心配
玄関入ってすぐのトイレから出てきた雛は慌てて出てゆく繭の後ろ姿を見た
あれ…お姉ちゃん、出ていったよ
あの格好で…
なんかあの人最近おかしいな、店員さんに声をかけられた頃から
免疫ない人が恋したりするとああなっちゃうんだよね…
ほっといて大丈夫なのかな
相手、ちゃんとした人なんだろうか
ちょっと前までカフェに勤めていて、辞めちゃった人
今は無職なのかな?
うーんやっぱり最初に店員さんに誘われたとき止めればよかったかなぁ
あの時私、面白がっちゃったけど…
雛は姉の出ていった部屋に戻り二段ベッドの上に寝転びスマホをいじった
確かお姉ちゃんの中学から一緒のお友達の涼子さんの連絡先入ってたな
大学でのお姉ちゃんの様子を聞いてみようか…
…まあお姉ちゃんのことだから話してないだろうな〜イケメンの職業不定の彼氏ができたこと
あの人秘密主義者だから
私にも黙ってたわけだし
あんま余計なことすると後で怒られるな
…独自にリサーチするか
と、言っても彼氏下島コーヒー辞めちゃったんだよね
どうやって調べよう?
下島コーヒー行ってみる?
しょうがないよね、それしか手がかり無いんだから
小雨の降る中雛は歩いて下島コーヒーに向った
カウンターで注文したアイスティーを持って席を探す
あ、そういえばお姉ちゃんお気に入りの席があるって言ってたな
確か二階に
二階に上がってロフトのような空間を見て雛は驚く
うわっ何この天井の低さと狭さ
お姉ちゃんよくこんなところで書き物できるなー
私閉所恐怖症だから無理だわ〜ここ
やっぱり私は下に行こう
一階の割と注文カウンターに近い席が空いていたので雛はそこに座った
今は個人情報厳しいから、イケメン店員さんのことお店の人に聞いても答えてくれないだろうな
アイスティーを飲み干して残った氷をカラカラ動かしている雛の耳に隣のマダムたちの会話が入ってきた
「ねえ…最近あの人見かけないわね」
「イケメンの店員さん」
「そうねぇ、辞めちゃったのかしら」
「そうだとしたら残念だわ」
「接客してもらうのここに来たときの楽しみだったのに…」
「店長に聞いてみる?」
この人たち常連さんなんだ…
イケメンの店員さんってお姉ちゃんの彼氏のことだよね?
聞いて聞いてと雛は思った
そこに返却台に置かれた食器を片付けにカウンターから店長が出てきた
「あ、店長」
「ねえ、ここにいたイケメンの店員さん辞めちゃったの?」
「ああ、環くん」
「彼、辞めたんですよ」
「けっこう彼を眺めるの楽しみにしていたお客さんが多くてよく聞かれる」
「なんで辞めちゃったの?」
「さあ…あまり詳しく聞けなかった」
「でも、店の中で彼を追っかけまわす女の子もいたみたいだから、そういうのが嫌になったのかもしれないなぁ」
「後藤さんたちみたいに静かに鑑賞してくれていたらよったんだけど」
「あ、私見たことある、大声出して追いかけてる女の子」
「いやねえ、ああいうの」
「まあ、一時的に何か都合が悪くなったのかもしれないし、もう少ししたらまた彼に働いてもらえないか声かけてみるつもりですよ」
「そうして、そうして!私達復活を楽しみに通うから」
…ふうん、すごいファンがいるのね
ホントに格好いい人だったんだ
お姉ちゃんの彼氏
ふふ、なりふりかまわず夢中になっちゃうわけだ
イケメン苦手〜とか言っていたのに実際は弱かったのね、お姉ちゃん
しかしなぜそんなイケメンがお姉ちゃんに声かけた?
ああ、ほんとに悪い男じゃなければいいんだけど…
うん、夏休みに入ったし、お姉ちゃんが次のデートに行くときに、こっそりつけてみようかな?
そんなことを考えながら雛は店を出た。
繭の通う大学のカフェテリアでは繭の友人たちが話をしていた
「ねえ、今日繭休み?最近よく休むね、テスト前なのに」
「んー、最近ちょっと変じゃない?繭」
「同好会の部屋にもあまり顔出さないし」
「男でもできたとか?」
「まっさか〜」
「繭に限って」
「でも確かに変だよね、いろんなことがうわの空って言うかシニカルなこともあんま言わなくなっちゃったし…私繭の妹に家での様子聞いてみようかな、顔見知りだから」
「よしなよしな、余計な事すると怒るよ、あの子」
「そうだねぇ、気難しいとこあるからね、繭」
「まっ、しばらく様子を見るか」




