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1私の狐  作者: 川本千根
第一部
22/51

不機嫌な環さん

環さんは時々説教くさい

言葉の端々にこの未熟者めっていうニュアンスをちょいちょい入れ込んでくる


まあ、確かに私はひねくれた未熟者だからしょうがないけどさ


あとあの人割と気分屋


訪ねて行くとゆるく微笑んで迎えてくれるときもあるけどほとんどのときは無表情


けどこの無表情のなかにもちゃんと喜怒哀楽はある

なんというか目で語るっていうの?


環さんの誤差くらいの感情の起伏を読み取るのには観察眼がいる

それがめんどくさいなぁって思うこともあるんだけど…


さて今日の環さんのご機嫌はどうかな?と思いながら部屋に入ったら、わかりやすくツンツンしてきた


うわ、なんかえらくご機嫌斜めだ…


スキンシップが好きな人だからちょっと寄り添ったりすると空気が変わるので、それを狙って擦り寄っていったら足でぐいっと押しやられた

私は座ったままズリズリと畳の上をすべった


なにこの態度

足で座った女子を押しやるとは何事?


「なんでそんなに怒ってんの?」


「昨日ケンカしたっけ?」



「…」


ほー無視ですか、腹立つ


「おばあさんに言うよ?環さんが狐だってこと」って脅したらちょっと眉をひそめた


そして「根性が悪いな、繭は」と言った


は?どっちが


「ねぇ、なんで怒ってるの?言ってよ」と詰め寄ったら「お前が獣の皮をつけてくるから」と睨みつけられた


獣の皮?

あ…これ?


自分の首元のチョーカーに手をやる

これ確か本革だったな


「へえ…環さん革が嫌いなんだ…」



「動物の毛皮も嫌いだ」


そうなんだ…


「知らなかった、今度から気をつけるよ」


そう言って私は黒い本革のチョーカーを外しトートバックにしまった


はぁ…慣れないことはするもんじゃないな…

今日のブラックジーンズに白のTシャツといういでたちに似合うかと思って付けてきたんだけど…

私らしくもなく頑張っておしゃれしてきたことが裏目に出たよ


あーあ、なんか気分が下がっちゃったな…


「私、今日は帰るね」


「ごめんね、苦手だって知らなかったもんだから」


「考えてみれば環さん神の使いだもんね殺生を感じさせるモン嫌いなんだよね…」


牛肉を美味しそうに食べてたり、まあまあスケベなことしてくるからあなたが神の使いだってことすっかり忘れてましたよ

失礼しましたっ


立ち上がって戸口に向った私に環さんは


「帰って風呂に入り出直してこい」


と言った


カチーン!

なに?その物言い

人を汚いもの扱いして


「いや、いいよ…今日はもう」とふてくされた態度で環さんに対応する


いつもはお昼を作ってもらって一緒に食べるんだけど…

ふんっ

狐よ今日は一人でお昼食べな


女子を足蹴にしたり、上から偉そうに命令した罰じゃ

なーんて…

そんなの罰にならないか…

この人にとって


そんな私の考えとは裏腹に環さんは急にうなだれた


おっ?

少しは反省したか?

ヨシヨシ


と、思ったらうとうとしてやがる


きいっ

客人を前にして


「私、帰るねっ」って声をかけたらはっと環さんが顔を上げた

そして「繭、食べたいものはあるか?」って突然きいてきた


え、何?急に…

さては私が来なくなると困るから食べ物で釣ろうとしているな…

なーんて思い上がりか、ははっ


繭を待ってる…そう言われてからちょっぴり私は思い上がってるかな?


食べたいものか…

そうねぇ


「あ、稲荷ずしが食べたいかな?」


そう言ったら環さんはちょっとぴくっとした


そしてその後『明日作っておいてやる」と言ったので私はきっと美味しい稲荷寿司が食べられると思って次の日いそいそ環さんの家に向かった


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