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1私の狐  作者: 川本千根
第一部
27/51

旋風

この話と次の話はお食事の時間を外してお読み下さい。

アピ○から帰ってきた私と環さんはおばあさんにスイカを切ってもらって、三人でそれをお台所のテーブルで食べている


私を追いかけるとき、環さんスイカを道路に投げ捨てたモノだからスイカにはヒビが入ってしまっていたのだけれど、おばあさんからのお小言はなかった


けど私はちょっぴり罪の意識があって一緒に食べましょうと言うおばあさんのお誘いを断れなかった


それにほんとは環さんの元カノの話を聞きたくない私にとって時間かせぎになるしね、こうしておばあさんと過ごすひと時が




台所の背の低い食器棚の上には小さなテレビが乗っていて高校野球が放映されている

今日は決勝戦だ

それにしてもこの大音量…


おばあさんは耳が遠いのでこのくらいのボリュームじゃないと聞こえないらしい

そんな中で環さんはおばあさんと野球の話をしていた

二人とも大声

そうじゃなきゃテレビの音に負けてしまうから


くすっ…環さん、なんの漫画読んで得た野球の知識だろう


それにしても…

常温のスイカ、意外と美味しい

炎天下歩いてきたからかな〜


美味しさに負けて私は少し食べすぎてしまった

よそのお家でガツガツしてはしたなかったかな?と思いながら台所の流しで手を洗わせてもらいその後環さんと二階に上がる




「環さん…私調子に乗ってスイカ食べすぎた、お腹タプタプ…ゴロンしていい?」と、部屋に入ってから尋ねたら環さんは軽く頷いた


遠慮なくソファーの役割も果たす敷っぱなしの昭和の布団に寝転ぶ

私にとってこの部屋はすでにマンションの自分の部屋以上にリラックスできる場所になっていた


この後聞かされるであろう話のことを思うとちょっと憂鬱だったけど、私はいつもどうりの自分を演じた


布団に寝転がった私の横に座った環さんは「繭、好き嫌いが多いだろう」と言ってポンと軽く胸を触る


「うん、まあ」



「怒りっぽいし、胸も小さい」


「…繭は豆類が嫌い?」



「うん…確かに豆腐や納豆は好きじゃないけどそれがなに?」


ん?あ、環さんもしかしてこいつイソフラボン足りてないなーって思った?

だから胸小さいんだなーって?


むかっ

失礼なと腹を立てたその時、寝転がっていた私の目は天井の東南の角に楕円形の限りなく黒に近い焦げ茶の物体をとらえた


その正体はしなやかな細い触覚を小刻みにゆらし歩く、生命力の強い例の虫


「ぎゃ」と短く叫び私は飛び起きた

その瞬間!


何を思ったか例の虫は天井を蹴って羽を広げ私を目指して飛んできた


「きゃあああっ」と最初の叫びとは比べ物にならないくらい大きな声を出し、私はのけぞり尻もちを着いた

私の尻もちで家が揺れた


例の虫は私をかすめ西側の壁に着地するとその壁を下り畳と壁の交わったところをシャシャシャと走った


環さんはその虫を退治してくれようとしてくれている

あろうことか手近にあった私のトートバックで


戸口に向って走るその虫の真上に環さんが私のトートバックを振り上げたとき、今日一番の大声が出た


「何するのっ!止めて!!」


おいっ、殺生嫌いじゃなかったのかっお前はっ

人のバックで何しようとしてんのおっっ


思わず環さんの振り上げた腕にしがみついたその時、部屋の外からドタドタとものすごい音がした

それは階段を駆け上る音 


え?

おばあさん、声を聞きつけて駆けつけてきた?

と、思ったけど違った


ふすまを開けっ放しにしてあった戸口に姿を表したのは雛だった


「お姉ちゃん!!大丈夫?!」


そう言って靴をはいたままこの部屋に飛び込んで来た


私も環さんも驚きをもって雛を見た

私にとっては身内だけど、環さんにとっては初対面の不法侵入者だ


私達が雛の襲来で固まってる隙に例の虫は部屋を脱出した


「あ…あの…すみません」


雛は固まってる私達を見て、急に我に返ったのかそう言って慌てて履いていた靴を畳の上で脱ぐ


「雛…なんであんたここに…」



「え?えっと…あの…たまたまこの家の前の道を歩いていたらこの家からお姉ちゃんの悲鳴が聞こえたもんで、殴られてんじゃないかと思ってつい飛び込んできちゃった…」



「たまたま?!」


こんな住宅街をたまたま歩いているわけ無いじゃん!

絶対私のあとつけてたでしょう!

いったいいつから…


雛のお節介に対する怒りが沸々と湧き上がってくる

怒鳴りつけてやろうかと思った


にらみ合った私達姉妹に割って入ったのは環さんだった


「姉想いの妹だな、これが雛か」


淡々とそう言った環さんはいつも通り無表情

だけど私は環さんがひどく動揺しているのを察した




「殴ってはいない」


「繭は虫に襲われて叫んだだけだ」


淡々とした環さんの言葉に雛の目は点になる


「は?え?あ、そうですか」


そうなの?と探るように雛は私の顔を見た


渋々頷く


続く「虫って…?」という雛の質問に「ゴ○○リ」と答えたる


「私に向ってゴ○○リが飛んできて、そのゴ○○リを環さんが私のバックで潰そうとしたんで…大声出してしまった…んだけど…」


その答えに雛は!!って顔をした


「ごめん…なんかすごい勘違いしちゃって…あのっ、えっと、かっ帰りますっ!お邪魔しましたっっ!!」


そう叫び雛はスニーカーを手にドタドタと階段を降りていった


長い髪を振り乱し、真っ赤な顔をして現れて、真っ赤な顔をして去っていった侵入者


一瞬この部屋に旋風つむじかぜが吹いたみたいだった




雛が出ていった後環さんは今あった出来事…例の虫と雛の襲来を全く無視してさっきの会話の続きを始めた


「繭はカッとなりやすい」


「あんたやっぱり栄養が足りていない」


「物質の補給で解決する心の問題もある」


「脳の栄養不足が原因で悩みや不安を勝手に作り出していることも多い」


「豆に含まれる物質は胸を大きくするだけではなく心の安定にも作用する」


「繭、豆腐や納豆を食え」


「そうすれば心も少しは安定する」


「きっと今ほどキイキイしなくなる」



「は?いっ、いつ私がキィキィしたっ?!私は怒るべきときにだけ正しく怒ってるだけだよっ!」


って私は勢い良く環さんに立ち向かったけれど、この時心の中は絶望でいっぱいだった


だって環さんのほんの一瞬の表情で気づいてしまったんだもの

たった今、環さんが探していた人と巡り会ったことに…





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