ヘッドロック
「グエッ」
十メートルくらい走ったところで追いかけてきた環さんにいきなりヘッドロックをかけられた!
無言で!
ちょっとっ
路上で何すんの?!
環さんは後ろから折りたたんだ腕で私の首を締めている
く…苦しい
環さん本気で技かけてきてる
これこの人の持ち技…
いったいなんの漫画読んで覚えたのっ?
必死で環さんの腕を外そうと力いっぱい引っ張ったけど、外せない
かよわい女子相手に何をするっ
神の使いの風上にも置けないやつめ
みなさーん不審者が出ましたーって叫びたいけど、この炎天下、住宅街の道を歩いている人はいない
その前に声が出ない
道の両側には地味な家が立ち並び、どの家もしんとしている
南の方からアピ○の駐車場から出て来た車のエンジン音がする
でも車はこちらの住宅街には向かって来ないでみんな反対側の幹線道路に出てしまう
遠くで鳴いているセミの声がピタリと止んだとき、この人本気で私を殺そうとしてるんじゃないだろうかとひどく不安になった
次の瞬間ぱっと私の首に絡めていた手を外した環さんは
「帰るぞ、繭」
と言い私の手を引っ張った
ちょっと酸欠に陥っていた私はフラフラと環さんに手を引かれて環さんの家に向かう
…わずか三十秒ほどの私の反抗
短っ
横を歩く環さんは、大きくも小さくもない口を横に引いて、満足気に私を見た
なんか悔しい
コイツ明らかに勝ち誇ってる
「環さん、通行人がいなかったから良かったケド、さっきの環さんの行為は不審者として通報されねかなかったよ?」
「暴力反対!」
私は環さんをうんと責めたけど環さんは私の言葉を無視してとんちんかんな笑顔で私の頭をグリグリと撫でてきた
「ちょ、おかしいっ、圧が!」
力入れすぎだよ!摩擦ではげちゃっう
それにその作り物めいた不自然な笑顔はなに?!
もう、この人って…
ああ、あの漫画…
『ときめきカフェ』にこんなシーンあったっけ
真似して形だけなぞっているから力の加減がわからないんだ
笑って頭撫でれば女の子が喜ぶと思ってるんだな…
この人はこの人なりに一生懸命私の心を満たそうと努力してくれている
そう気づいたらなんだかちょっと鼻の奥がツンとした
…
私も、もっと腹をくくってこの人に、いや、この狐に向き合わなければならないのかも知れない
はぁ…しょうが…ないな、もう
「…聞くよ、私」
「家に帰ってから環さんの元カノの話」
「語りたいんでしょう?その人のことをどんなにに好きだったか」
「私のご好意で環さんのノロケ話聞いてあげるよ」
私が少しおどけてそう言ったら「繭、多分その方が楽になる」と環さんは真顔に戻った
その言葉にそうかなぁ…?と疑問を感じたんだど、私はとりあえず曖昧に微笑んでおいた
もしもし?
あ、雛
頼まれた通りにお前の姉ちゃんのあとつけたけど
アピ○からの帰り道、なんか首締められてたぞ
やばくない?
この前もシネコンで恫喝されてたし
DV男だったりして…
うん、気づかれてない…と思う
え?あー家に入った
アピ○A館とB館の間の道を北に進んで四つ目の角を右に曲がって六軒目、ブロック塀に囲まれた青い瓦屋根の家
うん、そう
俺三時から自習室予約してあんだわ
うん、俺はこれで
じゃあ
今から一時間前、アピ○のスタバーで涼みながら受験勉強をしていた直は、混んでる店内でキョロキョロと席を探す繭に気づいた
お、あれ雛の姉ちゃんじゃん
この前のイケメンと一緒だ
…なんか不似合いなカップルだなー
そう言えば雛が心配してたな
姉ちゃんのこと…
よし、ラインしてやろ
直「アピ○でのスタバーで勉強してたら雛の姉ちゃんキター」
雛「マジ?誰と?」
直「この前のイケメンと」
雛「お願い〜観察して報告して〜」
雛「できれば尾行して彼氏の家もつきとめて〜」
直「は?めんどくさ」
雛「お願い〜お願い〜」
直「お前は娘に初彼が出来た父親かっつーの(笑)」
雛「おーねーがーいー」
まったく雛は…
姉に対して過保護だなあ
ほんと、おせっかいなヤツ
まあそれが雛の良いところでもあり、悪いところでもあり…
はぁ、しょうがねぇーな
直「り」
そして直は二人に気づかれないようにあとをつけて環の家を探り当て雛に報告したのだった
雛は直からの報告を受けて思った
直、いい仕事してくれた
それにしてもお姉ちゃんの彼氏DV男だったとは
そんな男を好きになるような人じゃないと思ってたんだけど…
あの人世間知らずなとこあるからな
あー、やっぱり最初に止めればよかった
会ってみればいいじゃんなんて言ってしまったのは完全に私の判断ミスだ…
うー
この冷房の効いた部屋から35度越えてる外に出るの辛いけど、余計なことするとお姉ちゃん怒るけど…
家だけ、店員さんの家のある場所だけ確かめに行ってみようかな、自転車で




