黄色
環さんが作ってくれた卵のサンドイッチを食べながら私はこの前見た夢の話をした
卵の黄色が思い出させたし、なんとなく沈黙が照れくさくて
「二人姉妹ってだいたいお揃いのもの持たされるんだよね」
「でもまったく同じじゃあ芸がないから色違いで」
「だいたいピンクか黄色」
「私が黄色で妹がピンク、なんとなくそんなふうに決まっちゃってた」
「でも、私はピンクのが欲しかったな〜」
「まあしょうがない、私ピンク似合わないから」
サンドイッチを食べながら話を聞いていた環さんが急にすっと立ち上がって部屋を出ていってしまった
あ…れ?
私なにか勘に触るようなこと言った?
え、どこがポイント?
環さんが置いていった食べかけのサンドチッチを見て不安に襲われる
あ…
基本男の人は素直でかわいい娘がすきだからなぁ
なのに私ったら愚痴みたいなことばかり言いまくって
聞いてる方も気分悪いよね
…
気分が沈んでいくのに気づいた私はそんな自分を慰めるために心の中で悪態をつく
ふん、なにさ
きっとトイレだよトイレ
もおっ何か一言いって行きなよ!
心遣いなさすぎ
ばか!嫌い!
やっぱり付き合うのOKするんじゃなかったっ
そう思いならサンドイッチを頬張る
ああ、悔しいけどこのタマゴのサンドイッチも美味しい
なんであの人の作るものはこうほっこりしてるの?
本人は冷たい感じなのに
少しヤケになってむしゃむしゃと食べる
私が口いっぱいにサンドイッチを詰め込んで頬袋いっぱいに餌を詰め込んだリスのようになったところで、環さんは部屋に戻ってきた
ちょっとくたびれた黄色いタオルを手に持って
環さんはそれをひょいと私の首に巻き結んだ
「うん…ピンクが似合わないんじゃなくて、黄色が似合う」
「あんた、黄色が似合う」
「だから黄色を与えてもらってたんじゃないの?」
環さんが片方だけ立てた膝に肘を乗せ頬杖ついて私を眺めながらそう言った
いや…こんな工事現場のおじちゃんみたいにタオルを首に巻いた姿を褒めてもらっても嬉しく…ない…
頬袋もパンパンだし…
嬉しくない…んだけど…
なんか、わかんないけど、環さんの視線に頭の芯がクラクラしてきた
次の瞬間崖の上から深い谷底に落ちそうな気がした
ふんばれ私
落ちてしまったら這い上がれない
恋になんか落ちたくない
こんな変な姿で
ただ成り行きで付き合うだけなんだから
この人にとって私はつなぎなんだから
そう思った途端少し悲しくなって泣きたくなった
くそっ、泣くもんか
私はへの字にした唇を思いっきりかんだ
環さんはまじまじと私の顔を見て「変な顔」と言ったあと
「けど、少しだけかわいいな?」
と、微かに笑った
あ…初めて見た
環さんが微笑んでる顔
今までさんざん可愛げがないって言われてきた私の意地張った顔をそんな風に思ってくれるんだ…
ムカつくことに環さんはその後念を押すように
「少しだけな…」
と言い、少しを強調した
「繭、今週の日曜映画見に行こう」
「え、環さん日曜日お店休めるの?」
「店は辞める」
「えっ、なんでっ」
「休みが繭と合わないから不自由だ」
「それじゃあニートになっちゃうよ!」
「お祖母ちゃんが悲しむ」
「いや、俺はただここに住まわせてもらっているだけの居候だから」
え?孫じゃないの
「あまり時間がないから、早く映画に行ってデデニーランドに行って、繭を満足させたい」
あまり時間がない?
…さては一通りの行事をこなしてサッサッと次に行くつもりなんだな、こいつ
やっぱり環さんは探したいんだ
前の恋人によく似た人
よっぽど、好きだったんだろうな
繭さんのとこ
この冷たそうな人にそこまで惚れ込ませるってどんな人?
「俺は仲間内では変わり者とされている」
「人間の女に興味を持つなんて…」
「けれど俺は生まれてすぐ繭に出会って人を好きになるという感情を覚えてしまったから」
生まれてすぐってことはないでしょう?
きっと環さんのお友達には心理学の研究一筋の人が多かったんだろうな
環さんだけが恋愛にうつつをぬかして就活に失敗しちゃったんだ
「こうして再び個としての意識を持ってこの世に戻って来たとき、あの美味をもう一度味わいたいと思った」
「繭、早く俺のことを好きになれ」
「それを現象化継続のエネルギーにする」
…なんの比喩?
恋愛を原動力に論文がんばって書き上げます…みたいなことかな?
「その代わり俺も繭を好きになるように努力する」
繭を好きになるように努力する?
努力…する
今現在、私のことを好きなわけじゃないんだ




