武装
「雛、雛、あんた繭と喧嘩したの?」とリビングのソファーに寝転ぶ雛に母親が尋ねた
「ううん、してない」
「けど、家に帰ってきてから一言も口きかないんだよ?お姉ちゃん」
「部屋に居づらい、居づらい」
「繭気難しいとこあるからねえ」
「なんか、お母さんにもつんつんしてるんだよ…」
「なに怒ってんのかしらね?」
「あ、ねぇ夕飯お素麺でいい?」
「うーんまあ…いいよ…」
「でもちゃんとおかずも付けてよ?」
「あと薬味に茗荷欲しい」
「あと、服飾系の大学行きたい」
「それはダメ」
「ファッション業界なんてブラックなんだから」
「普通の大学行って普通の企業に就職したほうがいいって」
「そのためには少しでも偏差値のいい大学に行っておいたほうがいい、あんた頭いいんだから」
リビングで母とそんな会話をした後、雛は考え込む
なんとか親を説得する方法がないかなと
それにしても、お姉ちゃん…
雨の中あんな格好で飛び出していったこと怒ってやろうと思っていたのはこっちなのに
なにあの不機嫌?
多分彼氏のとこ行ってきたんだよね
そこでなにかあった?
気になるけど聞ける雰囲気じゃないな
機嫌なおるまで放っておくしかないよね
日が暮れる前に家に帰ってきた私は、雛さえいなければ環さんの家に泊まれたのにという思いに支配され、雛と口を聞く気になれなかった
それにとりあえず不機嫌で武装していれば、雨の中飛び出していったことを検索されずにすむ
…ああ、私なんか別人になっちゃったなあ
一緒にいても、離れていても環さんのことばかり考えている
ほんと、十把一絡げの浮ついた女子みたい
でも相手が人間じゃないから…
そこらへんはの普通の女子とは一線を画してると思う
レアケース、レアケース
ん?まだ普通じゃないことにこだわってる
なんて愚かなんだ
っていうかこのファンタジーな状況を受け入れている自分も不思議だ
はん…
どうでもいい
狐でも妖怪でも神の使いでもニートでも
環さんは環さんだ
もうじき夏休みだから毎日会える…
けど雛も夏休み入ったし、いろいろチェック入れられそう…
それを憂鬱に思う私にとって都合の良いことが起きた
両親が雛に条件を出したのだ
休み明けの定期テストでクラスで一番になったら服飾系の大学への進学を許すという
雛の通う高校はまあまあの進学校だ
国公立や有名私大を目指す者も多い
そのクラスで一番って相当の難題だ
確か今クラスで5、6番くらいのはず…
けれど雛はすごくファイティングスビリッツのある女子
ハートに火がついたみたい
「模試は範囲が広いから無理かもしれない」
「けど、定期テストなら範囲が限られてるから可能性はなくはない」
そんなこと言って猛勉強を始めた
私と環さんへの興味はどこかに行ってしまったようだ
朝も昼も夜も机にへばりついている
…多分お母さんたち、雛もクラスでトップになったら自分の実力に気づき、難関大学に行きたくなるに違いないと思ってそんなこと言い出したんじゃないかな
読みが甘いな
雛はブランドなんか必要としない人間なのに
人として本当の実力があるから
雛…
私はあんたが大手を振って服飾系の大学行けるように応援するよ
大学の試験が終わり夏休みに入った私は雛の邪魔にならないように日中は環さんの家で過ごすことが多くなった
なにせあの人ニートだからいつも家にいる
…神様の使いとしても今休業中なんだよね?
人間の女の子と恋愛したくて仕事サボってるんだよね
ふふっ狐としてもニート
この前「ずっと家にいて退屈じゃない?いつも何してるの?」って聞いたら環さんは
「繭を待ってる」
と言った
シビれた
この一言には
私は生まれて初めて自分という存在が他者に求められてる気がした




