


ただ夜、ベットに入るとやっぱりいろんなことを思い出してしまう

あの人ちょっとだけ優しかったな…とかまあまあスケベだったなとか


服を脱がされそうになるというアクティブな始まりかたをした私と環さんのお付き合いは微かで密やかな環さんの視線の揺らぎで静かに終わったんだよね…


ここ最近、眠りに落ちる瞬間必ず思い出す言葉がある


家にいて退屈じゃない、ずっと何してるの?と聞いた私に答えた

「繭を待ってる」と言う環さんの一言


繭を待ってる…


来たね、環さん

環さんが待っていた人…


私はこの悲しい思い出の門を通らなければ眠りにつけなくなっていた

悲しいかな無意識は嘘をつけない




雛が環さんの部屋を襲撃してからニ週間くらい経っている

もう二週間たったと言うべきかまだ二週間しか過ぎていないと言うべきか…


毎日のように私は環さんの家に通っていたのに、急に行かなくなって環さんはどう思ってるんだろう


少しは淋しく思ってくれているのかな

それともほっとしてるのかな…


ほっとしているような気がする

今回はあの部屋にたんぽぽが飾られていることはないだろう

探していた前の恋人に似た人じゃなくて本人に出会えたんだからもう代用品は必要なかろう


自分の妹が、環さんの前の恋人の生まれ変わりだって私が気づいたこと、環さんもわかってるよね?

身を引く私の思いやりにも気づいてくれているよね


環さん、この思いやりはお返しだよ?


雛に会った後、ぐって雛への感情を押さえ込んだあなたの私に対する思いやりへのお返し…


大丈夫、大丈夫

失恋なんてみんな当たり前に経験していることだから

きっと今だって私と同じように悲しみを抱えてベットに寝ている人も多いはず


多分、今現在地球上に一億人くらいは仲間がいるんじゃない?

仲間が…




ははっ、今までこんなこと思ったことなかったなぁ

人と違うことを目指して生きてきたのに…

今はどこかで私と同じように泣いている人がいることに、安心を感じてるよ、私


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